【車】バスの定時性を保つ、ということ前回、docomoが取り組む、オンデマンド型のAI運行バスについて書いた。人が少ない場所を走るなら時刻表など作らず、こうしたオンデマンド型の利便性が求められるけれど、大勢の人を運ぶ路線では、時刻表どおりに運行できる定時性が重要になってくる。なんたってバスは「来ない」。雨がふって、停留所でずぶぬれになっているときは本当に来ない。せめて、時刻表通りに来てくれれば、もう少し対応できるのにと、これからの季節の冷たい雨に耐えているバスユーザーはきっと思っていることだろう。定時性を保つポイントは、渋滞問題と、バスの運用方法のふたつが挙げられる。渋滞問題はバス専用レーンや、警察庁などが取り組んでいるバス優先信号で切り抜けようと試みている。一方、運用方法は、乗り降り時にかかる時間の短縮が課題だろう。日本はなぜ、前後どちらかのドアからしか乗れないのか(降りられないのか)。ここをクリアできれば、だいぶ違うと思うのに。そんななか、某企業チームが実験し、「前後両方使っても乗り降り時間は変わりません」というふざけた結果を提示してきて、私は非常に憤慨している。一定数の成人をよーいどんで乗り降りさせても、そりゃ、そんなに変わらないでしょうよ(実験の内容はたしかそんな感じだった)。◆乗り降りに掛かる時間を短縮するために実際のバスの現場では、もっとさまざまなことが起きている。高校時代、バス+電車通学をしていた経験から主な3つを挙げると、(1)前から乗るバスは、バスの前半分がぎゅうぎゅうで、後ろ半分は空間があるときがある。雨の日なんか特にそうで、乗客を乗せきれず発車できない運転士さんの「もう一歩、中ほどまでお進みください!」という悲鳴に近いお願いアナウンスが何度、車内に響き渡ることか。こんなとき、後ろのドアから乗れちゃえば、どんなにいいことだろう。(2)降車時は、バス内での転倒防止のために、停車してから席を立つように求められる。前から降りる場合、後方の席に座っている人は、それなりに時間がかかる。高齢者で歩行が遅ければなおさらだ。後ろのドアから降りられれば、高齢者も気まずい思いをしなくていいのにといつも思う。(3)料金収受に時間がかかる。いまは、電子マネーなどでだいぶ早くなったとはいえ、現金利用者も一定数いる。欧州では前後ドア、大型バスなら真ん中にもドアがあり、自由に乗り降りできるところが多い。当然、乗り降りにかかる時間は見事なほどに短い。なぜこれができるかというと、運賃の収受方法に違いがある。私が住んでいたイタリアの例を挙げると、運転士は運賃収受にはノータッチで運行に専念できる。安全面からもこのメリットは大きい。では、収受はどうしているかというと、乗客は現金利用が認められず、事前にチケットを買う必要がある。1回券、8回券、1か月用のパスなどの種類があり、割引率もそれぞれ異なる。1回券、8回券の場合は、車内に設置されているボックスの差し込み口にチケットを差し込むと、使用済みとして切り込みが入れられ、併せて、いつ、どの路線に乗ったかが打刻される。時刻が打刻されるのは、90分以内ならバスの乗り換えが認められているからだ。一方、定期券所有組はなにもしない。なので一見、無賃乗車のように見える。それをチェックするためにあるのが、検札制度だ。検札員がバスに乗り込んできたら、乗客は彼らに乗車に有効なチケットを見せる。無賃で乗っているのがバレたら、違反切符を切られる仕組みである。違反切符は日本の交通違反と同じで、期日までに郵便局などでの支払いが義務付けられている。反則金は、約100円の運賃に対して5000円くらい。検札員との遭遇率は20回に1回くらいと記憶しているので、そりゃ、真面目にチケットを買おうという気になろうというものである。◆課題は反則金の額と、IDカード日本もそうすればいいじゃん、と思うのだが、そこには2つのハードルがある。ひとつは、反則金の額。日本では、運賃の4倍までとなっていることだ。運賃が100円なら反則金はわずかに400円。抑止力もなにもあったものではない。この状況で無賃乗車を防ぐためには、遭遇率を4回乗車に一回までに上げなくてはならず、それでは人権費の方が高くつく。もうひとつは、日本にはIDカードがないことだ。イタリアの場合、14歳以上にはIDカードの携帯が義務付けられている。ゆえに、検札員が無賃乗車を見つけたときに、すみやかに違反切符を切ることができるし、違反者が反則金を払わないときの追跡も容易になる。でも、日本ではパスポートや運転免許証がIDカードとして代用されており、いずれも所有していない人がいる。しかも携行の義務もないため、違反切符が切れないのである。バスの定時性を保とうというのなら、この2つのハードルにすぐにでも取り組むべきだと思う。乗り降りにかかる時間を短縮しなければ、乗降客数の多い路線では、いつまでたっても定時性なんて保てない。ついでに、いずれ自動運転でバスを走らせたいというのなら、運転と料金収受は切り離しておいたほうがいいと思うんだよね。岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。