ホンダスポーツの最初のクルマである『S500』が発売されたのが1963年なので、今年で60周年を迎える。そこでホンダツインカムクラブは、それを記念して“ホンダS還暦ミーティング”を、11月12日、中伊豆ワイナリーヒルズぐらっぱの丘(静岡県伊豆市)にて開催した。
◆メーカーも協力するホンダツインカムクラブ
ホンダツインカムクラブはホンダASシリーズ(S500、『S600』、『S800』)のオーナーズクラブとして、1976年7月に創立した歴史あるクラブである。ホンダASシリーズの動態保存を主目的とし、それにともなう情報交換や会員相互の親睦を深める等の活動を行なっている。
近年では、2013年にホンダS生誕50周年をツインリンクもてぎにおいて大々的に開催。当時のエンジニアやデザイナーなどを招いて講演会を行うとともに、オーバルコースをパレードするなど大いに盛り上がった。同時にホンダサイドも協力を惜しまず、1962年の第9回全日本自動車ショーに出展された『スポーツ360』の復元モデルを他に先駆けいち早くお披露目するなどで、そのイベントに華を添えていた。
その後、S800の生誕50周年記念イベントを本田技研工業白子ビル(以前白子SFというサービスセンターがあった場所)からホンダS生産の地、狭山工場までパレードを行うなど、積極的にイベントを開催し、ホンダも積極的にバックアップを行ってきた。しかし、コロナ禍になったことでそれ以降のイベントは休止。今回も危ぶまれたが、ワンデイのランチイベントということで、ようやく開催にこぎつけたのである。
当日の朝、危惧されていた雨も上がった会場に続々とホンダSが集まってきた。その数約100台弱。色とりどりのボディカラーをまとったSたちの姿は壮観の一言だ。フルオリジナルで楽しむ方からいろいろ手を入れて楽しむ方まで、それぞれの個性を見事に発揮したSたちが顔をそろえていた。そして今回もホンダはしっかりとサポートし、ホンダコレクションホールから前述のスポーツ360を再び展示したのである。
◆副社長も登壇
そして会場にはとても美しく仕上げられた左ハンドルのS800クーペがあった。そのオーナーは本田技研工業取締役代表執行役副社長の青山真二氏だ。氏はほかに初代『NSX』なども所有するエンスージアストで、イベント当日もエントラントとして参加。開会式では、「古いクルマは楽しいですし乗るのが好きなんです」とコメント。また、「(ホンダは)バッテリーEVに邁進しつつありますが、そのバッテリーEVの時代においても皆さまに購入してもらえるよう、乗って楽しんでいただけるクルマを作っていきますので、期待をしていただきたい」。
また、個人的には、と前置きしたうえで、「アディティブ・マニュファクチャリングという3Dプリンター系の技術進歩もあるので、Sに限らずできる限り補修パーツ的なものを、製品を大事にお乗りいただける方々に提供していけるようなことも取り組んでいきたい」と述べ、会場を大いに沸かせていた。
◆Sの魅力は精緻さ
さて、そこまで愛されるSの魅力は何だろう。参加者の何人かに伺ってみたところ、デザインや時計のように精密と称されたエンジン、きびきびとしたハンドリングなどが語られたが、ホンダツインカムクラブ元会長で現顧問、そしてこのミーティングの実行委員長である那須望さんは一言、「精緻性」だと述べる。「全てが専用設計で、流用部品などほとんどなく、きっちり作り込んであるところが最大の魅力。もちろんエンジンやハンドリングが俊敏などの魅力も大きいが、とにかく50年も所有し続けて一番感じるのが、精緻に作ってあるということ。そこから当時の技術者の息吹みたいなものが感じられる」とその愛情を語っていた。
ランチと楽しい会話の後、解散の13時をすぎると、名残り惜しそうにしながらも1台1台帰路に着いていった。高回転まで一気に回るエンジン音、独特のホンダサウンドを響かせながら。