たいそう華やかな盛り上がっていることは噂で見聞きしていたけれど、まさか自身がこのレースに出場するなどとは夢にも思っていなかった。
というのも「K-4GP10時間耐久レース」は軽自動車をベースにしたエコラン的要素の強い耐久レースであり、アマチュアの祭典だからだ。巷では大人の運動会であったり、本気の走行会ともいわれている。
あまりに楽しそうなので、いつかは参戦したいと願っていたけれど、仮にもレースで禄を食んでいる僕が参戦していいものかと懐疑的でもあったのだ。とはいうものの、トーヨータイヤがワークス体制で「プロクセスTR1」を装着して出場すると聞いて、黙っていられるほど鈍感ではない。
しかも、マシンはダイハツ『GRコペン』。電動オープンの2シータースポーツであり、開催場所の富士スピードウエイを颯爽と走り姿を頭に描いてしまったのである。
◆ワークス体制で参戦した理由とは…? 10時間後のゴールを目指す
今年から僕はトーヨータイヤのタイヤ開発のために、世界一過激なニュルブルクリンクの耐久レースに挑んでいる。(今週の9月9日、10日にTOYO TIRES with Ring Racingより通称:ニュル12時間耐久/NLS6-7に参戦するので、応援いただけると嬉しいです!)それとは対象的な“大人の運動会”で楽しむのも悪くはないと思ったわけである。
最もトーヨータイヤがわざわざワークス体制を組織して参戦するにはそれなりのわけがある。まず1つはフラッグシップブランドであるプロクセスのスポーツタイヤ「プロクセスTR1」の性能確認だ。サーキット走行に相応しい操縦性を秘めており、しかも転がり抵抗が抑えられていることから燃費がいい。このタイヤで10時間を無交換で走り切れるかの検証が第1の目的だ。
その一方でプロモーション的な意味合いもある。性能の高さをアピールすることで、プロクセスユーザーへの訴求もミッションだったのだ。しかもレース当日は台風7号の影響もあり、大雨が予想されていた。ウエット性能の評価も高い。鬼に金棒なのだ。
ただしいくらタイヤの性能でアドバンテージがあるからといって、優勝するのは簡単ではなかった。いわゆるノーマル状態で出場しているマシンは、おそらく我々が唯一であろう。例えば140km/hで作動する速度リミッターすら解除していないから、国内最長とされている富士スピードウエイの直線では、コースの半分も走り切らないうちに速度が頭打ちしてしまう。
そしてGRコペンは、そもそも軽自動車としてプレミアム度が高い。電動オープントップを装備するほど豪華なスポーツカーであり、ターボチャージャーで武装しており、パワーウインドーや電動ミラーなども組み込まれているので、決して軽くはないのである。
軽量化が欠かせないエコランでの劣勢は明らかだ。圧倒的にレースを支配していたのは、1990年代に生産された軽量モデルであり、660ccのNAエンジン車だった。軽量であることが最大の武器に、ハイペースで周回が可能なのだ。
軽量化のためにリアガラスを取り外したり、さらにドアバネルををくり抜いてまでして軽さにこだわっている。電気モーターだらけの最新のGPコペンをノーマルのまま持ち込んだ状態では歯が立たなかった。
救いだったのは、GRコペンの操縦性は俊敏であり、プロクセスTR1のグリップが高いこと。せっかく加速した速度を落とさずに旋回するのがエコランの基本ドライビングだが、ライバルより高い速度で旋回が可能だったのは幸いだった。たとえば高速コーナーの100Rなどでは、ライバルがブレーキングしながら旋回していくのに対して我々は、スロットルを緩めずにクリアすることが可能だった。
ブレーキングはエネルギーの熱変換ロスと同意である。速度を落とすことはあらためて加速が強いられるわけだから、それもロスとなる。その意味ではプロクセスTR1を履く我々はずいぶんと有利だったのだが、ノーマルマシンの重量級ハンディを覆すことは容易ではなかった。
◆初挑戦の結果はクラス9位で完走! プロクセスTR1は無交換で10時間を走破
というわけでは結果は、GP-3Fクラスで13台中9位、総合結果は128台中75位でフィニッシュ。ちなみにプロクセスTR1は無交換で走りきったばかりか、もう1レースできるのではないかと思うほどトレッド面がキレイだったことに驚いた。
大人の運動会というほどに、競技としては楽しい。興醒めするような厳格な改造規定がないから、誰もが自由な発想でマシンをモディファイして挑んでくる。アマチュアドライバーがほとんどだが、絶対的な速度が低いから危険度も低い。
それでいて高い戦略性がある。燃料の総量は限られており、義務付けられている給油回数は6回。どの燃費で走り続け、どのタイミングで何リッター給油すればいいのかなど、とても一見さんには太刀打ちではないほどの経験と頭脳が求められる。ただの遊びではないのだ。
僕がこれまで出場した耐久レースの中で、K4GPは最も雰囲気がアットホームであり、規則に縛られないレースだと感じた。それでいてとても高度な頭脳戦でもあるのだ。サンデーモータースポーツの本質が詰まっていると思えたK4GPへの参戦だった。