4月12日、コンサルティング・ITシステム開発会社のアクセンチュアは、2017年に企業が押さえるべき最新ITトレンドを定義した調査レポート「Technology Vision 2017」の記者説明会を開催した。「テクノロジーを”ひと”のために」というサブタイトルが付いたこのレポートは、世界31カ国5,400人以上の企業幹部への調査を踏まえ、ビジネスの成功に不可欠な5つの新たなテクノロジートレンドを定義したものだ。記者説明会は、アクセンチュア 執行役員 デジタル コンサルティング本部 統括本部長の立花良範氏によるプレゼンテーションによって進められた。以下、前述の「5つのトレンド」に沿って、アクセンチュアの主張を見てみよう。1. AIは新しいユーザーインターフェースAIは成長を遂げ、インタラクションがシンプルかつスマートなものになることで、AIは新しいユーザーインターフェースとなり、取り引きやシステムとのやり取りを支える存在になる。「例えばアマゾンのAlexaは、音声認識の処理時間を3秒から1.5秒に短縮し、不自然な沈黙のない自然なインタラクションを実現しました」(立花氏)。「また、ユーザーインターフェースとしてのAIは、キュレーター、アドバイザー、オーケストレーターとしての役割を担います。例えばキュレーターの例としては、Spotifyがあります。ユーザーの志向にマッチした音楽プレイリストをキュレーションするAIです。また、オーケストレーションは、アマゾンのEchoがいい例です。アマゾンとは無関係なスマートホームの多くのデバイスを、Echoが統括して操作することができます。」そして、AIが事業に貢献する新たな事例も紹介された。「自動車保険業界では、事故の画像から損害状況をAIが判断し、損害の負担割合を分析。こうすることで、保険金の支払いを高速化する試みがあります。またガートナー社の発表ですが、2020年までに累積2.2億台のコネクテッドカーが普及し、車両に搭載されたAI同士がコミュニケーションする予測もあります。」このように、AI能力の量的・質的向上は、競争と差別化のもっとも重要な源泉となる。「顧客はアマゾンEchoを介してSpotifyで音楽を聴いたり、ハフィントン・ポストの記事を聞いたりする。このとき、顧客の満足度はEchoとの対話体験に密接に依存します。Echoは、アマゾンの魅力、能力を伝える広報担当者となるのです。」2. 無限の可能性を持つエコシステム複数のサービスをまとめて提供するプラットフォーム企業によって、業務や企業間競争のあり方についてのこれまでのルールが完全に崩された結果、プラットフォーマーを警戒するような風潮があるが、立花氏は、「プラットフォーマーを過度に恐れることはなく、うまく利用すればいいと考えて動き始めた企業も出てきています」と話す。「例えばInstacartとWhole Foodsの例があります。Instacartは、顧客と買い物代行業者をマッチングするサービスです。いっぽうのWhole Foodsは旧来の日用品ストア。宅配機能を敢えて持たず、Instacartを利用することで顧客基盤を広げました。」「日本の事例では日本交通が挙げられます。配車システムを作り、他社にも開放することで乗車率を向上させたり、また新たな決済システムをパートナー企業から導入したりすることで、顧客の利便性向上を図っています。」「一方でKDDIは、自らプラットフォームを目指す形です。通信企業からライフデザイン企業へ、決済、物販、エネルギーなど顧客のライフスタイルにかかわるサービスを統合的に提供するプラットフォームになろうとしています。」3. 人材のマーケットプレイス「ゲーリー・ハメルは、官僚的なマネジメントに従事する2100万人の米国労働者が、生産的な仕事に移行することで、3兆ドルの経済価値が生まれると指摘しています。」利用したい時に柔軟に活用できる人材のプラットフォームや、オンラインの業務管理ソリューションが急増しており、その結果、先進企業では従来までの組織内のヒエラルキー構造から脱却し、オープンな人材マーケットプレイスの活用も始まっている。「例えばブログCMSのWordPressを提供するAutomattic社は、伝統的な組織的ヒエラルキーを排除しフラット化、事業を70のプロジェクトチームに分割しました。また先進的な取り組みで有名なP&Gの事例もあります。フリーランスの人材をマッチングするUpworkをパイロット導入し、製品の開発スピードを向上させています。」「仕事のオンライン化を促進するツールとして、MURALの例があります。オンラインでブレーンストーミングができるツールで、アクセンチュアでも導入していますが、そのほか、SkypeやSlackなどの普及は、皆さんもご存知のとおりです。」4. “ひと”のためのデザインテクノロジーは人間の行動に適応するようになり、人間から学習することによって私たちの暮らしをより豊かなものへと向上させる存在になる。「ひとりの人間の、一日のあらゆる生体活動をデータ化すると、250京バイトにもなると言われています。この莫大なデータを利用すれば、例えば、ヘルスケアデバイスのメーカーから、ヘルスケアサービスを提供する企業になることができます。運動をリコメンド・管理したり、食事のアドバイスも可能でしょう。ヘルスケアデバイスをつくるより、その人のヘルスケアと”面”で付き合うほうが、よほど大きなビジネスになる可能性があります」「たとえばGEは、ジェットエンジンを作ることから、ジェットエンジンの遠隔監視保守サービスに展開し、さらに機体の効率的な運用を実現する航空会社向けの運航管理サービスまで提供するまでになりました。ビジネス規模は、最初に比べると10倍にもなっています。日本ではソニーモバイルの取り組みがあります。従業員にウェアラブルデバイスを配布し、運動と睡眠を記録することに加え、食事写真からカロリー、栄養素を記録します。その記録を分析し、最適な個別アドバイスをするというものです。」5. 未踏の領域へエコシステムがカギを握る今日のデジタル経済において、成功を収めるためには、企業は未踏の領域を探っていかなければならない。ただ単に新しい製品やサービスの提供に力を入れるのではなく、これまでとは全く異なる、新たな産業のためのルールや業界標準の確立を考えるべきである。「つまり、シェアを取ることよりも、市場自体を創ることを目指すべきです。テスラは、EVから始めて、発電、蓄電、充電スタンド、ライドシェアというようにビジネス領域を拡大し、各業界で業界標準をつくりました。日本でも、東京電力とゼンリンが、ドローンのための3次元地図を作り、ドローンの航路を定義しようとしています。」「このように、テクノロジーそのものが新しいガバナンスを作り出す状況が生まれています。例えばブロックチェーンやスマートコントラクトといった技術です。VISAとDocuSignの実証実験は、ブロックチェーン上のスマートコントラクトが、物理世界の挙動をガバナンスします。スピードを出しすぎたり、契約された走行距離を超えて走ったりする違反行為が、ブロックチェーン、コネクテッドカーの技術を使えば、契約の200kmを超えたら停まる、80km以上は出せないなど、挙動を管理することができるということです。「これらの事例のように、ルールを決めた人がイノベーションの機会を得る。そこには大きな責任とともに、巨大なビジネスチャンスがあるということです。」説明会の最後に立花氏は、「今回のレポートは、本国で発表されたものを日本向けに加筆修正したものですが、今年は特に、海外と日本のギャップが少ないように感じました。経営者のマインドは、グローバルとあまり差がなくなっている」と話した。
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