「いたしゃ」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか? おそらく「イタリア車」と答える人が多いのではないだろうか。しかし今、そんな「いたしゃ」という言葉で、新たに“市民権”を得ているものがある。それが、アニメのキャラクターなどが描かれたラッピングを施したクルマ、通称「痛車」だ。かつて一部のアニメ好きが施していたカスタムは、今では展示車両1000台クラスのイベントが行われるなど、一つの文化として根づいている。編集部は今回、痛車のデザイン・施工を行っている、スタジオアールデザイン(東京都足立区)の半田慶輔代表のもとを訪れ、盛り上がりを見せるこのカスタムの歴史や現状について話を聞いてきた。創生期から痛車を知る半田氏が語る、その魅力を紹介する。◆「手軽に目立つことができ、楽しい」カスタム東京都の北区と足立区の境目、環七沿いに建つスタジオアールデザイン。店舗を訪れると、外からでも店内に置いてある痛車が目に飛び込んでくる。“強烈なインパクト”。それこそが、痛車文化を盛り上げる要因の一つとなっている。「最近では、(痛車が)カスタムの一つとして認められつつあるということを実感します。手軽に目立つことができ、とても楽しいものという考えが浸透してきています」半田代表は、痛車カスタムの盛り上がりを、こう口にする。「痛車」という言葉が登場したのは、およそ10年前。それ以前にも、カッティングシートを使い個人的にカスタムするユーザーはいたが、雑誌での掲載、インターネットやSNSの普及もあり一気に多くのユーザーに拡大した。今では1000台規模のクルマが集まる「痛車天国」など、全国でイベントが行われるほどの盛り上がりを見せている。◆趣味から始まり、今では全国区に半田代表はそんな痛車発展の歴史を、創生期から見続けてきた人物だ。自身も根っからのアニメ&クルマ好き。「アニメのイベントなどに行くなかで、痛車が流行ってきた。趣味の範囲でカッティングなどを行ったのが始まりです」と、自然にこの世界に足を踏み入れた経緯を教えてくれた。WEBや印刷物のデザイナーだった半田代表が手がけた車両は、そのデザイン性などが評判を呼び、雑誌に掲載されるようになった。それを見たほかのユーザーから次第に依頼が舞い込むようになり、今では「月に5、6台ほど」の施工を請け負う。「一番こだわっている」というデザインから施工のほとんどを、一人で行っている。「趣味から始まった」取り組みは、今や北は北海道から南は沖縄まで全国にファンを持つまでに発展している。◆一般ユーザーから企業まで広がり続ける裾野施工のみならずイベントの企画・運営も行うなど、痛車の普及活動にいそしむ半田代表は、「クルマのカスタマイズの一つとして、裾野が広がってくれることが一番」という想いを胸に日々の作業に取り組む。そして、今その想いは確実に現実のものとなりつつある。かつては若い男性が大半を占めていた痛車ユーザーだが、今では性別・年齢も関係なくカスタムを楽しむ人が増えているという。中には「60代のお客様もいる」というのだから驚きだ。この盛り上がりに拍車をかけるべく、スタジオアールデザインでは、痛車を手軽に楽しんでもらうことを意識した取り組みにも励んでいる。シェアリングサービスを導入し、すぐに痛車に乗れる環境を用意している。また「いきなりフルラッピングするのは予算的に…」というユーザーに対しては、段階的に施工していくステップアップフルラッピングサービスも行う。今、痛車に熱視線を送るのは一般ユーザーだけではない。そのド派手なボディが与えるインパクトに目を付けた企業が、PR用に痛車を使用するというケースも増えている。半田代表も墨田区にあるタクシー会社と組んで「痛タクシー」を世に送り出すなど、企業からの依頼も数多くこなしている。◆アニメ+クルマ=∞今後の青写真について聞くと、「ディーラーと協力してオリジナルのラッピングサービスを提供したり、一般ユーザーがもっと手軽にカスタムを楽しめるサービスを拡大したいですね」という答えが返ってきた。それもすべて痛車のさらなる発展を願ってのことだ。「好きなクルマに、好きなキャラクターを詰め込むことで自分だけの1台を作ることができる。これまで単体で楽しんでいた二つの要素が合わさることで、その相乗効果は計り知れない。1+1が2以上になる」半田代表は痛車の魅力をこう語った。「オーナー同士が交流する機会も多く、コミュニケーションツールとしても有効」という効果も相まって、“痛車の輪”は今後もさらなる広がりを見せるだろう。『若者のクルマ離れ』が叫ばれて久しいなか、痛車にするためにクルマを購入するというユーザーも多いそうで、このカスタムがクルマの楽しさを多くの人に伝える存在の一つになっているのは疑う余地もない。今後もその楽しさを多くの人に伝えるため、半田代表の取り組みは続いていく。
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