2023年に創業から50年を迎えたHKS。1973年ヤマハ発動機を退職した長谷川浩之社長が起業したHKSだが、当初はオリジナルレーシングエンジンを作ることを目標だったという。
東京オートサロン2023では創業50周年を記念して、歴代のレーシングエンジンや名車がずらりと並んだ。そしてこれからの未来を見据えて開発中の、日産スカイラインGT-R(R32)を現代の最新技術でアップデートする「HKSアドバンスドヘリテージ」にも迫っていく。
◆オートレース用のエンジンから始まったレーシングエンジンの開発
1974年には業界初のターボチャージャーキットを発売。FETターボと呼ばれたこのキットは、115psのスカイラインを160psにまで高めることができた。1977年にはHKSブランドでターボキットを発売した。
その後1981年にはオートレース用エンジンを開発。DOHC4バルブ単気筒600ccのHT600エンジンを搭載されたフジ号と命名されたマシンはオートレース業界を席巻。オリジナルエンジンで圧倒的なシェアと成績を誇った。
今回展示された70スープラのドラッグレース用車両は「HKS DRAG 70 SUPRA」。1991年8月当時初となる7秒91という驚異のタイムをマークした歴史的車両。エンジンは7M-Gツインターボをベースに鍛造ピストンを投入し、レブリミットは8,750rpm、ブースト圧は1.4kg/cm2を掛けていた。
◆F1参戦を目指して開発された、幻のV12気筒エンジン「300E」
そして1992年HKSにはF1用エンジンを開発する。バブル期だった当時、ホンダやヤマハだけでなくスバルやいすゞもF1に向けたエンジンの試作を行っていたが、自動車メーカー以外で唯一F1用エンジンへのチャレンジをしていたのがHKS。実際に完成し走行まで行っている。その当時のエンジンである「300E」と開発車両のフォーミュラカーが今回東京オートサロン2023にて展示された。
3.5リットルV12気筒自然吸気エンジンは市販ガソリンで680ps/1万3500rpmを発揮。レース用ガソリンなら700psは優に超えると言われたパフォーマンスを発揮している。数台作られたと言われる300Eだが、当時はアルミの大きなブロックから切削でシリンダーブロックを作ることは困難。このためだけに型を起こしてシリンダーブロックを作っている。
膨大なコストが掛かっているが「長谷川社長の情熱とパワーなら、それくらいやっちゃうと思う。それくらい熱い人が長谷川浩之さんだった」とは当時を知るHKSスタッフのコメントからも、HKSがF1を見据えて挑戦した並々ならぬ熱量がわかるだろう。
◆ワークスチームだらけのグループAに挑戦、歴史を残したHKS
1993年には当時ツーリングカーレースのトップカテゴリーであったグループAで、ワークス勢いを打ち破って優勝したのがこの「HKS SKYLINE」。ドライバーは羽根 幸浩/萩原 修。カルソニック スカイライン(A.オロフソン/影山正彦)や日鉱共石SKYLINE GP-Aプラス(鈴木利男/飯田章)などを抑えて優勝したのだ。
ドライバーの萩原修氏は、ADVANホイールデザインとして知られるその人。そういった関係もあり、HKSのデモカーはADVANホイールとADVANタイヤが使われているという所以もあるのだ。
そしてこの特徴的なカラーリングは当時発売された「HKSスーパーオイル」をイメージしたもの。HKSの特徴的なカラーリングとなり、オイルの売り上げにも大きく貢献したのだという。
◆全国の“レコードブレイク”を至上命題に挑戦するタイムアタック、そのノウハウは惜しみなく製品開発へ活かされる
そういった歴史的マシンと並べられたのは最新のGR86タイムアタックマシン「HKS Racing Performer GR86」。オリジナルのワイドボディキットを装着。エンジンはFA24ノーマルのままですでに筑波サーキットで57秒102をマーク。今後はHKS GTIII-RSタービン仕様でタイムアタックを行っていく。
タイムを出すのはもちろん、限界を追い求めることでどこで壊れるのか、どこまで持つのか、そういった製品開発や市販車の限界を見極めるためにタイムアタックを行っている。その挑み続ける姿勢こそHKSであり、いつの時代も挑戦し続ける姿勢は変わっていないのだ。
ちなみに一見HKS SKYLINEと同じに見えるオイルカラーの色使いは、歴史を経て現代風にアレンジされているのでぜひ見比べてほしい。
◆今後の50年を見据えた夢のチューニングエンジン「HKSアドバンスドヘリテージ」
さらにR32GT-Rのホワイトボディとエンジンを展示。最新技術でさらにRB26の性能を追求するのが「HKSアドバンスドヘリテージ」というアプローチだ。開発目標:600ps/燃費20km/Lを実現しようという挑戦で、現代のF1などにも採用される“プレチャンバ”を採用して燃焼速度を高める。さらにカーボン製インテークによる効率の良い取り回しで吸気効率を高めようというとてつもないチャレンジなのだ。
新しいことに挑み続けるスピリットはいつの時代もHKSの根幹に存在している。HKSのこれからの50年にも大いに期待したい。