国産車・輸入車をとわず、新車さながらの美観を保ったクラシックカーを集めた自動車博物館は日本各地にある。
だがその多くは “ 展示物等にはお手を触れないでください ”との注意書きがあり、眺めることしかできない。美術品や骨董品となった「名車」をキズや汚れから守るため当然のルールといえるのだが…。
「車は動くからこそ価値がある」
その言葉をコンセプトに掲げるミュージアム『130 COLLECTION(イチサンマル コレクション)』が長野県の佐久穂町にある。
コンセプトに偽りはない。すべての展示車両が車検をクリアし、快調なエンジン音を響かせて公道をキビキビ走れるナンバープレート付き。
来館者は、磨き上げられた旧車やレーシングカーのドアノブに自ら手を触れて運転席に乗り込み、シートのフィット感やステアリング、シフトレバーの感触などをじっくり体感できるのだ。
さらに、事前予約すれば、スタッフが運転する助手席で同乗走行も楽しめる。本当の意味で “ 名車を体感できる ” 貴重なミュージアムがあることを聞きつけて、全国各地からクルマ好きが訪れているという。
美しく生き生きと輝く旧車たち
ミュージアムに足を踏み入れると、艷やかに磨き上げられた旧車たちがズラリと並ぶ。時間の経過を感じさせない美しい名車たちに目を奪われ、その色褪せない存在感につい口元がほころんでしまうほどだ。
ホンダ「N360」、トヨタ「スポーツ800(ヨタハチ)」、日産「シルビア」、フィアット「X1/9」「500(チンクエチェント)」、フォルクスワーゲン「カルマンギア」など希少な旧車たちの数々。視線を奥へ伸ばすと本物のレーシングカーまで鎮座する。
仕掛け人は、ブレーキパッド「ENDLESS」花里会長
実はこのミュージアム、ブレーキパッドをはじめとするチューニングパーツ・メーカーとして名高い「ENDLESS(エンドレス)」を展開する株式会社エンドレスアドバンスが2021年3月にオープンしたもの。
創業者であり現・会長の花里功氏は、生粋のクルマ好き。花里会長が中心となってベース車両を集め、エンジンはオーバーホール。ブレーキなど足回りは自社製品を組み込み、ボディ外装や内装は信頼するパートナー企業と協力して仕上げた旧車レストア車両(取材時は29台)と、自社レーシングチーム「エンドレス」の車両が展示されている。入場料はひとり500円(税込)で、中学・小学生などは無料。
はじまりはホンダ「初代N360」
旧車レストアのキッカケは、いまから9年ほど前に遡る。2013年当時、大きな注目を集めていたホンダ「初代N-ONE」とそのモチーフである「N360」の2台を、カスタムカーの祭典『東京オートサロン』で並べたら面白いのではないか、という発想からスタートしたという。
エンドレスアドバンスがやるからには、徹底的にやる。単なる美しい修復(レストア)がゴールではない。
自社の総力を上げ、今の時代を安全で快適に走行できる仕上がりのクオリティにこだわるのがエンドレス流だ。鈑金塗装や内装などはパートナー企業の協力を得ながら、フルレストア&カスタム。
“Nっころ”の愛称で親しまれ、女性にも好まれるかわいらしいデザインが印象的な「N360」が、エンドレス製のブレーキパッドをはじめ、特別設計されたサスペンションやキャリパーを装着。レーシングカー仕様へと変貌を遂げたデモカーは『東京オートサロン2013』で披露され、会場で異彩を放った。この車両は、現在ミュージアムの入り口そばに展示されており、今日でも輝きを失っていない。
東京オートサロン出展で「不正改造車・撲滅」の呼びかけ
2013年に「N360」のレストアデモカーを展示して以後、エンドレスアドバンスは毎年『東京オートサロン』で、自社のブレーキパッドやサスペンションなどを装備した旧車レストア車両の展示を続けている。
今年2022年は、自社とパートナー企業各社とで仕上げた6台(ホンダ「シビックRS」、マツダ「ルーチェ ローターリークーペ」、日産「シルビア」「GT-R R35」、アルファ・ロメオ「ジュニアザガート」、BMC「オースチン ミニ・クーパーS」)と、自社レーシングチームのレースカー(トヨタ「エンドレスGR86」、AMG「エンドレス GT4」)2台も披露し、過去最大となる8台を展示した。
カスタムカーが集まる東京オートサロンで、旧車レストア車両や自社製品の出展を続ける理由について、花里会長は「不正改造車や違法改造車の撲滅の呼びかけになればと思って出展しています。チューニング・パーツメーカーとして、安全で快適に走行できる、きちんと車検に適合する車とパーツを今後もアピールしていきたい」とキッパリ言い切るその姿に、清々しさを感じた。
エンドレスの「志」が息づく、旧車レストア
1986年の創業時から、大胆な挑戦と着実な検証の積み重ねで成果を出し、常に最速で走り続けるエンドレスアドバンス。
花里会長が若き頃、自らレース活動を行う中で満足できるブレーキパッドがなく “ 無いものは自ら創ろう。創るからには一切の妥協はせず、アイデアで勝負する ” ことをモットーとする。
開発のためにレーシングチームを立ち上げ。過酷なレース環境で自社製品の実践テストを行って性能向上につなげるだけでなく、スーパー耐久シリーズでチャンピオンの栄冠も獲得。中途半端な結果ではなく、やるからには頂点を極める、その強い志は、旧車レストアにも息づいている。
今回、特別に同社広報部から『東京オートサロン2022』で披露された、マツダ「ルーチェ ローターリークーペ」のレストア前の写真をお借りすることができた。ボディ外装はそれほど傷んでいないようだが、エンジンや内装はすっかりくたびれている。
この旧車が、エンドレスアドバンスとパートナー企業の手で、ホワイトボディの美しい姿に生まれ変わった様子を記事写真を通して目にすれば、エンドレス流のレストアを感じとれるだろう。取材時、レストアされたルーチェのエンジン音を聞く機会に恵まれ、軽やかで絶好調なロータリーサウンドが響いた。
レースカーの整備&旧車レストアも行う
ミュージアム「130 COLLECTION」のウリは、車両展示や同乗走行だけではない。
展示エリアの直ぐ側に、プロのメカニックたちが作業を行う「エンドレス・レーシングガレージ」を併設。主に、自社レーシングチームの車両整備が行われているのだが、レストア中の車両の姿もあった。
エンドレスアドバンスでは、自社製品を購入した一般オーナーのパーツ取付けやオイル交換なども行っている。この日は「初代シビック RS」が整備で入庫。旧車とは思えない美しく艷やかなボディが印象的で、エンドレスのブレーキ・キャリパーが目に入った。
本格的で遊び心あふれる「カフェ」や「愛車撮影」も
「130 COLLECTION」の魅力は底知れない。車両展示エリアの手前には本格的な「カフェ」コーナーが設けられている。
丸テーブルが置かれ、広々とした喫茶ペースとカウンターがあり、ドリンクやスイーツのほか、フードメニュー(金・土・日のみ)も提供。
特に珈琲にこだわっており、イタリア大統領官邸御用達の直火焙煎豆によるハンドドリップコーヒーが一押しとのこと。
また、ドリンクや珈琲ゼリー、特製レアチーズケーキの上に、愛車の写真やイラストなどをプリントできる「ホイッププリント」も面白い。
このほか、屋外スペースにも遊び心が。車を乗せるとその場でゆっくり回転する「ターンテーブル」が設置されているのだ。別途料金はかかるが、愛車の撮影を楽しみたいオーナーにとっては絶好の機会となるだろう。
長野方面へドライブに出かける際には、ぜひ一度「130 COLLECTION」へ訪れてほしい。
130 COLLECTION
https://endless-sport.co.jp/130collection
住所 :長野県南佐久郡佐久穂町高野町1828-1
電話 :0267-88-7444
営業時間:11:00~17:00
定休日 :月曜日