中国やヨーロッパ諸国と比べて、日本はEV(電気自動車)普及が苦戦しているが、軽商用EVという分野で期待値が高い新型車として、いま最も注目なのは10月10日に発売されたHondaの軽商用EV『N-VAN e:』だろう。日本市場におけるEVの拡がりは、軽の商用車での領域が有望な中でHondaが軽商用EVを発売したことは注目に値する。
発売から2ヶ月が経過したこのタイミングで、『N-VAN e:』の商品企画・販売・マーケティングなどを担当する本田技研工業株式会社の岡田祥吾主任(総合地域本部 日本統括部 商品ブランド部 商品企画課)に、販売状況やターゲット層、整備や修理といったアフターサービス体制などについて話を聞いた。
テレビCMなしの状況で、想定以上の好調ぶり
『N-VAN e:』は当初2024年春の発売予定だったが、一部部品の量産に向けた生産体制の整備遅れにより10月10日に発売されて以後、メディア向けの試乗会や一般オーナー向けの試乗体験などが行われており、その様子がWebニュース記事やSNS動画などで拡散。テレビCMによる大々的なプロモーションを行っていない中、発売から約1ヶ月後(11月後半)の時点での販売状況は予想以上に好調とのこと。
テレビCMを打たず、試乗会に特化した訴求のみで新型車の売れ行きが伸びていくことは稀であり、『N-VAN e:』はそういった意味では想定以上の好調ぶりだと岡田主任は話す。また一部報道で年間約2万台の国内販売計画(2023年11月時点)との情報がある点について「Hondaとしては公式に販売計画数値は発表していない」との回答だった。
『N-VAN e:』の最大の特徴は、大型バッテリーを搭載しても現行型の軽バン『N-VAN』の車室の広さをそのまま維持しながら一充電走行距離245kmを実現している点であり、普通充電時間は6kWの出力で満充電まで約4.5時間。急速充電は50kwの出力で充電残量警告灯が点灯した時点からバッテリーを80%まで充電するまで約30分という点も魅力だろう。また、フロントグリルに、環境負荷低減に貢献する“サステナブル・マテリアル”としてHonda車の「バンパーリサイクル材」を意匠として、デザイン的に取り入れている点も特徴のひとつだと岡田主任は話す。
4タイプを個人向け・商用向け・サブスクで販売
販売形態としては、個人向け、商用向け、サブスクリプションなど様々なパターンを用意。車種は4タイプあり、スタンダードタイプの「e: L4」(269万9400円)は個人・商用を問わず購入できる4席シート。「e: FUN」(291万9400円/急速充電は標準装備)はe: L4をベースにした趣味やレジャー向けのスタイリングや仕様装備が特徴で、「e: L4」と「e: FUN」の基本の走行性能に大きな差はないとのこと。
商用向けに特化した「e: G」(243万9800円)は一人乗りタイプ。運転席と運転席側後席の2席がある「e: L2」(254万9800円)は前後タンデム仕様を採用している。それぞれ先進安全性能やライト、UVカットガラスの有無、スマートキーシステムの対応有無のほか、急速充電は10万円程度でオプション契約が可能となる。なお「e: G」と「e: L2」は新車オンラインストア「Honda ON」での販売限定で、リース契約のみでの取り扱いとなる。事業者用補助金(LEVO補助金)を適用すれば、全グレードで200万円を切る価格設定となり、一般使用補助金(CEV補助金)も軽自動車の最大補助額55万円が全グレードで適用される。
点検整備・車検・修理はHonda正規販売店で対応
整備や修理といったアフターサービスについては、『N-VAN e:』に限らず、Honda車は全国2,000店舗以上あるHonda正規販売店のサービス工場にて、点検整備・車検・修理等のアフターサービスを行っていると岡田主任は説明する。
特に最新型EVについては、電圧取扱資格を有する整備士が対応し、ハイブリッド車専用工具(絶縁工具)やEVの重さに耐えられるリフト、専用のバッテリー診断機に加え、エーミングやOBD検査、OBD検査が不適合だった場合の修理対応も問題なく行えるHondaの純正診断機(i-HDS)を兼ね備えている。
なお、地域によってはHonda正規販売店の人材不足が深刻化しているため、外部パートナーとの連携の必要性を議論する時期が来るかもしれないが、現時点ではHonda正規販売店でDXなどによる工夫や効率化に取り組んで対応する考えだという。
車載バッテリーの保証あり
保証について尋ねたら、新車登録8年間または走行距離160,000kmまでバッテリーの電池容量(蓄電能力)の70%が保証され、70%を下回った際は修理、または交換で対応するとのこと。時間経過や使用状況に起因しない電池容量の低下に関してはHonda正規販売店のサービス工場でバッテリーを診断し、異常が見つかったら一定の条件内にて保証修理を受けられるという。なお時間経過、使用状況で電池容量低下はリチウムイオンバッテリー本来の特性で不具合ではないため保証修理の対象外となる。この情報はHondaの公式Webページ(HondaのEV車メンテナンス)でも記載されている。
岡田主任は『N-VAN e:』の販売状況について「現時点では、軽バン『N-VAN』オーナーの男性高齢者層(50~70代)からのニーズが高い傾向です。『N-VAN e:』のメインターゲットは軽貨物配送を行う法人・個人事業主ですが、商用利用だけでなく、現行『N-VAN』のブランドに馴染みがある男性を中心としたリタイア世代のユーザー層に、家庭菜園や釣りなど、趣味やレジャー用途に適した軽EVとしても受け入れられており、その層も積極的に販売を伸ばしていきたい考えがあります」と述べていた。
『N-VAN e:』によって、Hondaが日本のEV市場に本格参入したことは明らかであり、今回の取材でHondaの本気度を強く感じた。『N-VAN e:』が国産軽商用EVの代表的な存在として普及していくのかどうか、今後の動きに注目したい。