岡山県は倉敷市児島、古くからモノづくりの街として発展し、日本産ジーンズ発祥の地として名高い。最近では、大ヒットアニメ『ひるね姫』の舞台となったこともあり、多くの観光客で賑わう。瀬戸大橋の本州側玄関口であり、すぐ側には水島コンビナートで知られる水島工業地帯という立地に、ボディコーティング専門メーカー、本荘興産(倉敷市児島塩生2764-3・平井新一社長)はある。今回は、国道430号線というメインストリート沿いに建つ本社社屋にお邪魔させてもらった。◆カーディテイリング業界のパイオニア同社は、洗車用品、コーティング剤といったカーディテイリング関連商品の開発・製造、販売や輸入を手がける。最近では、広告制作や技術・販売に関するデモや研修会、セミナーの開催などを通して、整備工場や鈑金工場、カーディーラー、ガソリンスタンドなど、様々な施工店をサポートし、販売促進を総合的にバックアップしている。創業は1978年。父である先代社長が経営するガソリンスタンドで、『ポリマーシーラント』の施工・販売を始めたことがきっかけだ。当時、ワックスしかなかった日本に、アメリカで誕生したボディコーティングをいち早く導入し、クルマに対する新しい『キレイ』を提案した、業界のパイオニアだ。その後、ガソリンスタンドを閉鎖して、ボディコーティング事業に特化。ポリーマーシーラントの国内総発売元となり、ダイハツ工業やスバル用品、三菱自動車といった名だたる自動車メーカーと純正部品契約を結び、順調に事業を拡大した。◆手洗い洗車ビジネスに注力!コーポレートメッセージである、『クルマのキレイでミライをつくる』の考えのもと、時代の流れに合わせて、柔軟に仕組みや製品を提供し続ける同社。いま現在、最も力を入れるのが手洗い洗車ビジネスだ。何故、いま洗車なのかについて、「3代目のプリウスが発売された頃から、エコカーが急速に普及したことや、燃料の高騰もあって、ガソリンスタンドが激減しました。つまり、洗車をする場所が減ったわけです。同時に、クルマを長く大切に乗りたいという意識が高まる傾向になりました。クルマをキレイにしたいけど、場所がなくなってしまった。そこにビジネスチャンスが生まれたというわけです」と語る平井社長。「洗車というと、車検や整備などの入庫のついでにサービスで行っていたイメージですが、いまは違います。たかが洗車と思われるかもしれませんが、クルマの仕事でこんなにも目に見えて『キレイになった!』とお客さまに喜んでもらえる商品は他に無いと思います。この商品のメリットを最大限に活かすことで、新たな収益につなげられると思います」と続け、次世代自動車の普及やディーラーの囲い込み商品(いわゆるメンテナンスパック)の登場で、修理や整備がディーラー主導となり、厳しい環境となっているアフター業界に対して新たな価値を提案する。◆手洗い洗車を通してバックアップする「新たな収益を生むためには、お客さまを『待つ店』から、自然に『集まる店』に変化しなければなりません。手洗い洗車を来店のきっかけづくりに利用してもらい、お客さまとコミュニケーションをとる機会を増やすことで、その他の商品やサービスの増販へとチャンスを拡げることができます。私たちは、ただ洗車の道具だけを売るのではなく、技術や集客・販売の仕組みをお客さまと一緒につくっています」というその言葉通り、洗車ビジネスというよりは、手洗い洗車を通したコンサルティングをしているというのが正しいのかもしれない。その一環として、講演やセミナーを積極的に行ったり、自社で動画を作成するなどして、手洗い洗車の『啓蒙活動』を続ける。「以前は、見向きもされないことも多かったですが、業界の中でも危機意識が高まっているのか、積極的に話を聞いてくれるお客さまが増えました」と現状を語る。月1回必ず開催しているコーティング塾では、洗車や研磨、コーティングの技術指導はもちろん、売り込むためのコツや、販売促進のノウハウまで、徹底的に指導してくれる。戻ってすぐ実践に移れるため、全国各地から多くの参加者が受講をしに訪れる。また、同社は『Honjyo』というブランドを立ち上げ、ブランディング戦略を進めるが、基本的に全てのモノを自社内で作り上げているというから驚きだ。「勉強したわけじゃないですけど、もともとデザインとかが好きだったのと、何よりお金が無かったですから」と笑う平井社長。「お客さんのところのモノもウチがやってあげられれば安くできますしね」と続ける。アイデアマンですねという問いには、「それは父の方ですかね。社員全員が反対する中、洗車の方に経営をシフトさせたり、いまも主力の洗車道具のラインナップは、10年以上も前に父が考えたものですから」と謙遜する。◆プロとしての視点先日リニューアルデビューした、同社の『WASHMAN』シリーズ。ド派手なプロモーションが話題となり好調な滑り出しを見せているが、こちらは、手洗い洗車を効率的に行うためのツールだ。ただキレイにするだけでなく、作業時間の短縮や作業者の疲労軽減までを考えた設計になっている。ガソリンスタンドからスタートした同社ならではの、現場のプロ目線の商品だ。「ガソリンスタンド経営の厳しい時代に、父と母は、夜に近くの販売店の洗車の仕事を請け負っていたんです。その時に、どうにか作業時間を短縮できないかというところから考えたのが、いまのWASHMANの原型なんです」と開発のエピソードを明かす。取材当日に洗車実演も見せてもらったが、実際の経験から生み出された道具なだけに、通常の手洗いの仕上がり品質でありながら、とにかくスピードが早い。何より、作業者の疲労は間違いなく少ない。手洗い洗車のネガティブな部分を見事に解消している点に感心した。◆手洗い洗車の布教を続ける長時間に渡って話を聞かせてくれた平井社長だが、聞き手を引き込む不思議な魅力を持つ。が、意外なことにしゃべることは苦手なのだそうだ。好きだという、落語の立川志の輔師匠の高座を見に行ったり、聞いたりするなど、伝え方についても日々精進している。それもこれも、多くの人に話を聞いてもらって、考えを理解してもらうため。また、実はクルマのことはそんなに詳しくないというカミングアウトも。若い時はルームクリーニングの会社で修行をしていたので『からっきし』だとか。それでも、シロウトに近い感覚を大事にしたいと話す。いかに自分のお客さまのお店に集客するか、そのためにはエンドユーザーの気持ちを理解できなければならないからだ。時代の流れを読みながら、手洗い洗車の布教をし続ける本荘興産。今後の展開に要注目だ。
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