チンクエチェントの愛称で人気が高いフィアット『500』のEVが、ジャパンモビリティショー2023の会場に展示されている。オリジナルの良さを活かしつつレストアとEVへのコンバージョンをしたもので、現代アートとしての側面もある。このユニークな展示の背景を取材した。
◆旧車を現代アートとして動態保存。しかもEV化
展示を行っているのは名古屋市の「チンクエチェント博物館」という私設博物館だ。フィアット500の動態保存を促進するため、イタリアでレストア(修復)した車両の輸入販売もしている。対象としているのは1957年から1975年まで生産された「ヌオヴァ500」と呼ばれるモデルだ。
フィアット500は本国イタリアだけでなく、「ルパン三世」の影響もあって日本での人気も相変わらず高い。
半世紀を超えて愛され続けるフィアット500は、自動車という工業製品でありながらアートの分野でも高く評価されている “芸術作品”であり、後世に残すべき文化的な遺産であるとして、博物館として所蔵・展示するだけでなく、動く現役のクルマとしての保護・保存にも力を入れてきたのだという。
具体的には、イタリア・トレノのカロッツェリアと提携して、購入者の好みに合わせたビスポーク(オーダーメイド)で、フィアット500をレストアしカスタマイズして納品する。
単にレストアするだけでなく、EV化も行っており、これによって都心でも安心してスムーズに乗れる。オプションでキーレスエントリーやデジタルオーディオシステムにまで対応している。
EV版はセミオートマ免許で乗れるのもポイントだが、逆に走りにこだわる人のために変速機構も残すことができる。展示車はクラッチペダルが外されており、シフトノブだけが残されて、使えるのは3速(前進)とリバース(後進)のみだ。しかし、希望があればクラッチペダルも残して4速シフトをそのまま使えるようにもできるというのだ。
ただし、EVにしてもエアコンを搭載することはできないそうだ。これはおそらくスペースの問題で仕方ないだろう。
面白いのは、動く現代アートとして、アーティストでカラーデザイナーの「椿彩≒CHIYA」(以下CHIYA)さんが、外観・内装のカラーデザインを担当したFIAT 500も制作・販売していることだ。現代アートといっても突飛なものではなく、FIAT500らしい落ち着いた色合いとなっている。
すでに2台が制作・販売され、今回のジャパンモビリティーショー2023で展示されているのが、3台目の「GIOIA ev」(ジオイア イーブイ)だ。ネイビーのボディーにピラーとルーフがシルバーの外観で、内装はタンのシックなデザインだ。
CHIYAさんは、リサイクルをテーマにアート活動を行っており、大学院に通って未来の自動車デザインを研究していたおりにチンクエチェント博物館のコンバージョンEVを知って、2年前に「私のカラーデザインを使ってください」と飛び込みで提案し、このコラボレーションが始まったという。古いFIAT 500を蘇らせて未来に繋げていくという同博物館のコンセプトが、彼女のリサイクルアートのコンセプトに一致するという考えだ。
なお「GIOIA ev」も購入可能で、車両本体価格649万円(税込み、名古屋渡し)となっている。