サビて朽ち果てたボンネット。前方は所々に穴が空き、隙間からはエンジンルームが見える。車内を見ようとドアを開けた瞬間、鈍くくすんだ音が微かに聞こえ、サビとホコリとカビが混じり合う陰気な臭いが広がった。思わずのけぞって足元に視線を移すと、そこには、車体から剥がれ落ちた塗装やサビが無残に散らばっていた。この腐りきった廃車同然のマツダ「サバンナRX-3」をフルレストアして走らせる、そう断言する一人の猛者が現れた。これほどまでにサビくれたボロボロの車体を蘇らせるには、相当な技術力が必要になる…。無謀としか言いようがないこの挑戦。本当に完遂するのだろうか? 編集部はこの挑戦を『サバンナRX-3 復活の軌跡』と題し、連載記事として追いかけていく。◆伝説の名車「サバンナRX-3」そもそも、サバンナRX-3とはどんなクルマなのか? 英語で熱帯地域の「大草原」を意味し、精悍さ・力強さ・躍動感・安定感などをイメージして “ サバンナ ” と命名されたという。1971年から1978年にかけて乗用車として販売され、初期モデルとされる前期型S102系には、10A型ロータリーエンジンを搭載。3つのボディタイプ(2ドアクーペ、4ドアセダン、5ドアステーションワゴン)があり、海外では「RX-3」の名で販売された。サバンナRX-3には、もうひとつの顔があった。早くからスポーツキットの開発が行われ、発売年である1971年にモータースポーツへ参戦。当時最強を誇っていた日産スカイラインGT-R(ハコスカ)の連勝記録を49でストップさせるという偉業を成し遂げた、伝説のクルマとして知られている。◆「サバンナRX-3」のフルレストアに挑むのは… 華々しい歴史を持つサバンナRX-3を、再び蘇らせることを誓ったその人物とは…。長野県岡谷市で自動車販売・整備・修理を営む「郷田鈑金」の社長として、自ら数多くの鈑金塗装を手がけ、ロードスターのレストアを得意とする駒場豊氏だ。同社は1969年の創業から今年で50周年を迎える老舗のプロショップで、その歴史は自動車レースと関係が深い。遡ること45年前の1974年。静岡県駿東郡小山町にあるサーキット・富士スピードウェイで開催された「第9回富士ツーリストトロフィーレース」に、郷田鈑金の現会長・駒場稔氏がサバンナRX-3で参戦。500マイルの耐久レースでワークスカーも多数参加する中、総合8位という快挙を成し遂げているのだ。なんと、この時のレースで優勝したのは、ミスター ル・マンの愛称で知られる、あの寺田陽次朗氏だったというから、本当に驚きだ。◆ “50周年” を機にレストアを決意!「父(駒場稔氏)がサバンナRX-3でレースを始めたのは私が生まれた頃で、小学一年生の時が最後のレースだったのを覚えています。母に聞いた話では、私と弟の二人はとても幼い頃から、爆音が轟くピット裏に置かれたワンボックスの荷台で眠っていたようです。そんな環境の中で、当時サーキットで聞いたけたたましいエンジン音、タイヤやオイルが焼け焦げた、あの独特なニオイは今でもはっきり覚えています。サバンナRX-3は、自分がこの仕事に興味を持ち鈑金塗装やレースに関わりたいと思うきっかけになった、特別なクルマです。おかげさまで、郷田鈑金は地元を中心に様々な人たちに支えてもらい、今年50周年を迎えることができました。この節目に、自身のスキルアップも含めて、サバンナRX-3のフルレストアに取り組みたい。このクルマを手に入れてから20年。まったく動かしてなかったからこんなにボロボロだけど、これが走ったら楽しいでしょ? 走らせてみたいよね」そう語った駒場豊氏の声はとても柔らかく穏やか。しかしその瞳の奥には、揺るぎない確固たる決意を感じた。次回の記事では、挑戦者・駒場豊氏のこれまでの歩みとサバンナRX-3とのエピソードを紹介する。ご期待あれ。
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