一般的に「霊柩車」と言われると、外装に純和風の豪華な装飾が施されたいわゆる「宮型車」を思い浮かべる人がほとんどだろう。しかし、よくよく思い起こしてみると、最近ではほとんど見かけなくなっていることに気づく。◆「宮型車」が激減したワケ従来型の宮型車は、かつては霊柩車の中でも70%以上の割合を占め、全国で1,000台以上が走っていた。今では台数も出動回数も激減していて、これに代わったのが、見た目が高級外車とあまり変わらず、過剰な装飾を行わないシンプルな「洋型車」だ。2009年には洋型が宮型を上回り、現在では洋型が大勢を占めるようになった。こうした背景には火葬場設置を巡る問題がある。平成になった頃から火葬場を新設する際に、自治体が周辺住民に配慮して宮型を出入り禁止にするケースが増えた。宮型霊柩車が葬儀を連想させるためだ。また、長引く不況で、葬儀にかける費用が大幅に減ったことも大きな原因に挙げられる。レンタル費の高い宮型は、出動回数が減り、それ自体が2,000万円以上するうえにメンテナンス費用も高額なため、維持するのが難しくなった。さらには、宮部分を製作する宮大工が減り、作り手や改修を行う人材の確保が難しいという事情や、歩行者保護を目的に設けられた「外部突起物」という厳しい法規制をクリアするのが容易でなくなったという事情も挙げられる。宗教の多様化で「仏式」ではない葬儀も増えていることもその理由で、仏式と神式以外にも対応できる「万能型」の洋式霊柩車の出番が増えている。◆最近の霊柩車事情とは?その洋型車も、クラウンやセンチュリーなどのセダンをベースにした、車体を切断して延長部分をつなぎ合わせたリムジンタイプのストレッチ(車体延長)型が主流だったが、切断しない「ノンストレッチ」型の車両も増えつつある。また、あまり知られていないことだが、実は霊柩車には棺を葬祭式場などから火葬場まで運ぶ「セレモニー用」と、病院から自宅や葬祭式場に棺を搬送する「搬送用(寝台車)」があり、特に搬送用は、目立たないことが重要視される。一口に霊柩車といっても多種多様だ。因みに、本来は搬送用に使われていたバン型の霊柩車だが、宮型や洋型の5分の1の費用で済むため、選ぶ人が増えているのだという。先の総務省の発表によると、日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が過去最高の27.17%となり、亡くなった人の数は130万人を超えた。超高齢化社会を迎えた日本では、これまでとは違う“自分らしい葬儀”を選択したいという人が増え、“今”の時代に合った新しいサービスが数多く登場している。霊柩車もその例外ではないというワケだ。◆なぜ今「ノンストレッチ」なのか? 福岡の自動車グループ・朝日自動車の関連企業として、洋型霊柩車の生産・販売を行う有限会社ティ・アール・ジィ(大野城市御笠川5-3-15・藤野利浩社長/以下TRG)は、アルファードをベースとしたノンストレッチ型の霊柩車「ディアナ」と「ロータスII」を開発し、この車両は葬儀・埋葬・供養の専門展「エンディング産業展2017」にも出展され大きな話題となった。今回、同社の販売企画室の室長であり、デザイナーでもある崎田邦洋氏から「新しい霊柩車」のカタチについて話を聞くことができた。最大の特徴である「ノンストレッチ」にする理由について、「ベース車を切断したストレッチ型は時間が経つとヒビが入ってしまい、車のトラブルに繋がりやすい。だから、敢えてノンストレッチ型にこわだりました。車内の構造も工夫して2,100mmサイズの特大棺を積めるように仕上げています」と説明し、それぞれのクルマに込めた想いとこだわりについて話を続けた。◆セレモニー専用霊柩車「ディアナ」「これまでの霊柩車は、外観の装飾に人工のレザーを使っているのですが、時間が経つと白っぽく変色して古びた印象になってしまう。それを避けるために、カーボン調のラッピングフィルムを使用して、劣化したら貼り替えられるようにしました。これは自分が知る限り、業界初の試みだと思います。ラッピングフィルムなので、例えば白のフィルムを黒に貼り替えて車体のイメージを変えることもできる」今までには考えられなかった“ラッピングフィルム”を取り入れた他にも、独自の発想を散りばめる。車体の後方には、「三日月」と「D」を融合させオリジナルのエンブレムが鎮座し、印象的なアクセントとなっている。これは、“優しい月の光で最後のお見送りをできれば”という想いから、月の女神の意味がある車種名の「ディアナ」を表現したものだ。内装に目を向けると、自然の風や水の流れを感じさせる模様を基調とし、LED照明の反射や陰影を応用して華やかな視覚効果を演出する。オプションで音響システムを搭載することもでき、故人が好きだった音楽を流すことができたりと、これまでの霊柩車にはない、新しい試みを至るところに盛り込んだ。◆搬送用とセレモニー用、1台で2役の「ロータスII」もう1台の「ロータスII」もディアナと同じく、アルファードをベースにしたノンストレッチ型の霊柩車で、同様に外観の装飾にラッピングフィルムを使用している。大きな違いは棺室にストレッチャー(担架)を積み込める設計になっていることだ。「搬送用とセレモニー用、両方を必要とされる場合が多いですが、2台を用意するにはどうしてもコストがかかる。当社では10年ほど前から、1台で搬送と葬儀の役割を兼用できる車種として、ストレッチャーを積み込めるスロープ付きの『ロータス』シリーズを提案しています。ロータスIIはその発展版。機能美を重視した使いやすい設計にしました」具体的には、たくさんの什器やドライアイスなどを収納できるスペースを確保したり、ストレッチャーを積み込む際に足元を照らす作業灯として、リヤゲートにダウンライトを設置。内装デザインはシンプルでありながらも、細部まで手間をかけた造りや使用部材の色彩を統一するなど、洗練されたイメージに仕上げた。◆霊柩車の未来TRGのノンストレッチ霊柩車は、長期間使用できる耐久性を実現すると同時に、ノンストレッチという、敢えて車体に手を加えないことで、安全性の高い霊柩車に仕上げられているところが大きなポイントだ。運転支援機能や自動運転機能が搭載された次世代自動車が普及することは、クルマの調整やバランスがシビアになることを意味し、それは、霊柩車のベース車両を「切り貼り」することへのリスクが高まることを意味する。そうしたことを考えると、TRGの提案するような新しい霊柩車のカタチが主流になっていく可能性は高い。
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