身近なところでは、スマートフォンの液晶画面に保護フィルムを貼っている人も少なくないが、実はクルマでは「自動車用フィルム=カーフィルム」というと、一般的には窓の“内側”に貼るウィンドウフィルムを指す。ただ近年、スマホ同様に、クルマの“外側”に貼付するペイントプロテクションフィルム(PPF)が広がりつつある。特殊なポリウレタン製フィルムでボディ外装を保護するPPFは、これまではランボルギーニやフェラーリ、マクラーレンなどの一部の超高級車をメインの市場とし、ユーザーもサーキット走行をする人などが中心だったが、ここにきて「ブランド・製品」や「施工スタイル」、「施工店」が多様化し、超高級車オーナーでなくとも気になる存在となってきている。◆軽自動車オーナーやラッピング需要を掘り起こす新ブランドこれまでPPFの価格が普及を阻む1つのハードルとなってきたが、多くのPPFが150μmを標準的な膜厚とする中、今春、日本の大手化学メーカー・JNCは新たに100μmの「JN-SHIELD(JNシールド)・タイプL」を発売。価格競争力を武器に、日本のPPF市場の裾野拡大に挑んでいる。タイプLは、世界に比べて遅れている国内でのPPF普及を念頭に開発。JNCの伊藤功一主幹は、「PPF自体の高コストや施工難易度の高さ、日本の品質基準の厳しさなどを要因にこれまで普及は限定的だった。他方で、道路環境が良い日本では世界と同様の厚みである必要性は少ないと感じ、タイプLに至った」と開発背景を話す。そんなタイプLの製品コンセプトは『貼るコーティング』。「コーティングに付加するアクセサリーとして展開することで、主対象とする中級クラス国産車はもとより、軽自動車も施工ターゲットになり得る」と、今後の展開に意欲を示す。低コストゆえ、部分施工の需要も見込んでおり、黄変や白濁しやすいポリカーボネート製ヘッドライトへの専用品も設定している。さらに、価格面のみならず、コート層、粘着層を一貫して開発・製造している高い品質面も魅力。トップコートには光沢性と自己修復機能を付与することで施工傷の低減を図っているほか、巻き込み施工にも対応し、継ぎ目の見えない仕上がりと施工性の向上を実現。実際にスーパーGT・GT500クラスのニスモ車両にその防汚性や軽量さが評価されて採用されており、現在では他チームからもオファーを受けるなど、レースシーンでもその品質は折り紙付きだ。一方、2019年11月に日本総代理店が開設されたばかりの新たなPPFブランド「STEK(エステック)」も、業界内で高い注目が集まっている。すでに世界各国で展開され、日本への導入は世界で64番目という北米シアトル拠点のエステックは、従来のPPFとは一線を画すアプローチで新たな市場を開拓している。エステックの名を一躍広めたのが、“ファッションPPF”の名称で打ち出す柄・色付きタイプ。塗装色の上にカーボン柄やパールプリズムを付加できる透明の「ダイノカーボン」や「ダイノマット」、「ダイノプリズム」に加え、フィルム自体が着色された「ダイノブラック(グロス/マット)」や「ダイノブラック・カーボン(グロス/マット)」とラッピングの要素を持つフィルムまで多彩なバリエーションを展開。ビジュアルのみならず、ダイノシリーズは疎水性とセルフヒーリング機能を有するトップコートを備えており、ウォーターマークや蟻酸、鳥の糞、排気ガスや油分などからの優れた防汚性や高い耐衝撃性も特徴。もちろん、標準型の無色透明PPF「ダイノシールド」もラインナップしている。日本総代理店エステックジャパンの石原正規代表は、「施工店からは、ラッピングよりも耐久性・仕上がりの品質が良く、ラッピングを希望する顧客にエステックPPFを代替提案した際の反応が良い、という声もある」として、新たな需要を開拓していることを示唆。また、ドアカップ・エッジ、トランクエッジなどの部分施工や、ヘッドライトを黄変や紫外線から保護する透明着色PPF「ダイノスモーク/シェイド/ファンシー」各種の問い合わせも多いそうだ。◆王道PPFブランドも一層の進化・多様化新ブランドが広がる中、これまでシーンを牽引してきたブランドもさらなる進化を見せている。世界をはじめ日本の市場を構築してきたPPFの代名詞的存在「XPEL(エクスペル)」も、一層の進化を見せている。これまでハイエンドユーザーを対象としたプロショップでの施工が主だったが、ここにきて神奈川トヨタグループのレクサスディーラーやポルシェAGなど、ディーラー・メーカーオプションの取り扱いも急増。急成長を支える要因の1つが、製品・サービスの品質で、XPLE JAPAN(エクスペルジャパン)が国内総代理店となった2019年は販売額も急伸。本国で「ベストグロウスオブ2019アジア賞」を受賞した。 事業拡大に伴いラインナップも豊富になっており、ベースとなる「アルティメットプラス」のみならず、最近ではマットタイプの「ステルス」やインテリア用の「プラス7」、プロテクション機能を増した「プラス10」、ヘッドライト用のスモーク型PPF、専用ボディコーティング剤「フュージョンプラス」、抗菌特性を包括した「RXプロテクション」など、PPFのサービス領域を大きく拡張。特に撥水性を好む日本ユーザーからは、コーティングが好評という。また、 PPFの中でも一際ユニークな存在である「Fenix Japan(フェニックスジャパン)」の「Fenix Scratch Guard(フェニックス・スクラッチガード)も、昨年にはタイのポルシェセンターバンコクにも正式に導入。海外にも広がりを見せる一方で、国内では塗装ブースを備える鈑金事業者への導入が進んでいる。 塗装面に150~200μmの3層構造をスプレー施工で形成する塗装タイプの同製品は、継ぎ目がない綺麗な仕上がりが特徴。施工後も、塗装のようにポリッシングやコーティングができるため、傷の修復や艶出しができるなど、フィルムタイプとは一線を画す仕上がり品質を実現する。クリアタイプとマットタイプの2種類のラインナップで、最近ではベース層とトップ層の間にカラー塗装層を設けることで、好みのカラーに演出できる4層構造での施工も浸透中。もちろん、3層施工でもボディ塗装面を飛び石などから十分に保護するが、PPF上の飛び石傷を目立たなくする目的であえてボディ同色のカラー塗装層を設ける施工ケースもあるなど、施工事業者、施工スタイルともにますますの広がりを見せている。◆部分施工やコーティングとの合わせ技も 予算抑えた施工が台頭PPF施工のスタイルの変化において、特に顕著なのが部分的な施工だ。フロントからリアまで車両全体にフル施工する方法に加え、飛び石などの影響を受けやすい「フロント周り(バンパーやフェンダー、ヘッドライト、ミラー)のセットや、ヘッドライト、ドアカップやドアエッジ、トランクエッジなど部分的な施工が急増している。特にヘッドライトは、前述の通り各ブランドともにヘッドライト専用製品を設けているケースもある。実際にカーフィルムやラッピングなどをメインに手掛ける貼りアップ(福岡市博多区)では、劣化したヘッドライトの復元とセットでヘッドライトのみのPPF施工をメニュー化しており、納車直後の新車・中古車から現在保有する愛車まで、輸入車を中心に車両の美観を維持したいというオーナーから好評を博しているという。また、カーメイクアートプロ(大阪府堺市)では、例えばフロント周りはスプレー式のフェニックス、それ以外のボディはセラミックプロなどの高硬度のボディコーティングを施し、PPFフル施工より予算を抑えながらも車両全体を堅牢に保護する組み合わせサービスを提供している。車両外装の美観は中古車として下取りに出す際のリセール価格にも影響を及ぼすため、実際の資産価値の保護や、乗っていても劣化の恐れが少なくなるという安心感から、一度PPFを施工したオーナーのリピート率も高いそうだ。◆製品選びだけでなくショップ選びも大切PPFの施工は、その多くはコーティングやフィルムを主とするディテイリングショップだが、近年ではメーカーやディーラーでも純正採用され、施工を手掛けるショップが拡大。前述のフェニックスは鈑金ショップで導入が進んでいるほか、自社でPPF施工を取り入れる中古車販売店なども出てきている。そんな中で愛車への施工を検討する際は、ブランド・製品選びだけでなく、施工を依頼するショップ選びも大切になる。複数のPPFブランドを取り扱い、自社での施工に加え、施工店向け講習も行うソフト99オートサービスによると、「PPF導入後に何台も実績を積み重ねた熟練スタッフもいれば、実績が少ないショップもある。PPFの施工には慣れ・経験が必要」と話しており、施工技術の差がそのまま仕上がりのクオリティに繋がるからだ。実際にPPFサプライヤーでは、施工店に対して製品単体ではなく、講習・研修を通じて技術とセットで供給し、独自の認定制度を設けているところも少なくない。PPF各社のホームページにはそうした認定施工店も記載されているので、そこから自身に合った施工店を探してみるのも良いだろう。“お金をかけても愛車の綺麗をしっかりと維持したい”。そんなオーナーはPPF施工を製品・施工店の両面から探してみてはいかがだろうか。
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