3月15日~17日に東京ビッグサイトで行われた、国際オートアフターマーケットEXPO2017。様々な企業や団体が参加し、展示ブースやセミナー会場は多くの人で賑わい盛況のうちに閉幕を迎えた。幅広いテーマで開催されたセミナーの中には、クルマ好きにとって興味をそそられる内容のものも多かった。中でも筆者の印象に残ったセミナーを紹介したい。◆ブレーキ業界のいま登壇したのは、ブレーキ部品製造大手の曙ブレーキ工業の福岡正樹氏。同社は、F1チームへのブレーキ供給をしていることでも知られる、世界的にも有名なメーカーだ。テーマは『ディスクブレーキパッドの安全点検活動について』。現状の事実確認から市場変化の分析、現場での実験や調査などをもとにした内容だ。サブタイトルには『今がチャンス!』という文言が使われ、お客さまへの安全・安心を提供するためのブレーキ点検を実践することにより、商売に繋げられるというのが主題である。その結論に至る理由が、このセミナーのキモであり、今どきのブレーキ事情を紐解くカギとなる。冒頭、ここ10年の自動車部品売上の伸長率について触れ、ディスクパッド(いわゆるブレーキパッド)は83.7%と大幅な落ち込みを見せていることを解説した。部品総計でも90.1%ということから考えても極めて低水準で、アイドリングストップ車の普及などにより、120%以上の伸びを見せるバッテリーと比較すると対照的なデータだ。◆なぜ、ブレーキパッドが売れない?この背景には、ハイブリッド車の登場と広がりがある。ハイブリッド車には、回生協調ブレーキが採用されており、一般的にブレーキパッドがあまり減らない機構だ。通常のブレーキは、ブレーキペダルを踏んでいれば、ブレーキの温度が上がり、成分が分解されてパッドが摩耗する。これに対して、回生協調ブレーキはモーターの抵抗で減速し、停止際だけパッドを使うので温度が上がらない。温度が上がらないので、当然パッドも減りづらく、ユーザーにとってはありがたいシステムだといえる。その昔、教習所に通っていた時のことを思い出すと、長い下り坂ではフットブレーキだけで下りると危ないからエンジンブレーキを併用するようにと習った記憶がある。今考えると、ブレーキが熱を持ち、フェードやベーパーロックという現象が起き、ブレーキが効かなくなるからだとわかる。ただ、これがハイブリッド車になると、温度が上がらないので、理屈上はフェードやベーパーロックは起こりづらくなる。それは、実際に走り終えた直後のクルマのブレーキキャリパーの温度でも体感できるという。ハイブリッド車が珍しくなくなり、教習所の話も今は昔、時代は変わったようだ。また、ハイブリッド車に加えて、俗に「ワンペダル」と呼ばれる機構を持ったクルマも登場している。日産ノートに搭載されたe-POWERというシステムなどがそれにあたる。本来は回生発電のためのものだが、アクセルワークだけで減速ができる機構のことを指す。アクセルを戻すだけで、ブレーキがかかり停止もする。環境や安全性にとっては良いことだが、ブレーキ屋さんにとっては悩ましいところだと思う。これらのクルマが急速に普及することにより、なかなかブレーキパッドが減らなくなった。当然、交換する頻度は少なくなりブレーキパッドの売上は減少しているというわけだ。◆ブレーキもコンピュータが制御するさて、ここから先が今回の話の核心。ここまでの流れのままいくと、『今がチャンス』という要素は一切ない。どこにチャンスがあるのかが、後半のお話になる。少し難しい話になるが、最近のクルマはコンピュータで様々な制御がなされていることは、何となく想像がつくところだと思う。今回のテーマであるブレーキに関しても例外ではなく、『ESC』や 『EBD』というシステムが多くのクルマで採用されている。ESCは横滑り防止装置で、横滑りを感知すると、各車輪に適切にブレーキをかけて、クルマを理想的な進行方向に修正、維持するものだ。一方、EBDはABSの安全性をより高めるための機構で、その時の乗員数や積載重量などにあわせて、ブレーキの配分を最適に制御する。要するに、クルマが勝手にブレーキの効率を良くしたり、クルマの挙動を安定させてくれるものだ。実際に乗っている時に、このシステムが作動していることに気づく人はほとんどいないだろうし、せいぜい乗り心地が良くなったとか、運転しやすいような感じがすると思う程度だろう。◆コンピュータ制御がもたらすモノブレーキをコンピュータで制御することによって、どんなことが起こるのか?というのが最も大事なところ。コンピュータで制御することで、四輪のブレーキがそれぞれ効率的で適正な仕事をするようになる。これによってもたらされるのが、『リヤ』のブレーキが消耗することだ。乱暴な言い方をすると、その昔はフロントブレーキが全体の8割以上の仕事をしていて、リヤのパッドやライニング(ドラム式ブレーキの摩擦材)はほとんど減らなかったのだ。こういった機構の採用が拡大して、車種によってはリヤのディスクパッドの消費が3年で4倍になったものもあり、ひと昔前とは違った様相を見せている。曙ブレーキが実車を使用した実験でもその傾向は顕著で、サーキットの走行実験でも、フロントよりもリヤのブレーキの方が高温になるという、今まででは考えられなかったような結果が出ている。それだけ、リヤブレーキに仕事をさせているということだ。また、ユーザーの使い方でも大きく変わることも実証されている。例えば、高速道路中心の使い方であれば、距離が多くてもそんなにブレーキを踏むこともなく、パッドそのものがあまり減らず、リヤ側が減ることはまずないというのがこれまでの常識だった。ところが、高速でもカーブが多い区間では、クルマの挙動を安定させるため、コンピュータが勝手に判断してリヤブレーキに負荷を負わせるようになる。つまり、距離や年数、顧客の話だけで判断するのは難しくなり、一台一台、丁寧な現車確認が必要になってきているというわけだ。◆なぜ、いまがチャンスなのか?苦戦が続くブレーキ業界にとって、丁寧なブレーキ点検が現状打開の大きなカギになるのは理解ができたが、なぜ今なのか?ハイブリッド車などの次世代車の普及が進んだとはいえ、それもまだ全体の保有の10%にも満たない。もちろん、今後その割合がどんどん増えるのは世の流れだ。一方で、ESCは段階を踏んで義務化されていたり、EBDを標準装備とする車両も増えている。それらのクルマが、初回や2回目の車検を迎えるのがこの時期になるのだ。正に、『今がチャンス』である。クルマの保有台数が減っていく中、いかにして生き残るか。そのヒントの断片が見られた気がした30分だった。
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