『わたびき自動車工業』の名を知る読者は、生粋のクルマ好きに違いない。同社は、1918年(大正7年)に、東京都千代田区麹町で「綿引エアーブラシ塗工場」として事業を開始。わたびき自動車工業の看板を掲げたのは1963年(昭和38年)からで、1984年(昭和59年)に現在の本拠地である埼玉県戸田市に工場を開設する。ロールスロイス、ベントレー、ジャガー、アストンマーチン、ポルシェ、メルセデス、BMW、マセラティ、ロータスといった、高級輸入車の鈑金塗装を数多く手掛け、特に塗装技術の高さで知られている。同社で34年間、塗装工として奮闘したのち、自動車関連ライターとして活躍した故・中沖満氏の著書を読んで、わたびき自動車工業の存在を知った人も多いだろう。現在は、先代社長(現・綿引倫夫会長)から事業を引き継いだ綿引大介社長を中心に、職人たちが数々の名車を高品質に仕上げている。◆ 2年前の出来事「現場第一主義。多少埃っぽくても、技術があれば良い」。その思いを貫きながら鈑金塗装の技術力を武器に、高級輸入車や希少なクラシックカーのレストアを手掛け続けるわたびき自動車工業だったが、2年前(2018年)のある出来事がキッカケで、考え方が変わる。ポルシェディーラーの協力工場として、わたびき自動車工業に、テュフ ラインランド ジャパン(テュフ)の監査員が訪れたのだ。テュフとは、公平・公正に中立的な立場で、鈑金塗装工場の審査を行う国際的な第三者機関。ポルシェに限らず、国内の輸入車ディーラー(BMWミニ、アウディ、フェラーリ、ベントレー、ジャガーランドローバー、 GM、VW)の鈑金塗装工場監査の一部を担当している。監査では、埃っぽくて暗く、整理整頓が行き届いていない点などが指摘され、それらは職人たちの健康や品質、作業効率に大きく影響することを痛感。同時に、アルミニウムのボディを採用する高級輸入車の鈑金塗装を行う自社として、より安全で高品質な仕上げを行える環境と設備を整える必要性を感じた。このとき基準にしたのは、テュフが独自に設けた200以上の監査項目。アルミニウムやスチール素材の自動車修理に必要な設備や品質レベル、工場で働く職人たちの環境や法令遵守などについて、細かい項目をひとつ一つクリアしなければならなかった。工場内の整理整頓や設備導入を行い、約半年の時間をかけて基準を満たし、テュフ「ゴールド認証」を取得した。さらにその3ヶ月後、テュフ「クラシックカーガレージ認証」も取得。クラシックカーのレストアや修理・整備などを行う工場に対して、11カテゴリー150項目以上の基準に基づいて監査が実施される認証だ。最も得意な車種を「認証適用範囲」として設定する必要があり、わたびき自動車工業は、ポルシェ356、911(901)となっているが、幅広い輸入車・国産車に対応できる。クラシックカーガレージ認証は、自動車メーカー「マツダ」、輸入車ディーラー・ヤナセのグループ会社「ヤナセオートシステムズ」、民間の整備工場「郷田鈑金」、トヨタ系ディーラー「ネッツトヨタ富山」が取得しており、わたびき自動車工業の取得で5社目となった。「新社長となり、ようやく1年。テュフ認証を取得してこれからがスタートだと思っています。法令尊守、工場管理、品質レベルなど多岐に渡って証明されたことにより、お客様に安心・満足・安全を提供できる『良い工場』の見える化ができたと思います。今回の認証取得は、単に技術力の評価だけでなく、法人として、当社が最高のレベルにあることを示すものと考えております。これを機に従業員一同、より一層技術の向上に励み、皆様のご期待に応えられるよう頑張ります。 旧車レストアだけでなく、以前から新型の輸入車も対応しておりますので、国産車も含めて、安心して愛車をお預け頂ければ幸いです」綿引大介社長が、テュフ認証授与式の場で口にした言葉の中には、わたびき自動車工業の誠実さと、強い自信を感じた。◆ 本当に信頼できる「プロショップ」に出会えるように国土交通省が2020年3月に発表した統計情報によれば、整備工場(自動車分解整備事業の認証工場)の数は91,623軒。膨大な数だが、自動ブレーキなどが搭載され、ボディの素材も変わって修理が難しくなっている最近のクルマ(ASV)や、趣味性が高く部品の入手も難しい旧車も、しっかり整備・修理できるプロショップは限られている。そのことを知らず、事故時に損害保険会社が手配してくれたところに、そのままお願いしているカーオーナーは少なくない。本当に信頼できるプロショップ選びに役立つのが「テュフ認証」だ。2020年7月上旬時点で、198の自動車修理工場がテュフ認証を取得。具体的には、BMWの認定鈑金塗装工場やヤナセグループの鈑金塗装工場、大阪トヨタ自動車、函館トヨペットの修理工場も取得している。テュフ認証をひとつの目印として、愛車を預ける工場を探してみてはどうだろうか。
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