「OBD2」接続対応のカー用品を愛車に取付けて、便利に活用しているカーオーナーは少なくない。しかし中には、ネット通販などで何となく選んで入手したものを使用し、トラブルに見舞われてしまった人もいるようだ。
本記事の前半では、OBD2の基礎知識を紹介。後半では、OBD解析のプロ集団として、業界内で知られる株式会社テクトム 富田直樹代表取締役へのインタビュー取材で知り得た、OBD2接続対応品のメリットや注意点について貴重な情報をお届けする。
車載ECUとOBD2
そもそもOBD2は、クルマの排気ガスによる大気汚染対策のために、排ガス制御機能の検査・モニター用として開発された。車のエンジンを制御している「ECU:Engine Control Unit」の内部に搭載された “ 故障診断機能 ” として、開発当初は「OBD1:On Board Diagnosis first generation」と呼ばれていた。
自動車メーカーごとに異なっていた通信規格や故障コード、接続コネクタの形状などが共通化されたことで「OBD2:On Board Diagnosis second generation」にバージョンアップ。日本では、2008年10月以降に生産された車両をはじめ、2010年9月以降から販売されている、輸入車を含む全ての新車にOBD2の取付が義務付けられている。
最近のクルマには、自動ブレーキなど高度な先進安全運転システムが搭載されているが、これらを電子制御しているのは「ECU:Electronic Control Unit」だ。前述したエンジン制御のECUとは異なるもので、断線やセンサーの機能異常などで不具合が生じると、その情報をECUに自動記録する仕組みがある。
ECUは1個ではなく、エアバッグ、パワーステアリング、トランスミッション、エンジンなど、1台の車両には数十個ものECUがある。一部の高級新型車では、すべてのECUを合わせると100個を超える中央処理装置「CPU:Central Processing Unit」が搭載されているという。1個または複数のCPUで、ECUが稼働しているためだ。
OBD2接続が必要になる場面
具体的な例を上げて、OBD2接続が必要になる場面を説明しよう。
走行中、愛車のメーターパネルに赤色の「エンジン警告灯(エンジンチェックランプ)」が点灯したとする。この警告灯は、エンジンにトラブルが起こったときなどに点灯・点滅するもので、無視してそのまま走行すると、エンジンが焼きつくなど大きな故障を引き起こす可能性がある。こういった状況に直面したら、まず速やかに安全な場所に停止しよう。DIYで解決しようと考えるドライバーもいると思うが、愛車を預けているディーラーや整備工場に電話して相談するか、ロードサービスを利用するのが安全だ。
車両を預かったメカニックは、警告灯が点灯した車両のOBD2コネクタに「スキャンツール」と呼ばれる、プロ用の高額で高性能な故障診断機を接続する。このスキャンツールで、ECUに記録された情報を読み取り、故障コードから原因を特定して修理を行う流れとなる。
OBD2接続を行う場面は、もうひとつある。カーオーナーがDIYで、簡易的な故障診断機を使用したり、マルチメーターやレーダー探知機など、OBD2接続に対応するカー用品を取付けるときだ。
最近のOBD2接続対応品は、スマートフォンやタブレット、ディスプレイなどを「表示端末」として活用するタイプが多く、それらにOBD2アプリをインストールして、車両のOBD2コネクタに挿しこんだOBD2アダプタと通信(Bluetooth、Wi-Fi)する仕組みだ。なお、有線ケーブルタイプの商品もある。
OBD2コネクタの設置場所については、車種によって異なるが、運転席のハンドル下やアクセルペダル付近などにあるので、一度、愛車で確認してみてほしい。
このほか、2024年から開始される「OBD車検」についても触れておきたい。国土交通省は、故障診断装置を活用したOBD車検を、2024年から開始するにあたって、これまで議論してきた、対象車、制度、技術面の詳細や今後の方向性についてまとめた最終の報告書(車載式故障診断装置を活用した自動車検査手法のあり方について)を、2019年3月13日に発表。国土交通省のWebサイト内で報告書を閲覧できるので、詳細が気になる方はぜひご覧頂きたい。
OBD2の基礎知識は前述した通りだ。続いて、OBD2接続で得られるメリットや注意点を教えてくださった、株式会社テクトムの富田直樹代表取締役について紹介したい。
OBD解析の専門家 テクトム 富田直樹代表取締役の経歴
ソフトウェア技術者でコンピュータのSE(システムエンジニア)をしていたクルマ好きの富田氏は、車のコンピュータ・チューニングが流行していた1989年に、26歳の若さで起業。日産『スカイライン GTS-4』を新車で購入し、エンジン制御を徹底的に解析して技術力を磨いたというエピソードをもつ。
2002年12月、テクトムで開発・発売した、OBD2接続対応のデジタル燃費計『燃費マネージャー(FCM-2000)』がテレビなどで紹介され話題に。翌年には「東京発明展」で東京都知事賞を獲得し、燃費に関心があるカーオーナーを中心に幅広い層へと認知が広がった。
創業31年目となる2020年3月現在は、OBD解析のパイオニアとして、自動車用品の開発販売や、データ分析などのコンサルティングのほか、テレマティクスサービスやEV充電関連事業などに注力。これまでに国土交通省や自動車メーカー、大学、研究機関からオファーを受けて事業を展開しており、四半世紀以上にわたってOBD解析に取り組む「カーエレクトロニクスのスペシャリスト」として信頼できる存在だ。
「OBD2接続」のメリットや注意点を聞く!
以降では、テクトム 富田直樹代表取締役から教えて頂いた、OBD2接続のメリットや注意点などをインタビュー形式でお届けする。OBD2接続対応品でのトラブルを回避するために役立つ重要なヒントを得られるはずだ。
―― 編集部
数年前から、OBD2接続対応のカー用品が増えています。人気の理由はどういった点だと思いますか?
―― 富田氏
やはり、接続の手軽さでしょう。本来、車両から1つの情報を得るには、その都度、センサー等への配線が必要となります。それが、OBD2コネクタに挿しこむだけで簡単に接続できて、ECUが把握している複数の情報を、リアルタイムでそのまま「見える化」できるようになった。これはとても画期的なことです。
―― 編集部
愛車のメーターパネルで、基本的な情報は確認できますよね。OBD2接続を行うことで、より詳細な情報を把握できる、ということですか?
―― 富田氏
その通りです。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、たとえばメーターパネルの水温計は、通常時より水温が上がってきても、すぐには針が動かない設計になっているんです。だから、オーバーヒート直前まで針があまり動きません。目でわかるほど動いたとしたら、手遅れかもしれない状態。OBD2接続でエンジン水温をチェックできれば正確に温度を把握できます。予めセットされた水温で警告音を鳴らす商品などを利用すればオーバーヒートを回避しやすくなるでしょう。
車内のインテリアとして、存在感がある商品もありますね。運転時間や走行距離、ブースト計など様々な情報を、OBD2アプリでグラフィカルに表示できたり、後付のメーターパネルのデザインを気に入って、愛車に取り付けている若いドライバーも増えているのではないでしょうか。
運転1回あたりの燃料コストを把握できたり、アイドリング時のガソリン消費量を表示できたりと、低燃費なエコドライブを実現したい方に役立つOBD2接続対応品も登場しています。燃費を意識した運転は、交通事故の防止につながるという情報もありますので、目的に合わせて、商品を探してみて下さい。
―― 編集部
様々な商品があることはわかったのですが…。OBD2接続対応のカー用品を取付けて、バッテリーが上がったという情報を耳にしました。商品のクチコミでもよく見かけます。これについては、どう思われますか?
―― 富田氏
バッテリー上がりの原因は、OBD2接続の電源の仕組みが関係しています。車体から電源を取得する「電源端子」が曲者で、基本的に常時電源となります。
―― 編集部
常時電源でも、エンジンを切れば、OFFになりますよね?
―― 富田氏
そう思われがちですが、OFFにはなりません。運転者が降りて駐車中でも、常時電圧がかかっています。
キー連動「ON/OFF」機能がある商品を選ばないと、エンジンを切っても、OFFにならずバッテリーが上がってしまいます。OBD2コネクタに差し込むだけのタイプは「ON/OFF」制御が難しいのです。他のキー連動端子から信号を取得し、エンジン停止で「OFF」にする方法もあるのですが、それだと配線が難しい。DIYで対応するのは大変でしょう。ネット通販の商品画像や商品概要を見ても「ON/OFF」機能があるのか、わかりづらい場合もあります。そういったときは、商品レビューをしっかり読んで、バッテリー上がりが指摘されている商品は要注意です。
―― 編集部
なるほど。ユーザーレビューのチェックは必須ですね。
―― 富田氏
車両の電源についても、お伝えしておきましょう。車両電源は様々な電装負荷によってノイズが含まれている、いわば「汚い電源」なのです。
ディーラー対応品であれば、ノイズを処理できる対策が行われているのですが、未対策の商品も流通しています。そういった商品であっても、5年使える場合もあれば、取付けたその日や、1~2週間後などに故障するケースも少なくありません。
あと、OBD2接続対応のカー用品を取付けている愛車を、ディーラーや整備工場に預ける際には、事前にOBD2コネクタから取り外しておいたほうがよいでしょう。整備や修理時に使用される「スキャンツール」は、OBD2コネクタとの接続が必要になるからです。ちょっと手間に感じるかもしれませんが、取り外しておいた方が何かと安心だと思います。
―― 編集部
具体的なアドバイスをありがとうございます。OBD2接続対応のカー用品選びに役立つ情報ばかりで、とても勉強になりました。
※今回取材にご協力頂いた株式会社テクトムのOBD2接続対応品については、同社のWebサイト(www.techtom.co.jp)でチェックできる。