タイの中古部品ビジネスの市場はまだまだ薄暗いグレーな市場だ。そこで奮闘する日本からきた中古自動車部品会社がある。◆タイで流通する自動車部品のカテゴリータイには大きく3つのカテゴリーの自動車部品が流通している。正規純正部品、市販部品、中古部品である。整備純正部品とは、自動車メーカーを通じて系列カーディーラーや大手部品商へ流通していく部品だ。新車ディーラーの整備工場で取り扱われる自動車部品で価格も最も高い。そのため、整備純正部品を好むユーザー層は、新車ユーザーや高年式車のユーザーに限定される。市販部品は、デンソーやボッシュなどのOEMメーカーの良品と、発展途上国などで作られる無名ブランドやイミテーションなどの粗悪品に分けられる。これら市販部品は、自動車部品専門商社や卸売商を経て中小部品商へ集約されたのち、各地の整備会社へと流れていく。純正部品に比べ価格が安いため低年式車のユーザーや中古車ユーザーに好まれている。中古部品は、タイではシエンゴンと呼ばれる中古部品市場が流通の中心だ。バンコクで流通する中古部品については90%以上が日本からのもので、残りが欧米からと言われている。日本からコンテナで、鉄クズとして低関税で輸入してきたものを取り扱っている。中古部品市場内にある各中古部品商は、機能性部品や外装品などごとに、ある程度の専門化が進んでいる。また、輸入された部品以外にタイ現地で発生した部品も多数流通している。現地で発生する部品は、修理工場や現地のスクラップ工場からのものだが、スクラップ業者が各地から集めてこのシエンゴン(中古部品市場)へ売りにきている。中古部品は、超低年式車のユーザーや、エンジンやミッションの乗り換えを行う改造車ユーザーなどからの需要だけではない。安かろう悪かろうを好む中古車ユーザーにとっても貴重な商品となっている。◆中古部品市場に新しく参入した日系企業2016年のタイ国内の新車販売台数は、前年比3.9%減の76万8788台にとどまった。国内及びグローバル経済の停滞や政情不安、タイ国王の崩御による消費者マインドの低下が、新車販売台数の減少につながる結果となった。2014年6月にタイ進出した日系の中古部品会社「アップガレージ」は、市場縮小の影響は受けていないようだ。以前、筆者がインタビューをした際には「3度の飯よりも車が大好きと言う方々がターゲットであり、車そのものよりも、今もっている車をいじるため市場は、新車販売需要の影響は余り受けない」と聞いた。アップガレージのタイ進出のきっかけは、自動車好きなタイ人たちがわざわざ団体で日本のアップガレージに中古部品を買いに来ていたことだ。その後、タイ市場をリサーチしながら、タイ人3名のスタッフを雇い日本で研修を行った。現在は日本で研修を受けたタイ人の1人が店長としてビジネスを動かしている。販売は、ほとんどがタイ人の中間層。平日の来店数は40~70名で土曜、日曜日は20%ほどアップすると言う。商品の80%が日本からの輸入で2か月にコンテナ1個の仕入れを行っている。一番の売れ筋は中古ホイールで、車のシートもよく売れる。大々的な広告は行っておらず、自社フェイスブックで新入荷の商品を掲載している。ほかには自動車系の雑誌への広告と口コミだけだが、リピーター割合が50%以上と高い。◆タイアップガレージの課題と強み順調なように見えるアップガレージの中古部品ビジネスだが課題もある。1つに商品の仕入れだ。日本からの輸入にしろ、タイ現地での買い取りにしろ、同じものがずっと並んでいると顧客は飽きてしまう。一方で、日本では車のカスタマイズも減少傾向で、商品自体が品薄だ。2つには、商品構成の変更である。日本から持ってきた売れ残りの商品がある。日本とタイでは商品が異なるためだ。日本では、ミニバンなどの内装カスタムが多いが、タイではセダンやコンパクトカーなどで外装もやっている。20年前の日本のような商品構成の方がタイでは販売がしやすい。ホイールも15インチが主流で日本とは異なる。現地で実際にビジネスを行って見ないとタイ独自のトレンドは見えてこない。3つには、商品の転売対策である。タイでは商品の横流しが日本と比べものにならないほど多い。個人でアップガレージに来て、写真を撮って自分のフェイスブックに載せて転売してしまう。実際には商品の2~3割は転売されている。一方で、地場の中古部品販売店にはないアップガレージの強みが多くのリピーターを囲い込む原動力となっている。自社商品に保証(1週間は返品、交換可能)をつけ、日本ブランドの品質の高さと信頼を前面に出している。コピー品を扱わないのもリピーターにとっての魅力となっている。更にホイール、ナビ、オーディオなどの買い取り・下取りも積極的に行い差別化を打ち出すことで中古部品市場への後発組にも関わらずタイでの認知度を向上させている。◆タイ中古部品ビジネスのこれからの方向性最も重要なことは現地を知り、現地に合わせることだ。つまり、タイのマネジメントや現地のトレンドにあった商品仕入れ、商品構成商品を取り入れる必要がある。更に、将来的には現地のタイで商品を確保できるような体制にしていくことが重要だと考えている。タイの中古部品市場はまだまだ開拓の余地が残されており、巨大で高いポテンシャルを持つという魅力がある。市場の90%以上が日系自動車ブランドであるタイにとって、自動車部品流通の健全化は、日本の自動車メーカーの更なる発展につながるだろう。タイの中古部品ビジネスの市場は、まだまだ薄暗いグレーな市場だ。商品価格や流通の仕組みを透明にしていくことが、この業界の発展を促すことになっていく。<川崎大輔 プロフィール>大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。