ドライブ中の暑さ対策に効果的な遮熱やUVカットなど、多彩な機能性と高級感あふれるデザイン性を兼ね備えるリンテック株式会社の自動車用ウィンドウフィルム「WINCOS AUTOMOTIVE FILMS(ウインコス オートモーティブフィルム)」は、カーフィルム施工などを専門に行うカーディテイリング事業者を中心に認知度があり、品質の高さで定評を得ている。
同ブランドを展開するリンテック株式会社(東京都板橋区本町23-23/服部 真代表取締役社長)が、今年3月に東京ビッグサイトで開催された自動車アフターマーケットの国際展示会『第20回 国際オートアフターマーケットEXPO 2023(IAAE 2023)』に出展。この際、自動車用ウィンドウフィルムではなく、ADAS(先進運転支援システム)搭載車のエーミング作業関連ツールとして開発中の「ミリ波帯電磁波制御シート」をアピールしていた。
なぜ、自動車用ウィンドウフィルムではなく、エーミング作業関連ツールを訴求していたのか。開発の背景や、ミリ波帯電磁波制御シートの特徴、今後の展望などについて、リンテック株式会社の事業統括本部 事業開発室 係長の布施啓示氏に話を聞いた。
リンテックは粘着関連製品の総合メーカー
はじめに、リンテック株式会社の事業内容を紹介したい。同社は1927年(昭和2年)にガムテープの製造・販売を手がける「不二商会」として開業。包装用ガムテープの量産を国内で初めて開始し、1960年代から現在の主力製品であるシール・ラベル用粘着素材の生産・販売をスタート。1970年代から建物用や自動車用のウィンドウフィルムや看板・広告用フィルム、ラベリングマシンなど産業用途向けの粘着製品の開発・生産を行うようになり、1986年にUV硬化型ダイシングテープを開発して半導体関連事業に本格参入。1990年に四国製紙株式会社、創研化工株式会社と合併し、リンテック株式会社に商号を変更した。現在はシール・ラベル用の粘着紙・粘着フィルムをはじめ、ウィンドウフィルム、屋外サイン用粘着シート、内装用化粧フィルム、自動車用粘着製品、半導体関連粘着テープ、光学ディスプレイ関連粘着製品などの開発・製造・販売を行う粘着関連製品の総合メーカーとして知られている。
新発想開発ブランド「Welsurt」を2022年に立ち上げる
その同社がこれまで培ってきた固有技術(粘着応用技術、表面改質技術、特殊紙・剥離材製造技術、システム化技術)と新たなテクノロジーを融合させることで次世代に向けたソリューションを創出し、多岐にわたる環境課題や社会課題の解決をサポートするために、新発想開発ブランド「Welsurt(ウェルサート)」を2022年に立ち上げた。例えば、自動車の自動運転や通信、介護といったテーマでのソリューションの開発を進めており、今年3月開催の『IAAE2023』で出展した「ミリ波帯電磁波制御シート」は同ブランドの開発製品のひとつだった。
今回お話を伺った布施氏が所属する事業開発室では、新発想開発ブランド「Welsurt」を展開するにあたり、同社の各事業部門が有する固有技術を横展開することを主眼とし、情報通信(5G/6G)・エレクトロニクス、自動車、環境、ライフサイエンス、エネルギーといった分野において、社会的課題の解決と自社の持続的成長の両立を見据えて、新規事業開拓に取り組んでいるという。
「ミリ波帯電磁波制御シート」開発背景
「Welsurtブランドには、当社の長期ビジョン『LINTEC SUSTAINABILITY VISION 2030(略称:LSV 2030)』と連動した2030年のビジョンがあり、5G通信やSociety5.0といったスマート社会への貢献を前提として、自動車の自動運転分野に関連する電磁波制御技術に着目して開発に着手しました。その中でADASのミリ波レーダーの正常動作に電磁波制御技術を活かせるのではないかと考え、開発をはじめた製品のひとつがミリ波帯電磁波制御シートです。
もともとは、ADAS車両のフロントグリル、エンブレム、リアバンパーなどに組み込まれたミリ波レーダー設置箇所周辺に直接貼り付ける電磁波制御シートを開発する考えでスタートしました。ADASのミリ波レーダーは、走行中の車両から離れた対象物との距離や速度、角度を測定できるものですが、トンネル内や金属などミリ波を反射する障害物からの影響があるとレーダー照射で測定した情報を正しく受け取れずにエラーが発生し、誤作動につながる可能性があるのではないかと、当社で仮説を立てたのです。
ですが調査を重ねた結果、当初立てた仮説よりもADAS搭載車の特定整備(電子制御装置整備)のエーミング作業での用途の方が電磁波制御技術をより役立てられるのではないかとの考えに至りました」と布施氏は、ミリ波帯電磁波制御シートの開発背景を教えてくれた。
エーミング作業の負担軽減ツールとして開発中
布施氏は、エーミング作業を行う事業者は、国が定める特定整備(電子制御装置整備)認証の資格取得条件を満たす広さや平滑な床がある環境下で作業を行う必要があることに触れ、「エーミング作業を行う工場内には、リフトをはじめとする金属製の設備が数多くあるだけでなく、壁の裏側に鉄骨があるケースもあるなど、さまざまな金属物の乱反射やノイズでエーミング作業に支障をきたしてしまう課題があることを知りました。そういった課題解決のために、我々が開発中のミリ波帯電磁波制御シートを、ぜひお役立て頂ければと思っています」と述べた。
開発中のミリ波帯電磁波制御シートは、電磁波干渉を最小限に抑制する。また、現在は使用する周波数帯域に応じて電磁波の吸収帯域を任意に選択可能にすることを目指して、性能テストを行っている。反射を生むような障壁の表面などに貼り付けできる点もポイントで、パネルタイプと曲面追従タイプがあり、サイズに応じて容易にカットできるなど、軽量化の実現も目指して開発中とのこと。
パートナーと連携して製品開発に注力
「我々1社だけでは、持続可能な社会に貢献する製品の開発は難しいと思っています。このため自治体や、専門的な知見をお持ちの企業、団体と連携、協力しあいながらイノベーションを進めていきたいと思っています」と布施氏は話し、自社だけでなくパートナーとの連携が欠かせないことを強調していた。リンテック株式会社が開発を進めるミリ波帯電磁波制御シートは、エーミング作業を行う事業者の負担軽減につながる商材のひとつとして期待が持てそうだ。なお同社では、2024年4月までにミリ波帯電磁波制御シートを販売したい考えで開発を進めている。