送迎バスに置き去り防止装置の搭載が義務化、パイオニア『NP1』は何ができる? | CAR CARE PLUS

送迎バスに置き去り防止装置の搭載が義務化、パイオニア『NP1』は何ができる?

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園児送迎用バスに取り付けられた「NP1」の特別仕様モデル(左上)
  • 園児送迎用バスに取り付けられた「NP1」の特別仕様モデル(左上)
  • パイオニアの実証実験に参加した川越幼稚園の送迎バス
  • 置き去り防止機能を備えた「NP1」の特別仕様モデル。ソフトウェアは別のボックスに収納され、USB経由でその制御が入力される
  • 送迎バスの前部に取り付けられた警報用ホーン
  • 「安全確認ボタン」は送迎バスの後部かつ園児が容易に届かない場所に取り付けられる
  • OTAによる常に最新の状態にできるのは、オリジナルの「NP1」と同様だ
  • 川越幼稚園の榎本 円 園長。役割分担を明確にすることで、これまでも置き去り事故を防止してきた」と話す
  • パイオニアの実証実験に参加した川越幼稚園。明治37年創立の歴史は約7000名の卒園生を送り出してきた

パイオニアは、内閣府の「送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置」に適合したオールインワン車載器『NP1』の特別仕様モデルを発売し、4月末より順次出荷する。その効果を検証するため、2023年2月より幼稚園バスに装着して実証実験を実施し、その概要を公開した。

◆4月から園児送迎バス「置き去り防止装置」の搭載が義務化

近年、車内に幼児を置き去りにする事故が相次いでいるが、その大半はヒューマンエラーが原因であるとされる。このような痛ましい事故が起こらないよう国土交通省は2022年12月20日、「送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドライン」を策定。その後、わずか4か月後の23年4月1日からは幼稚園や保育園などにおける全国4万台を超える送迎バスにおいて、当ガイドラインに適合する装置の設置が義務化されるまでになった。

この短期間で義務化が実施されたのには理由がある。送迎バスを運用する幼稚園や保育園側から「事故が想定される夏前からの対策が必要」との声が多数寄せられたからだ。夏場の炎天下にさらされた車内の温度はまさに炎天下地獄状態になる。そういった状況下での事故発生を未然に防止するためにも早期の対応が欠かせなかったのだ。

こうした動きを受けてパイオニアは、車内監視機能を備えていたNP1をベースモデルに、このガイドラインに沿った特別仕様を開発。それを日頃より付き合いがあった川越幼稚園(埼玉県川越市)の幼稚園バスに装着し、2月以降、運用実績を積み上げると共に、運用上での課題の洗い出しを実施に役立てることとなったという。

◆ヒューマンエラーによる置き去り事故を防止する二つの手順

国土交通省が示したガイドラインでは、ヒューマンエラーを補完する置き去り防止装置として認められる製品の要件として以下の二つを定めている。一つは「降車時確認式の装置」で、これは乗員が降車する際に車内向けて警報を発し、その警報を停止する際に乗員の置き去りをチェックするというもの。もう一つは「自動検知式の装置」で、カメラなどのセンサーによって人を検知した後、それを車外に向けて発する警報によって置き去りを認知するものになる。

パイオニアが開発したNP1特別仕様は、これらの二つを組み合わせた上で、通信によってあらかじめ指定されたスマートフォンなどへ通知するものとなる。

具体的には、まずエンジンを切ると車内に向けてNP1からメッセージが流され、ドライバーあるいは乗員が車内の置き去りがないかを確認した後、車内後部に設置された安全確認ボタンを押すとこのメッセージを停止することができる。これが基本の作業の流れだ。

その作業を再現してもらうと、降車時はNP1から「降車時確認機能が作動中。車内に人がいないことを確認し、安全確認ボタンを押して下さい」とのメッセージが流れた。続いて「エンジンを切って5分(10分に設定も可))以内にボタンが押されなかった場合、警報が鳴ります」「時間内にボタンを押した場合、エンジンを切ってから15分後に自動検知機能を開始します」となる。

運転手はこれを聞きながら車内の見回りをして安全確認ボタンを押しに行く。メッセージはこのボタンを押すまで何度も繰り返されるため、これにより最初の車内置き去りを防止につながるのだ。

一方で、この作業をしなかった場合は、設定した時間になると(10分、15分が選択可能)自動検知機能が作動を開始。ここで置き去りを検知するとあらかじめ登録された携帯電話にSMSで通知する(最大5台まで登録可能)。さらに車体に取り付けられた専用ホーンによって置き去りの可能性を周囲に知らせる仕組みとなっている。そして、このホーンの発報を停止するためには安全確認ボタンを押すか、エンジンを始動させる必要があり、そのために車内へ向かうことで置き去り防止につながるのだ。

◆赤外線撮影も可能なカメラと自動アップデート機能を搭載

では、どうやって車内の置き去りを検知するのか。それにはNP1に搭載された車内カメラを使う。これによって置き去りにされた人を検知できるため、仮に置き去りを見逃してしまった場合は外部に向かって警報を発して対応するのだ。さらに指定したスマートフォン(最大5か所)にもその状況として知らせることもでき、この何重もの防止策によって置き去り事故の発生を限りなくゼロに近づけることができるというわけだ。

特にNP1に搭載されている車内カメラは赤外線撮影を可能としている。そのため、仮に置き去りがある状態で幼稚園バスをガレージに入れて車内が真っ暗になった場合でも人の検知は可能だ。パイオニアによれば、中型バス程度の車内であればNP1から発射される赤外線で後部まで十分カバーできるという。ただ、シートの陰などに寝てしまっている場合の検知は不可能。その意味でも、国土交通省のガイドラインにもあるように、降車時の人の確認こそが最も重要になることに変わりはない。

とはいえ、送迎バスは燃料を入れたり、車内清掃を行うわけで、ここで意図しない発報は困る。そこで本システムでは一回だけSMS発信や発報を作動させなくすることもできる機能も用意された。これによって、給油などの際にいちいち車内後方まで行ってボタン操作をしなくても済むようにもなっている。ただ、15分後には自動検知モードに戻ってしまうので、さらに停車を継続したい場合は警報器が鳴る前に安全確認ボタンを押して機能を止めることが必要となる。

また、NP1ならではのポイントとしてあるのが、自動アップデート機能だ。これはNP1にプログラムのアップデートが必要になった際に、NP1に内蔵された通信機能によってアップデートされるというもの。いわゆるOTA(Over the Air)によるものだが、これはNP1が本来備えた機能であり、常に最新の状態で維持管理ができるNP1本来の機能がこの特別仕様にも活かされたことになる。パイオニアではこの機能を活かし、発売後もアップデートを行うために実験を続けていく計画だ。

製品はNP1本体に加え、バッテリ接続用ケーブル、車外警告用ホーン、安全確認ボタン、置き去り防止器機能に対応した特別仕様のNP1用アプリが含まれ、価格は12V/24V電源用ともに12万9800円。この中には最初の1年分の通信料が含まれる。2年目以降の通信費用は別途支払が必要となる。また、これとは別に、パイオニアが指定する取り付け業者による工賃がかかるが、その場合でも全額補助される補助金*内で賄えるとしている。

◆「NP1特別仕様モデルはイレギュラー時の“最後の砦”」

最後に実証実験に参加した川越幼稚園の榎本円(まどか)園長に話を聞くことができた。この件に関して、話はパイオニアから持ちかけられたそうだ。パイオニアは同じ川越市内に事業所を持ち、そこに併設されていた敷地では以前から川越幼稚園の運動会が開催されてきた。実証実験を実施するにあたっては、できれば地元の幼稚園で行った方が作業がしやすいと考えていたパイオニアにとって川越幼稚園へ依頼することは第一候補となった。

この依頼に榎本園長は「置き去り事故が相次いで報じられている中で、数多くの連絡が届いてどう対応すればいいか迷っていた。そんな矢先、パイオニアから連絡をいただき、高機能なシステムであることを知り、今までのご縁もあったので応じることにした」と話す。

「当園においてはマニュアルだけでなく、実践の中でバスに添乗した教員は乗車した園児を数えて運転手に報告し、運転手は入口で受け入れをする教員にその人数を伝え、そこで頭数を数えて朝の挨拶をする。運転手と添乗した教員はその間にバスに戻って車内を消毒するため、これで自動的に置き去りがないことを確認することになる。つまり役割分担が明確になっているので、これまでの作業でも置き去り事故は起こりえないと考えていた」

ただ、「安心を保護者に伝えるために必要でもあるし、イレギュラーな事態が発生した際にも“最後の砦”として対応できることも重要だと考え、万が一に備えることも踏まえ申し出に応じた」と述べた。

一方で、送迎バスのドライバーは中高年が少なくない。そうした人たちがNP1のようなデジタル機器に対して現場でのアレルギー反応はなかったのだろうか。「それはなかったが、運転に集中できるシンプルなものがありがたい」と言う意見はあったそうだ。それでも「口頭で説明しただけで特に問題なく運用はできているようなので、このまま正式に導入する予定でいる」とも話した。

これまで相次いで発生していた痛ましい置き去り事故。この対策により「送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置」の装備が進むのは間違いなく、そうした事故が再び発生しないことを切に願いたい。

《会田肇》

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