ECUとはエンジン・コントロール・ユニットのこと。この中身のデータを書き換えるのがECUチューンで、現代のクルマを速く乗りやすくするには必須のチューンとなっている。エンジンの寿命がトレードオフになるのも過去の話だ
◆ECUチューンこそが現代チューンの真髄
エンジンは吸い込む吸気の量、吸気温度、アクセルの量から推測するドライバーの欲しがっているパワーなどに応じて、ECU内で計算。スロットルバルブをモーターで開き、バルブが開くタイミングを調整し、適度な量のガソリンを噴射して、最適な点火時期にプラグに電気を流して着火している。それらすべてはECUに設定されたマップによって決められている。昔はエンジン回転数とアクセルの量によるマップがあり、その中に設定されたガソリンの噴射量をインジェクターから噴射していた。現在でもそういったマップがあるにはあるが、外気温が高い時、低い時とか、負荷が強く掛かっているときとか、さまざまな条件で読むマップが変わるようになっていて、その数は軽く数百マップあるという。
さらにトルクが出過ぎでクルマが壊れないように細かく制限を掛けるための「リクエストトルクマップ」なるものもあり、いくらチューニングしてもその数値を上げておかないとパワーが出すぎと判断して、車両側で自動的に絞られてしまう。しかし、むやみに上限値を上げておくと、本当になにかトラブルが起きた時にエンジン保護をできなくなってしまうので、エンジンが物理的に壊れてしまう。そういった速度リミッターやエンジン回転リミッターのほかにも、さまざまな制限が掛けられている。ECUの内部にはそういったデータが入っているが、もちろんそれを書き換えられないようになっている。そこでそのECU内部にアクセスして、パワーアップするための領域を書き換えるというのがECUチューンなのだ。
◆そもそも解析とはなんなのか
そこで出てくるのが解析という言葉だ。内部データはびっしりと数字が並んでいる。その数字のどこからどこが点火のマップ、どこが燃料噴射量のマップで、どこがリミッターになっているかというのを探し出すことを解析するという。この解析は大変な作業で、古くはチューナーが何ヶ月も試行錯誤してきた。過去にエンジンデータを触ってきた勘から、こういった数字の推移は点火マップに違いない!ならば、書き換えて測定してみよう=パワーチェックするとどうにも変化がないので、違う領域だったのかなぁ、という膨大な作業の繰り返しで解析がされていた。
最近ではマップが複雑すぎて、そういったコツコツとした解析は厳しく、国内はもちろん、海外の解析業者がそのデータを読み解き、その辺りがどういったマップかを示した定義ファイルというものを販売するようになった。同じ車種でもこの解析のやり方によって若干異なり、A社の定義ファイルだと回転リミッターの場所が不明なので回転リミットは変更できないが、B社の定義ファイルにはそこが記されているので回転リミッターを解除できた、ということもある。
◆セッティングと解析は別の話
どこそこのチューナーは自社で解析しているので速い。なんて昔は言われたものだが実はほぼ関係がない。たしかに、解析によって多くの内部データを読み解いたほうが、より幅広いセッティングができる。しかし、だからといってその解析できる業者が速いマップを作れるわけではない。解析した領域を元に、どれだけ乗りやすく、壊さずにパワーを出すかは、未だにチューニングショップのスキルに掛かっている。どれだけガソリンを噴いて、点火時期とバルブタイミングをどうして、どんなパワーの出し方をしようかというのはソフトを使う側の問題。解析はいわばパソコンメーカーのようなものでハードを作る側なので、ハードが作れるからといって最適なソフトが作れるわけではないのだ。チューナーは試行錯誤しながら、最適なパワーとトルクが出せるデータを作っていく。キャブレターの時代は高回転での伸びを重視して、いかにギリギリまで燃料を絞って空燃比を薄くするかという流れがあり、それゆえに詰めたエンジンセッティングはブローと紙一重だった。
しかし、現在はまったく違う。燃費問題などによってリミットが掛けられている部分をいかに開放してあげるかが大切で、現代のECUチューンでエンジンの寿命が縮むというのは迷信。少なくともきちんとした技術を持つ有名チューナーでECUチューンを行った場合、10万キロや20万キロでECUチューンによる負荷によってエンジンが壊れるということはないので、安心して楽しんでもらいたいがそのチューナーが本物かを見極める眼がユーザー側にも要求されるようになっている。