年始の1月10日(金)から12日(日)までの3日間、千葉県の幕張メッセで開催された世界最大級のカスタムカーの祭典「東京オートサロン2025」。
幕張メッセをカスタマイズされたクルマが華やかに埋め尽くす光景は圧巻であると共に、近年では多くの自動車メーカーが新車発表を行う場としてオートサロンを位置付け、その注目度は年々上がっており、今年の来場者数は3日間で25万人を超え、大盛況のうちに幕を閉じた。
そんな今年のオートサロンを、電動化時代における“内燃機関(=エンジン)が果たす役割の進化とその可能性”という視点から、トヨタおよびマツダのプレスカンファレンスを中心に振り返ってみたい。
2025年モリゾウの10大ニュースに2000ccエンジンの話題
トヨタは、TOYOTA GAZOO Racing(以下、TGR)として、会期初日にプレスカンファレンスを実施。当日は“モリゾウ”こと豊田章男代表取締役会長が登壇して行われる予定も、体調不良により急遽欠席となり、GAZOO Racing Companyの高橋智也プレジデントと、元テレビ朝日のアナウンサーで現在はトヨタ社員の富川悠太氏らが代役を務めた。
カンファレンスは「2025年モリゾウの10大ニュース」を紹介する形で進み、2位には「2000ccエンジンが走り出した!」の文字が躍り、会場が沸く場面も。この“2000ccエンジン”こそ、昨年の東京オートサロン2024でモリゾウ氏が「エンジン技術についてもっと磨きをかけるプロジェクトを社内に立ち上げた」と発言し、話題となった“ガソリンエンジン”の答えである。
TGRブース内に展示されたこのエンジンは「G20E型2リッター直4ターボエンジン」とのことで、2025年のスーパー耐久シリーズにおいて実戦投入されることも発表。これらの技術が市販車にどう応用され、その先のアフターマーケットにどのような影響を及ぼすのか。引き続きアップデートを続けるという今後の開発に注目だ。
エンジン開発をあきらめない…走る歓びを追求し続けるマツダの決意
トヨタのカンファレンスの約30分後に行われたのが、マツダのプレスカンファレンス。トヨタと同様にマツダも昨年のプレスカンファレンスで毛籠勝弘代表取締役社長が「カーボンニュートラル時代に向けた課題をブレイクスルーするため、エンジン方式の垣根を越えた広い技術的視座と最先端の内燃機関技術、そしてマツダ得意のモデルベース開発の使い手として鍛錬を積んだエンジニアたちが再結集し、社内にロータリーエンジン(RE)開発グループを新設します」とサプライズで発表し、一躍話題となった自動車メーカーの1社とあって、今年のカンファレンスにも多くの注目が集まった。
カンファレンスには、昨年に引き続き毛籠社長が登壇し、ロータリーエンジン開発グループのその後について「RE開発は順調に進んでおり、最難関だった北米の排ガス規制をクリアするロードマップも手に入れることができました。手ごたえを感じています」と言及。加えて今後の商品・技術開発については「カーボンニュートラル時代においても、マツダは内燃機関、エンジン開発をあきらめません。特に、カーボンニュートラル燃料が現実味を帯びてくる中で、内燃機関は不可欠な技術です。私たちは2022年よりバイオ燃料やe-fuelを使って実証実験を行い、既存の燃料と比べると70%~90%のCO2の低減効果があるとされています。このように新しい時代に適合した走る歓びを提供するため、これからも努力を続けてまいります」と決意を述べ、会場からは拍手が起こった。
毛籠社長の発言は、逆説的ではあるが、エンジンの進化もカーボンニュートラル時代へ対応していく選択肢の1つであると示している。新しい時代に適合する“走る歓び”を追求すると表明した、マツダの今後の内燃機関へのアンサーが出る日もそう遠くはないはずだ。
ロータリーエンジン搭載のカスタムカーが並ぶ「ロータリーエキシビジョン」
少々堅い話はこれ位にして、エンジンに関して、カスタムの祭典であるオートサロンらしいブースもご紹介したい。メーカー各社のカンファレンスから会場へと目を移すと、来場者の注目を集めるブースを発見。過去のオートサロンでも編集部が取材したことのある【ロータリーエキシビジョン】ブースだ。【ロータリーエキシビジョン】とは、世界のロータリーチューニング業界の活性化を目的に、2020年の東京オートサロンで発足。出展スペースを使い、世界に向けた発信を行っている。発起人は“カスタムチューニング界の神”ことRE雨宮の雨宮勇美氏で、運営はトータルロータリーチューニングプロデューサーの伊藤笑会が行っており、ブースとしての出展は今回で5回目となる。
ちなみに、同ブースに出展されていたクルマは、オートサロンだけあって個性的なカスタムが施されているものばかりなのだが、カスタムに厳密な決まりは無いそう。ただし、唯一“ロータリーエンジンを搭載している(もしくは搭載予定)”という点において共通項を持っている。ブース内の出展にあたっても、基本的にはロータリーエンジンを積んでいることが前提なのだという。
なお、編集部ではロータリーエキシビジョン出展者の中に、これまでサバンナのスポーツワゴン、通称“サバゴン”やロータリーシャンテなど個性的なクルマを数多く出展してきた長野県岡谷市の株式会社郷田鈑金の駒場豊社長の姿を今年も発見した。
今回、駒場社長が出展していたのは「ロータリーキャロル」。駒場社長に話を聞くと「シャンテを作ってから、次に何をやるかを考えた時に、普通のクルマじゃつまらないな、と。そこで昨年同様、ロードスターにキャロルをくっつけたら面白いんじゃないかと(笑)自由な発想でカスタムしました」と笑顔で話してくれた。なお現在はナンバーは付いていないものの、これまでのRX-3やシャンテ同様、車検を通すべく、アップデートを続けていくという。取材中に、過去にキャロルに乗っていたという来場者が「え?これがキャロル?」と目を丸くしていた姿が、今回の駒場社長の自由な発想でのカスタムの意味を物語っているように思えた。
電動化/カーボンニュートラルと内燃機関の関係は、一見すると相反するように思えるが、内燃機関(エンジン)が果たす役割の変化と進化により、共存できるという道標が自動車メーカーから示されつつあることが今回のオートサロンでは感じられた。そんな中で、トヨタはもちろん、特に“エンジン開発をあきらめない”と力強く表明したマツダの姿勢に敬意を表すと共に、また来年のオートサロンでもワクワクするような報告が聞けることを楽しみにしたい。