SDSがない商材はNG…カーディテイリングをはじめ自動車アフターマーケット事業者の義務と課題「新たな化学物質規制」への対応 | CAR CARE PLUS

SDSがない商材はNG…カーディテイリングをはじめ自動車アフターマーケット事業者の義務と課題「新たな化学物質規制」への対応

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SDSがない商材はNG…カーディテイリングをはじめ自動車アフターマーケット事業者の義務と課題「新たな化学物質規制」への対応
  • SDSがない商材はNG…カーディテイリングをはじめ自動車アフターマーケット事業者の義務と課題「新たな化学物質規制」への対応
  • 古館代表が発明した『トラップネンド』は1987年に特許を取得。鉄粉除去の定番アイテムとして、37年以上前から日本をはじめ世界各国で販売中
  • ジョイボンド株式会社 古館忠夫代表
  • 厚生労働省は「職場のあんぜんサイト」で、労働災害統計やGHSのシンボル、危険有害性を表す会表示などを公開中。右の画像はSDSのサンプル
  • ウルトジャパンは「PSHE」を掲げ、求められるニーズを満たしながら安心・安全も実現するコーティング剤などを提供
  • ウルトジャパンのサイトでは製品のSDS情報検索が可能。「洗浄剤」で検索したら3つの商材がヒットし、SDSを確認できた
  • 一般社団法人 日本オートケミカル工業会の理事長を務める、株式会社プロスタッフ 廣瀬德藏代表取締役社長
  • 厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査」概要から抜粋

洗車、ヘッドライト磨き、ボディコーティングといった「カーディテイリング」は、車両の長期保有や中古車ビジネス、さらにADAS (先進運転支援システム)の正常稼働の面でも重要性が増している。一方で、施工者の労働安全や自然環境保護への対応に遅れがあり、特に小規模な事業者は危機意識の薄さや理解の低さが指摘されている。

「新たな化学物質規制」による義務

日本では、化学物質を原因とした労働災害が年間およそ450件発生し、化学物質のばく露に関連したがん等の遅発性疾病も後を絶たない。そこで厚生労働省は段階的に労働安全衛生法を改正し、2024年4月1日から「新たな化学物質規制」を導入した。

指定されたリスクアセスメント対象物を製造・取扱・譲渡提供する事業者に対して「化学物質管理者」と「保護具着用管理責任者」の選任が義務化された。対象物にラベル表示や安全データシート(SDS)の通知・管理、労働者へのリスク周知、リスクアセスメントの実施などの義務も負う。国連で制定されたGHS分類で危険性・有害性が確認された全物質を段階的に追加し、2026年4月には約2,900の化学物質が規制対象となる。

環境保護先進国ドイツと日本の違い

環境保護先進国のドイツに本社ある国際的な第三者検査機関で、鈑金塗装工場の監査・認証を行うテュフラインランドジャパン株式会社の坂田秋也氏(ピープル&ビジネス・アシュアランス事業部 シニアセールスエグゼクティブ)は、ドイツの “ 洗車 ” 事情を例に挙げて日本との違いを述べる。

ドイツでは環境汚染リスクを避けるため、一般家庭での水洗い洗車が禁止されており、環境基準を満たした洗車場利用が一般的。日本で販売可能なカーシャンプーやコーティング剤でも、海外では環境基準により流通が困難なケースは少なくないという。坂田氏は、日本の自動車アフターマーケット事業者は何かが起こってから対応する後手体質であり、労働安全対策への投資意識も低いことに警鐘を鳴らす。

わかりづらい化学物質の「怖さ」

粘土クリーナー『トラップネンド』を発明・販売し、国際ディテイリング協会「IDA」から日本人で初めて「Hall of fame(殿堂入り)」の称号を受賞したジョイボンド株式会社の古館忠夫代表は、危険性がわかりづらい化学物質の怖さにもっと目を向けて対策を講じるべきだと注意喚起する。

古館代表が発明した『トラップネンド』は1987年に特許を取得。鉄粉除去の定番アイテムとして、37年以上前から日本をはじめ世界各国で販売中
ジョイボンド株式会社 古館忠夫代表

かつて洗浄剤などに含まれていたフッ酸(フッ化水素酸)は、皮膚に付着して数時間後に激しい痛みがあり骨まで溶かすほどの毒物で、現在は安全な代替品が普及したものの、業務用製品の取り扱いは厳重な注意と保護具の使用が必須。ひとり親方や小規模な事業者こそ、正しい知識を身につける勉強の場が必要だと、古館代表は呼びかける。

またジョイボンドの加藤美男取締役は、販売元の当然の義務として、製造メーカーから通知を受けたら速やかに代替原料に置き換え、商品ボトルの絵表示対応やSDS交付を行っていると話す。保管面でもSDSは重要で、危険性がある化学物質を含んだ業務用製品を取り扱う事業者の責任は重いと強調した。

厚生労働省は「職場のあんぜんサイト」で、労働災害統計やGHSのシンボル、危険有害性を表す会表示などを公開中。右の画像はSDSのサンプル

安全性を第一とするメーカー

洗浄力の高さやツヤ感の持続性をアピールするカーディテイリング商材が多い中、ドイツ発祥のウルトジャパン株式会社は生産性・安全性・健康・環境の4要素を統合した独自ビジョン「PSHE」を2022年から提唱。自社カーケア・ブランド『Loseil』では、フッ素・溶剤フリーでありながら撥水効果(素滑水)を維持できるコーティング剤をリリースしている。

ウルトジャパンは「PSHE」を掲げ、求められるニーズを満たしながら安心・安全も実現するコーティング剤などを提供

同ブランド製品開発担当の小林拓也氏(エンジニアリング サービス プロジェクトグループ部長)は、高い洗浄力やツヤ感にはフッ素や溶剤が必要との考えがいまだにあり、価格の安さやベテランの経験値に頼る傾向が強いなど、業界の課題を指摘。これからは、性能と安全性を両立して特定の施工者に依存しない平準な品質を実現できる製品がスタンダードになっていくと断言した。

オートケミカル業界団体の責務

施工者の安全と自然環境保護の対策は、複数の製造メーカーが共通の認識で取り組む必要性がある。

自動車用化学製品の製造・販売を行うメーカー49社が参画する一般社団法人 日本オートケミカル工業会(JACA)は、2025年度事業計画に勉強会の実施を盛り込み、今年11月に初開催する。

「一般向け製品はラベル表示やSDS交付義務の対象外ですが、業務用は、労働安全衛生法に基づきリスクアセスメントを実施する必要があります。JACAでは、専門家を講師として招き、恒久的に勉強会を企画・実施していく考えです」と、2025年5月から理事長に就任した廣瀬德藏氏(株式会社プロスタッフ 代表取締役社長)は話す。業界団体として責任感のある行動や取り組みが期待される。

一般社団法人 日本オートケミカル工業会の理事長を務める、株式会社プロスタッフ 廣瀬德藏代表取締役社長

SDS交付の現状

厚生労働省の「令和6年 労働安全衛生調査」で、SDS交付対象の化学物質を製造または譲渡・提供する事業所のうち、全製品にSDSを交付している事業所は81.4%だった。2026年4月1日施行の改正労働安全衛生法では、SDS交付の通知義務違反に罰則が設けられる(公布後5年以内)。この動きを知らない事業者は意外と多いのではないだろうか。

SDS交付の通知義務違反は、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という、罰則規定が設けられる

ディーラーが示す「SDS必須」の流れ

数年前から、メーカー系ディーラーはSDSがない業務用製品は購入しない動きがあるとの情報もある。実情を知るべく、2025年10月に開催された自動車業界向け展示会で、ヘッドライトクリーナーやコーティング剤などを出品していた事業者に話を聞くと、自社はSDSを用意しているが同業他社ではSDSがないケースもあると答えた。また、同展示会と同時開催の小中学生向け整備体験イベントに協力した地元ディーラーにも質問したら、特に塗料は必須でいずれにせよSDSがない業務用製品は購入しない決まりがあり、おそらく他のディーラーも全国的に同様だろうと話していた。

「新たな化学物質規制」がより厳しくなるのは2026年4月だが、事業規模に関わらず、業務用の洗浄剤やコーティング剤、塗料などを取り扱う幅広い自動車アフターマーケット事業者は、早急に自社の化学物質管理やリスクアセスメント対応状況を確認し、労働災害を未然に防ぐために体制の見直しや必要な対応を行うことが望まれる。

《カーケアプラス編集部@金武あずみ》

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