コーティング前の「洗浄」からこだわる…磨研の流儀 | CAR CARE PLUS

コーティング前の「洗浄」からこだわる…磨研の流儀

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コーティング前の「洗浄」からこだわる…磨研の流儀
  • コーティング前の「洗浄」からこだわる…磨研の流儀
  • 汚れきったボディが、自社開発の除去剤3種の使用で、磨きをせずにキレイな状態に
  • あらゆる細部の研磨に対応できるように、延長シャフトパーツを用意

クルマの長期保有化が進む今、美観維持やボディ保護を目的としたコーティングへの注目度は高い。

このような背景から、ディテイリングショップはもちろん、ディーラー、ガソリンスタンド、さらに整備・鈑金塗装工場でもコーティングメニューを用意するケースが増えているが、品質を左右するのはコーティング前に行う下地処理の磨き(ポリッシング)だと言われている。

磨きは、コンパウンド(研磨剤)でクルマの塗装面に微細なキズをつけ、そのキズをより細かくして平らにする作業を指し、凹凸をなだらかにすることでキズが目立たなくなる。

磨き作業には、ポリッシャー、パッド、バフ、コンパウンドといった研磨ツールが必須。複数メーカーから数多くの関連製品が販売されており、基本セットはすぐに揃えられるが、特に重要なのは研磨ツールの組み合わせと言われている。もちろん研磨技術の習得も必要であり、独学で試行錯誤している一人親方の事業者は少なくないようだ。

そこで、一般向けのディテイリングサービスやプロユースのケミカル品開発・研磨ツール販売・実技講習なども行う、株式会社磨研 専務取締役の高崎康弘氏に、クルマの磨きや研磨ツールなどについて話を聞いた。

クルマ美装のニーズが高い、東北の地で開業

高崎氏が在籍する磨研は、東北の喜多方市に本社を構える。このエリアでは除雪対策の融雪剤(塩化カルシウム)散布や路面散水の影響で、クルマが汚れやすくサビの誘発につながるため、下廻り洗車や防錆塗装のニーズも高い。

この地で高崎氏は、23歳からディテイリング業に従事。専門スクールで基礎を学んだのち一人親方として独立し、27歳からはディテイリング事業者集団の一員として、磨きやコーティングに限らず、ルームクリーニングやカーフィルム施工、下廻り防錆に至るまで幅広く対応。施工実績を積み重ねていく中で疑問や壁にぶつかり、解決策を模索する中で、オリジナルのケミカル開発を検討するようになる。

2013(平成25)年8月に、代表取締役の後藤隆志氏と高崎氏とで磨研を設立。自社の提案に快く協力してくれるメーカーの賛同を経て、プロ向けのケミカル開発や研磨ツールのカスタムパーツ開発販売、実技講習も行っている。起業から10年目となる現在は500にのぼる全国の施工店と取引があり、自社商材の導入事業者からフィードバックを受け、調整や改良、新商品開発につなげているという。

下地処理の「洗浄」からこだわる

コーティングさえすれば、ボディを美しく保持できると考えるのは間違い。まず重要なのは下地処理時の “ 洗浄 ”。その次の手段として “ 磨き があり、最後にコーティングがあると高崎氏はいう。

「喜多方や会津の一般道路は消雪パイプから散水される、あれが厄介。サビ水のためボディの水ジミになり、そこに融雪剤をかぶると黄ばみます。走行時は虫やピッチタール、ブレーキダストなども付着し、放置すると洗車では落ちません。市販のスケール除去剤を使えば落ちますが、強いものだとコーティングまで落ちてしまう。この状態から粘土やクリーナーで擦って鉄粉を除去するやり方は時間がかかり、ボディのキズが増えて艶がなくっていきます。更にここから磨きをかけると塗装が薄くなり、これを繰り返すと車体にダメージを受けやすくなる」と問題点を指摘する。

このようなやり方に昔から疑問があり、コーティングを落とさず汚れを溶解して除去する洗浄用ケミカルの開発に注力。現場経験を踏まえ、特定の汚れに特化した改良を行って開発した11種の洗浄剤シリーズ品(Killer's)を完成させた。同シリーズ品の3種(水ジミスケール除去剤、ピッチタール除去剤、クレンジング/虫取り樹液除去)を使えば、塗装を傷めずに大概の汚れを除去し、艷やかに仕上げられるという。

汚れきったボディが、自社開発の洗浄剤3種の使用で、磨きをせず、キレイな状態に

塗装の状態をみて、必要なら「磨く」

磨研の考え方として、コーティング前の下地処理として行う「洗浄」で汚れが落ちない場合や、キズが目立ったり、車齢が長くキズが多い中古車は、磨きを行う。新車であっても、長期在庫で保管状況が悪ければ塗装に汚れやキズがあるため、塗装の状態をみて必要なら、磨く考えだ。

高崎氏は、磨く前の基礎知識として、塗装の違いを知っておくべきだと念を押す。塗装は自動車メーカーごとに異なり、コストダウン目的で最初から塗装が薄いもののあれば、高級車だと何層も塗り重ねられ塗膜が厚かったり、キズが入っても自己修復する塗装もある。国産車と輸入車の塗装の違いも大きく、カーオーナーの乗り方、駐車状況、ケアの仕方で塗装の状態がかわってくる。今後、新しい塗装が登場することも踏まえて、プロとして常に情報収集することは必須。塗装に関心を持ち続け、施工前の状態と求める品質のために、どこまで磨くかしっかり考えて研磨するのが大切だと話す。

その上で、研磨ツールの組み合わせの重要性に触れた。

「塗装の状態に合わせて、段階的にさまざまな研磨ツールが必要になります。マッチングを取るために、ポリッシャー、パッド、バフ、コンパウンドを変えるのが一番理想的ですが、プロでも混乱しがちです。ポリッシャーひとつとっても、シングル、ギア、ダブルと違いがあり、振り幅(オービット径)の違いで仕上がりスピードも変わる。無数の組み合わせがあり、その都度、仕上がりが変わります。その奥深さが面白い」と話したあと、作業効率やコストに言及。

こだわりが強い施工者ほど長時間作業による筋肉負荷が大きく、数限りない研磨関連ツールを揃えることも現実的ではない。それらを踏まえて、塗装の調整から最終仕上げまで1機種で行えるダブルアクションの研磨システムツール(MAKENカスタム21 D/Aポリッシャー125φパッド仕様)を提供。また、最近のクルマは細かい部分が増え、キワを手磨きで仕上げるのは時間を要するため、カスタムパーツとして回転グリップつきの延長シャフトを用意し、施工者の作業効率向上を提案している。

不要な「隠ぺい物」を減らした水性コンパウンド

コンパウンドに関しても、磨研では独自の考えがある。一般的なコンパウンドは、つや出し効果や磨きやすさが重視されており、アルミナ粒子と一緒に、光学樹脂ポリマーやシリコン、ワックスといった油脂成分や潤滑油などの物質が含まれている。

この点について、高崎氏は「早くキレイに仕上がったと思いがちですが、実は粒子以外の“隠ぺい物”がキズを埋めているだけ。磨き後に、この隠ぺい物が徐々に流れ落ちてバフ目やキズが浮き上がるトラブルが発生するケースがあります。またこの隠ぺい物が残っていると、コーティング剤がはじかれて塗装に密着しずらいデメリットもあります」と言い、磨研では、油脂などの隠ぺい物を水分に置き換えた、水性コンパウンドを開発。水性のため高熱で貼りつく点に注意が必要だが、「水っぽいのに粘質もあり粒子分散も良く、液の飛び散りや粉も少なくしています」と高崎氏は話し、多くの施工店から好評を得ているという。

通常は、調整と仕上げでコンパウンドを変えるのが一般的だが、磨研では、1本だけで対応できる設計だ。「粗さが違う3タイプ(39/69/99)があるのですが、まずロングウールバフに中間の粗さのコンパウンド69で研磨し、バフ目の出方で塗装の硬さ、柔らかさを判断できます。キズが入りやすければ塗装が弱く柔らかいので39を、キズが見えない場合は硬い塗装のため99を選べば良い、ということです。バフは変える必要がありますが、どう効率化し、どこを省き、シンプルにしていくか。それが一番大事になってくる」と高崎氏。施工者が悩まずに磨けるシンプルなコンパウンド開発に注力したという。

磨研の商材は、同社サイトで事業者登録を行えば、受発注システムを利用して自由に購入できる。購入後の不明点などはスタッフが電話対応で説明してくれるが、伝わりづらい場合もあり、有料講習を受付けている。「ディテイリング事業者はネットで情報収集していると思いますが、きちんと学ぶ時間がなく一人で悩みながら施工しているケースが多い。そういった方のサポートになればと、講習をはじめました。使いやすいツールが見つかっても、デリケートな塗装の仕上げは簡単ではありません。講習の場で一緒に施工作業を行うことで、磨きの理屈を理解して頂ければ、その後はスムーズに施工できるようになる」と高崎氏は言い、自身が一人で試行錯誤していた時代があったからこそ、施工者をサポートしたい気持ちが伝わってきた。

最後に高崎氏は、自社オリジナルのコーティング剤があるものの、洗浄と磨きのクオリティが高ければ、どのようなコーティング剤を選んでも良いと言う。ただし、コーティングは無敵ではない。定期的な手入れは必須で年1回は本格的なメンテナンスをしないと、美しさは持続できない。コーティングとはそういうものだと、しっかり顧客に伝えることが大切だと、話していた。

《カーケアプラス編集部@金武あずみ》

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