九州大学、NTTドコモ、DeNA、福岡市の4者が、九州大学伊都キャンパス(福岡市西区)における自動運転バスの実証実験を2017年1月より開始する。伊都キャンパスは面積275ヘクタールの敷地に、学生と教職員約16000人が生活する広大な土地と多様な交通環境がある。その中で段階的に自動走行実証を繰り返し、自動運転バスの社会受容性の向上と安全性の検証を行う。年明けの実証実験に先立ち、学生と教職員が自動運転バスに試乗できる先行デモンストレーションが、13日に実施された。■まるで無人モノレール? 運転席のない自動運転バス車両実証実験で使用されるのは、DeNAの電気で動く無人運転バス車両「Robot Shuttle」。最大定員は12人(うち座席6席)で、ベビーカーや車椅子利用者のための可動式スロープを備える。ドアの開閉はボタン式となっており、車椅子利用者用ボタンと緊急停止ボタンも設置されている。車両最大の特徴は、内部に運転席がなく、車体に前面と後面の区別がない点。ゆりかもめやディズニーリゾートラインのような、無人運転のモノレールがクルマサイズで登場したような印象だ。実際に乗ってみると、左右の揺れが少ないので立っていてもそれほどふらつかないし、電気で動くため騒音も少ない。ルートはあらかじめ決められており、車体に搭載されたカメラやGPSなどが道路を認識し自動走行する。車両は最大速度40km/hまで対応するが、実証実験では安全面を考慮し、9~10km/h程度で運行するという。大人の早歩き程度の速度のため、車という先入観を持って乗るとかなりゆっくりとした走りに感じる。さらに車両に歩行者が接近すると、センサーが感知して自動停止するため、移動時間の短縮という視点では課題があるといえる。徒歩や自転車移動が困難な人にとっては、有意義な移動手段になり得るだろう。NTTドコモの吉澤社長は、「最初はもっと速く走ったほうがいいと思ったのですが、安全面を考えれば、安心感を与える心地よい走りだったと思います」と乗車体験を振り返った。実証実験を重ねるなかで、安全面と利便性を両立する運行方法にブラッシュアップされていくと期待したい。■歩行者主体の新安全装置と先読み運行管制システムさらに実証実験では、「交通事故をなくすには、自動車の対策だけでなく歩行者が携帯する安全装置が必要」と考える新概念「P2X(Pedestrian to everything)」を提唱。歩行者携帯物の安全装置などを開発、展開していく。2015年度のデータによると、交通事故による死者のうち、37.3%は歩行中によるものだった。そこで歩行中の重大事故を防ぐため、歩行者の携帯するスマートフォンと自動運転バスをWi-Fi Directで通信させ、バスが歩行者に接近すると、歩行者のスマートフォンに音と表示で通知を送る仕組みを開発した。バス車内のタブレット端末にも、歩行者が接近し危険な際は、画面にアラートが表示される。先行デモンストレーションでは、バスのりば「たけのこ保育園前」の手前にある下り坂をバスが左折しながら接近。目視では急に目の前にバスが現れるような死角だったが、バスが来る前にスマートフォンに「バスが近づいてきます」という音声とともに通知が届き、事前にバスの接近を知ることができた。P2Xが実用化されれば、今後は死角からでも事前に車両の接近に気づくことができ、重大事故を減らせる可能性が高い。NTTドコモの吉澤社長は、「全員がスマートフォンを持つのは難しい。だからランドセルにぶら下げることができるような専用デバイスも考えています」と明らかにした。また実証実験用のバス停にはタブレット端末が設置され、先読みオンデマンド(運行管制)システムが採用された。これはバス停に設置したビーコンで、バス停で待つ人数をスマートフォン内のアプリを経由して検知し、運行管制センターが自動運転バスの配車を指示するという仕組みだ。管制センター画面にはリアルタイムでバス停とバス車内の人数がカウントされ、ひと目で人数の行き来とバスへの乗降が把握できるようになっていた。このデータを活用し、今後はAIによる移動需要予測機能や効率的な経路選択機能も実装していくという。■自動運転バスにより社会課題の解決を目指す4者が目指すのは、「もっと安心」「もっと便利」につながるスマートモビリティ。地方路線バスの赤字化、ドライバー不足、高齢者による運転事故など、交通の社会課題を自動運転が解消する可能性は大いに感じられた。実証実験を含め、各社の今後の動向に注目したい。