クルマのサスペンションというとコイルスプリングのついたタイヤを支える部品、またはその部分を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。スプリング(ばね)はなんとなく衝撃を吸収してくれそうで直感的にも役割を示してくれる中心的な部品だ。しかし、サスペンションの重要部品はスプリングではない。というと異論はあるかもしれないが、あえてそう表現したのは、クルマの乗り心地や走行性能(走る・曲がる・止まる)はスプリングだけではまともなものにはならないからだ。サスペンションのもうひとつの主役、「ショックアブソーバー」(ダンパーなどともいう)の存在を忘れてはならない。スプリング部分の内側に棒状の部品が通っているサスペンションの写真を見たことがあるかもしれない。その棒状の部品がショックアブソーバーである。もちろん車種によってはスプリングの外側に配置されることもある。F1マシンのような特殊なサスペンション構造だと、横向きに寝かせて取り付けられることもある。◆ショックアブソーバーの役割とはショックアブソーバーの主な役割は、「スプリングの動きを抑制する」こと。スプリングは路面の凹凸や段差の衝撃などを吸収してくれる。だが、衝撃を吸収したスプリングは元に戻ろうと反発力を生む。そしてこの動きは1回では終わらず振動(振幅)を繰り返す。この振動は、ブレーキやコーナリングで車体が沈んだり傾いたときにも同様に発生する。じつは、クルマのサスペンションがスプリングだけだと、この余分な振動が乗り心地や走行性能を悪くする。スプリングが常に動いている状態となり、まっすぐ走っていてもゆらゆら車が揺れ続ける。乗り物酔いしやすい人はおそらく乗っていられないだろう。車体も安定しないので運転しづらいだけでなく4輪の荷重(=タイヤのグリップ)もバラバラになるので操縦性や安全性にも悪影響が出る。そこで必要なのが、縮んだスプリングまたは伸びたスプリングの動きをなるべく1回で止めるための力である。衝撃で急激に伸縮したスプリングをゆっくり戻してやることができれば、クルマの安定性が高まり乗り心地も改善される。この役目を担うのがショックアブソーバーだ。つまり、走行中の路面の凹凸など、速度の速い入力に対してはスプリングのような応答速度が速く柔らかい部品が必要だが、スプリングの特性は走行中のクルマを安定させるためには向いていない。そこにショックアブソーバーを加えることで、サスペンション全体の性能を上げている。◆水鉄砲のような構造、方式は2種類構造は、竹筒の水鉄砲を思い浮かべるといいだろう。ただし、この水鉄砲は水を吹き出す穴がない。そして反対側も密閉されている。そして中の液体は水ではなくオイルである。このままだと密閉されているのでピストンはあまり動かせない。そこで、ピストン部分に弁を取り付け液体の中をピストンが動くようにしてやる。この「水鉄砲」のピストンを上下させるとどうだろうか。非常に動かしにくいことが想像できるだろう。これをサスペンションのスプリングが動く方向に沿って取り付けて(通常はばねの内側に立てる)やると、前述したスプリングの余分な動きを抑えてくれる。スプリングが縮むとき、伸びるときの「抵抗」となり、ゆっくり動くようになる。この抵抗の度合いを「減衰力」(kgfで表す)といい、減衰力が高いほど抵抗が高くなり、「硬い」ショックアブソーバーとなる。一般的に硬いショックアブソーバーほど、スプリングの不要な動きを抑え、走行性能は向上するが、乗り心地は悪くなる。ショックアブソーバーの基本的なしくみは以上だが、実際の製品はもちろんもっと複雑かつ高精度に作られている。ショックアブソーバーは減衰力を発生させる方式の違いによって「単筒式」と「複筒式」の2種類に分けることができる。上記の説明は単筒式と呼ばれるショックアブソーバーだ。構造が単純で減衰力の発生がリニアなのでスポーツカーや競技用の車両と相性がよい。複筒式は、筒が二重構造になっており、オイルはピストンによって内側のシリンダーと外側のシリンダーの間を移動することで減衰力を発生させる。複筒式は、構造が複雑だが外側のシリンダーが多少へこんだりしても内側シリンダーのピストンの動きには影響を与えないという特徴がある。また、ショックアブソーバーの長さが短くても一定の減衰力を発生できるのでサスペンションの設計や車のサイズを選ばないので、さまざまな車両に採用される。◆目的によって種類を選択可能他にも外観上の分類では「純正形状タイプ」と「車高調整タイプ」という分け方も可能だ。前者は名前のとおり、ラインオフで多くの車両に取り付けられている形のショックアブソーバー。シリンダーのアウターシェルにスプリングを受ける大きな「お皿」がついている。後者はスプリングも専用のものが前提となる形状で、スプリングの長さで車高を変えられるようなタイプだ。このタイプは、スプリングの長さだけでなくサスペンションの全長を変えられるものも存在する。減衰力を調整できるショックアブソーバーもある。ピストンロッドの先端やシェルケースの外側に調整ねじやダイヤルがついており、これを回すことでオリフィスというピストンのオイルの通り道や弁を調整することで減衰力を変える。別タンク式ショックアブソーバーというのは、ショックアブソーバーに封入されているガスを増設した専用のタンクに分離させたものだ。以上、ショックアブソーバーの基本的な役割としくみ、どんな種類があるかを簡単に解説した。次回は、これらの特性ごとの違いや用途、チューニング方法、交換について解説してみたい。