ブレーキを踏んだ時にどれだけのストローク量があるのか、その硬さは重さ。そのブレーキタッチと呼ばれる部分をチューニングすることもできる。それによって実はブレーキが驚くほど使いやすくなる。
ブレーキはペダルを踏むとマスターシリンダー内部のピストンを推し、ブレーキフルードを押し出す。イメージとしては注射器と同じでペダルを踏むとフルードが押し出されていく。そのフルードが4輪のブレーキキャリパー内にあるピストンシリンダーを押し、そのピストンがパッドをローターに押し付けることでブレーキが効く仕組み。ブレーキタッチのこの数多くの部分が関わってきている。それだけブレーキタッチを改善するためにチューニングできる箇所も多い。
まず大前提として実はブレーキペダルはストローク量は少ない方が操作がしやすい。一般的に考えればストローク量が長ければそれだけ調整幅がありそうなものだが、あまり踏むストローク距離が長いと足もズレていってしまう。ある程度ペダルに重さがあって踏み込んで行くストロークは短いほうが操作しやすいのだ。レーシングカーではまさにこのようになっている。
ナンバーなしの本格的レーシングカーでは倍力装置やブースターと呼ばれるものが付いていないことが多い。これは市販車にはほぼ間違いなく付けられているもので、エンジンの負圧を使ってブレーキペダルを踏んだ力を増幅する装置。これがあるから軽く踏んでも止まるのであって、倍力装置がなければとんでもない力で踏み込まないと止まらない。レーシングカーはまさにこの状態なのだ。
その理由は例えば、10kgの力で踏んだ時にABSが入るブレーキペダルと、100kgの力で踏んだ時にABSが入るブレーキペダルがあるとする。足の繊細さには限りがあるので軽いペダルは簡単にABSが入ってしまう。
対する100kgのペダルは力が必要がゆえに、その調整範囲が広い。足が1kgごとの力で踏み分けられるとしたら、軽いペダルは10段階だが重いペダルは100段階でコントロールできるのだ。だからレーシングカーは倍力装置なしで重いペダルにしておいて、ギリギリの領域のコントロールをしやすくしている。
ならば市販車でも倍力装置を外してもいいのだが疲れる。また、とっさにブレーキが必要なときに腰が浮くほどの力で瞬時に踏まないと急ブレーキにならない。サーキットではブレーキポイントに向けて準備して踏むから良いが、街乗りでは危ないのである。
そこでペダルの重さはそのままにペダルタッチをシャープにすることで、ブレーキを扱いやすくしようというのが今回のチューニングの狙いなのだ。
ペダルタッチチューン1:ブレーキフルード
ブレーキペダルを踏んだ力をキャリパーピストンに伝えるのがフルードの役割。高温になっても沸騰しにくい液体でできていて、この粘度などによってペダルタッチが変わる。純正フルードからスポーツフルードに変えるとペダルがカチッとする傾向にある。最新のABSに対応したCLASS6と呼ばれるフルードは、これまでのスポーツフルードに比べるとややタッチが柔らかい傾向にある。
ペダルタッチチューン2:ブレーキホース
フルードがキャリパーに圧力を伝える途中で、ボディの金属パイプからキャリパーまでの間はサスペンションのストロークとともに動かなければならないのでゴムホースを使っている。このゴムホースが伸縮することでペダルタッチが柔らかくなってしまう。そこでゴムホースの周囲を金属メッシュで覆ったメッシュホースにするペダルタッチがカッチリとする。
ペダルタッチチューン3:パッド
摩材自体の硬さもペダルに伝わってくる。スポーツ走行向けのパッドは摩材も硬く、ペダルタッチも硬くなる傾向にある。メーカー内でも好みに合わせてペダルタッチが異なるいくつかの摩材を用意していることもある。
ペダルタッチチューン4:マスターシリンダーストッパー
ペダルを踏んだ時にバルクヘッドに取り付けられたマスターシリンダーごと微妙に動くことでペダルタッチが柔らかく感じることがある。特に旧車ではバルクヘッドの剛性が低いので感じやすい。そこでマスターシリンダー自体を補強したり、タワーバーから伸びるステーで支えることでペダルタッチがよくなるもの。ペダルの剛性感アップに効果的。