8月26日(金)、テュフ ラインランド ジャパン株式会社(横浜市都筑区北山田4-25-2/ジェニー・ペティット代表取締役社長)は、有限会社ティークラフト(愛知県岡崎市大樹寺2-17-3/田中郁雄代表取締役)が運営するポリバンスプラスチック溶接トレーニングを「プラスチック溶接エキスパート認定トレーニング」として認定したことを発表した。その前日の25日(木)には、ティークラフトで認定証の授与が行われ、編集部も取材にお邪魔した。
クルマの進化に応じて、修理技術も高度化する中で、特にプラスチック溶接技術の普及と技術者へのサポートの重要性を実感する取材となったので詳細をお伝えしたい。
ポリバンスのプラスチック溶接
今回の認定の背景を理解する上で、まずは「ポリバンス」について触れておきたい。ポリバンスは米国に本社を置く自動車修理産業やDIY向けのプラスチック溶接ツールおよび溶接ロッドのトップメーカーであり、現在使用されている素材の95%以上に適合するプラスチック溶接ロッドを世界最大規模で取り扱っている、いわば“プラスチック溶接におけるガリバー的企業”だ。
認定証の授与に先立って行われたポリバンスに関するブリーフィングには、米国本社からカート・ラモン社長も駆けつけ、プレゼンテーションが行われた。
1981年にポリウレタンバンパーを修理するためのエアレスプラスチック溶接機を開発して以来、最高品質のプラスチック溶接機と溶接ロッドの製造に注力し、2006年にはプラスチック修理の最新技術革命であるNitro-Fuzer窒素プラスチック溶接機を発表したことで、他の方法では修復不可能なプラスチック部品を修理することが可能になったことなどを中心に、同社の歴史や事業概要、プラスチック修理マーケットに対する思いをカート社長自ら熱い言葉で語った。
技術者へのトレーニングと日本での展開
ポリバンスは、米国においてメーカーでありながら、プラスチック修理の教育プログラムを確立している唯一の企業でもある。トレーニング組織は、米国の教育プロバイダーであるASE-ATMCの認定、トレーニングコースはI-CAR Industry TrainingAlliance®プログラムによってそれぞれ承認されている。
カート社長がプレゼンテーションで語っていた通り、ポリバンスはプラスチック修理を機軸としながら、それに携わる技術者をトレーニングという形でサポートし、プラスチックマーケットの健全な普及、拡大に取り組んでいるのが大きな特徴である。
そのポリバンスの日本における販売および技術トレーニングを担うのが、冒頭で触れた田中郁雄氏が代表を務める有限会社ティークラフトである。同社は愛知県岡崎市で自動車の鈑金・塗装・エクステリア・インテリアカスタム・整備・車検・コーティングを中心に、自動車販売・買取なども行っているプロショップだ。
田中社長がポリバンスのプラスチック溶接の技術を知ったのは2019年頃で「鈑金塗装をやっていて、修理もなかなか大変な時代に入ってきたと感じる中で、一生懸命技術を上げても業界が盛り上がっていないと感じる部分がありました。そういう中で、ポリバンスのプラスチック溶接を初めて映像で見た時に、まだ私も技術はありませんでしたが、“これはすごいものだ”と感じました。日本でもこういった技術が広まれば、業界も盛り上がり、自動車アフターに携わる人の生活が豊かになると感じ、ポリバンス側にアプローチを重ねました」と話す。
田中社長の熱意もあり、今や日本はポリバンスの輸出先の中でもトップとなるまで市場が広がったそうだ。
またティークラフトでは、日本でのトレーニングを前述したアメリカのポリバンスと同様に、質の高い実践的な形で提供している。受講者が製品を安全かつ効果的に使用して、収益性を高められるようにしていることで、カート社長を始め、米国のポリバンスから全幅の信頼が寄せられている様子が取材でも伝わってきた。
第三者機関による技術トレーニング認定の意味
話を今回の認定に戻そう。今回の認定は、冒頭でも述べた通り、第三者検査機関であるテュフ ラインランド ジャパンが、ティークラフトのポリバンスプラスチック溶接トレーニングを「プラスチック溶接エキスパート認定トレーニング」として認定したものだ。また、トレーニングを受け、プラスチック溶接に必要な知識、技術を有した技術者を「プラスチック溶接エキスパート」としても認定する。
テュフはこれまで、国内における自動車アフターマーケットにおいて、鈑金塗装工場におけるプラチナ/ゴールド認証やクラシックカーガレージ認証など、工場に対する認証は行ってきたものの、いわゆる技術トレーニングに対しての認定はあまり行っていなかった。
しかし「人」に対する教育の価値が増す中で、国内でもペイントメーカーの技術トレーニングや部品商社のエーミングに関する技術トレーニングに対して認定を行い始めており、今回のティークラフトの技術トレーニング認定もその流れの中にあるものと言える。
ティークラフトの田中社長も、認定証の授与を受けた後のコメントで「現在、外装部品、エンジンパーツまでもがプラスチック素材に置き換えられる中で、鉄製部品と同じように補修時には確実なプラスチック溶接技術が必要となるため、今回の認定により、技術者様へのサポートがより充実できることを嬉しく思います」と述べている。
クルマの進化のスピードは著しく、修理や整備の高度化もさらに進んでいくことは間違いない。加えて環境性能の向上も求められる中で、樹脂の利用は増え、結果として樹脂補修の価値は今後確実に上がる。そのような背景の中でこのようなトレーニング、またその先の技術者に対して、中立的な第三者機関がお墨付きを与える意味は大きい。今後のプラスチック修理技術の普及と技術者の増加に期待したい。