本職も驚くアイデア! 雲雀丘学園とブリヂストンの「サマー合宿」から | CAR CARE PLUS

本職も驚くアイデア! 雲雀丘学園とブリヂストンの「サマー合宿」から

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雲雀丘学園の皆さんとブリヂストンのスタッフ、世界最大のタイヤの前で記念撮影。
  • 雲雀丘学園の皆さんとブリヂストンのスタッフ、世界最大のタイヤの前で記念撮影。
  • 発表を真剣な表情で聞いている学生の姿が印象的だった。
  • サステナビリティ部門長の稲継氏は、いますぐにでもスタートアップ企業などに売り込めそうなタイトルだと感心していた。
  • 現代の課題と実現したい社会を的確に述べている。
  • ベビーカーの問題点と車いすの問題点の洗い出し。
  • 問題点などを解消したモビリティの設計図はこのようになっている。
  • シェアリングサービスなど、ハードウェアの改変だけでなく、サービスについても考えられていた。
  • エアフリーコンセプトは、タイヤに空気が必要の無い、樹脂が組み込まれたタイヤのこと。ブリヂストンが開発し、実用化に向けて開発が進められている。

ブリヂストンは8月1~3日の3日間、兵庫県の雲雀丘学園(ひばりがおかがくえん)の課外活動として、持続可能な未来について考えるサマー合宿を行い、メディアにも公開された。

このサマー合宿は、企業での課外活動を通じて自ら学び、考え、行動する力を育む探求型学習を実践する雲雀丘学園の「探求プロジェクト」の一環として実施。従業員・社会・パートナー・お客様とともに、持続可能な社会を支えることにコミットしていくという、ブリヂストンの考え方に共感した雲雀丘学園の学長の依頼により開催され、両者のコラボは今回が初めてとなる。



参加者は、雲雀丘学園中学3年生から高校2年生の15名が2グループに分かれ、サステナブル素材を活用したラジコンカーのタイヤ製作(グループA)と、未来のモビリティ・サービスの提案(グループB)を行う。学生たちがこれらの課題に取り組み、研究・発表を行うことで、サステナビリティへの意識醸成および思考・判断・表現力を培うことが目標とされている。

会場となるブリヂストンのイノベーション拠点「Bridgestone Innovation Park」(以下BIP、東京都小平市)は、様々なステークホルダーに、ブリヂストンのこれまでの歩みや2050年を見据えたビジョンに共感してもらい、共議・共研へと関係を深め、新たな価値を共に創造する共創へと進化させていく複合施設となっている。

サマー合宿のおおまかなスケジュールは、8月1日にオリエンテーション、講義、グループワークでタイヤの配合決定が行われた。8月2日は、BIP内を見学し、グループAはゴム工程見学、跳ね返り・引張試験、ラジコン運転などを行った。またグループBは、車いす体感、未来のモビリティ・サービスの検討が行われた。8月3日は、両グループが資料をまとめ、研究結果の発表会の開催となる。

今回8月3日の研究結果の発表を取材した。

◆ベビーカーが車いすに進化する?

まずはグループBからの発表で、「2050年のモビリティ社会を考える」という課題が課せられている。第1班は「ジェネレーションインクルーシブモビリティ」と名付けられた車いすベビーカーの発表を行った。

これは出生率が下がり、使い終わったベビーカーの行き場がなくなることを想定し、使い終わったベビーカーを車いすにリプレイスするというもの。ただし座面の高さなどそのまま利用できるわけではないため、ベビーカーと車いすの違いを検証し、問題点をしっかり解消することで車いすへとリプレイスする計画となっていた。たとえば、ベビーカーでは日よけが小さくてもよいが、車いすの場合は大人が乗るため大きくしないといけないといった形状変更、また車いすの場合、肘掛けの設置やライトの装着など、装備の追加なども必要となる。

またベビーカーから車いすに変更する際には、一定のメンテナンスと構造変更を行うが、利用する環境に応じての変更も行い、シェアリングサービスについても考えられていた。これは車いすとして、お年寄りが室内だけで利用する場合と、たとえば観光客のための新たな移動手段として屋外で使うといった用途も視野に入れ、車いすをモビリティのひとつとして考えたようだ。走行中の給電システムについても触れられており、実現のために必要な技術についても述べられ、実現が非常に楽しみな内容となっていた。

◆デザイン性はエンジニアも驚くほど斬新なもの

第2班は「日常使いの水陸両用車」を考案。このモビリティは、瀬戸内海の小さな島など離島に住む方々の日常の足として考えられた。グループで最初に考案した車体設計図をブリヂストンの設計担当者に見てもらったところ、多くの問題点が発覚し、設計から変更が必要となってしまったようで、車体デザインが大きく変わっていった。

車体に取り付けるタイヤについてはスクリューの役目も兼ね備えるエアフリーコンセプトのタイヤを取り付け、樹脂スポークとホイールがスクリューのような構造にカスタマイズされる。運転については、普通に運転可能なモビリティにした場合、水陸両用と特性上、船舶免許や普通免許など多くの免許が無いと運転できなくなってしまうため、2050年のモビリティということも鑑み、自動運転とし、誰でも利用できるようにしたいとのことだった。地域社会の問題点を考慮したアイデアもさることながら、デザイン性に優れたモビリティはブリヂストンのスタッフも感心していた。

◆「だれでもどこでもいつでも」のコンセプトが秀逸

第3班は、「だれでもどこでもいつでも」というコンセプトで、車道歩道どちらも走行できるバイクのような車いすだ。現状の車いすでは、介護者が必要であったり、電車の乗り降りでも駅員の手助けが必要と、ひとりで行ける場所は限られてしまう。そこで、20~30km/hのスピードが出せ、サイズは車いすと同程度で、足元が分離できるモビリティを考案した。

雨の日には屋根が自動的に開き、天候に左右されず使用できるのもポイント。このモビリティに必要な技術のひとつが、充電スポットとのことで、自宅に設置したり、特定の場所で充電できるようにするなど、自動充電スポットが必要となる。これは未来のモビリティを実現するために重要な課題となりそうだ。またこのモビリティはコンセプトの「だれでもどこでもいつでも」を具現化するため、自動運転も自分での運転も可能で、老若男女利用できるようになっている。高齢化社会を考えると自動運転は必須の技術と言えそうだ。

◆2層式のタイヤはブリヂストンスタッフも絶賛!?

次にグループAの発表が行われた。第1班、第2班とも、タイヤ制作の要素となる、ポリマー、フィラー、オイルの素材を選択し、操縦性のしやすいタイヤ、燃費性能のいいタイヤなどを制作するといったミッションが与えられていた。性能に見合ったタイヤができたかどうかは、実際に考えた素材を配合し、その配合で実際にタイヤを作ってラジコンに装着し、走らせてみて検証するといった流れ。

第1班は天然ゴム、シリカ、植物系軟化剤(パーム油)を使ったタイヤと、サステナブル合成ゴム、カーボンブラック、植物系軟化剤(菜種油)を使ったタイヤの、2種類を制作。それぞれ素材によって特性が違い、天然ゴムは耐久性が高いがグリップ性は低い、サステナブル合成ゴムは、サステナブルな事はメリットだが、価格は高いといったデメリットがある。フィラーの素材についても、シリカはグリップが高く、低温では性能が低下するといったデメリットもある。カーボンブラックは耐久性は高いが燃費は悪く、サステナブルではないといったデメリットがある。

2種類のタイヤを制作し、ラジコンに装着して走らせた検証の結果は、天然ゴムを使ったタイヤが圧倒的に性能が高く、走りやすさも大違いだったようだ。天然ゴムを使ったタイヤはグリップが優れ、コーナリングはしやすいものの、ハンドル操作に対し、機敏に操舵が反応するため運転に不慣れな方にとっては、グリップ力がありすぎて操作が難しいのではないかと考察。運転に慣れていない人には、サステナブル合成ゴムを使ったタイヤの方が、操舵感がゆったりとするため運転しやすいのではないかと結論づけていた。

この結果をふまえると、運転者の技量によってタイヤを選択する必要があるため、技量や価値観、季節にあったタイヤを簡単に選び、使えるようなタイヤがあるといいのではないか。そしてタイヤが2層構造になっており、1番外側は初心者に適したタイヤで、慣れてくるとその層を剥がし、グリップのよいタイヤが現われるといった、2層式のタイヤがあってもいいのではと提案された。この案にはブリヂストンスタッフも「おもしろい」と頷いていた。

◆予想に反した結果の検証がしっかりできていた

第2班は、天然ゴム、再生カーボンブラック、石油系オイルのタイヤと、サステナブル合成ゴム、シリカ、石油系オイルを使った2種のタイヤを製作。再生カーボンブラックはサステナブルだが性能はいまいちで、石油系オイルは経済性はよく、そこそこの走行性能を得られる。サステナブル合成ゴムは走行性は普通で、燃費性や耐久性はあまりよくない。シリカはグリップ力が高く燃費性もよい。

この2種を検証した結果、天然ゴムを使ったタイヤのほうが性能はよかったとのこと。耐久性、安全性は素材の配合を考えると予想通りだったようだが、燃費は予想に反した結果になったようで、その検証が行われた。3種の素材は配合する量がゴムが7割、フィラーが2割、オイルが1割のため、どうしてもゴムの性能が大きく影響するため、フィラーやオイルで高い性能はタイヤに現われにくいとのこと。そのため、シリカの高い燃費性は、サステナブル合成ゴムの悪い燃費性によりかき消されてしまったようだ。

2班ともタイヤ製作を通じて、どのような素材がどのような影響を与えるのかがわかったようで貴重な経験となったようだ。

◆わくわくはビジネスにおいて重要な事のひとつ

全グループの発表が終了した後、サステナビリティ統括部門 部門長 稲継氏が登壇。稲継氏は、「グループBについては、デザインの重要性を体験してもら得たのではないかと思う。デザインというのも外見上や見た目だけではなく、ビジネスをどうデザインするかという重要性を体験していただけたのではないか。また社会課題としてどういったものがあるのか、どんなところにビジネスのニーズがあるのかなど、どういう技術を使って、どのようにビジネスモデルにしていくのかなどが体験していただけたような気がする」と述べた。

また、いいなと思ったことに、「わくわく」という言葉が出てきたことを挙げていた。よいことをやろうとしても、お客さんが価値として認めてもらえなかったり、そこに何か「いいな」って思うことがないと、ビジネスにはならない。その時にわくわくであったり、あっ、これいいな」と思えるようなアイデアに近づけていくのかが重要で、そういう視点を持って進めていたのかなと思い非常に感心したとのこと。

「グループAについては、開発という行為がどれだけ企業活動で重要だったり、その開発行為を通じてどういうことが事業につながっていくのかというのをなんとなく体験していただけたのではないか。また試行錯誤しながら検証し、失敗だったことも、それをうまく次のビジネスアイディアとしてつなげていくのかということまで考えているのは、私たちの視点でも大事な事だと感じた。また自分たちが最初に考えたことと結果の違いをしっかり検証されていたことは、とても重要なことで、違いというのは大事な事で、違いにこそヒントがあったりするので、何事も思い通りにはいかない中でどう違いを見つけるかは、じつは事業活動だったり、ビジネス活動に非常に重要なこと。そこをしっかり考えられたというのは、これから生きていく上で貴重な体験をされたのではないかと思う」と語った。

◆社会体験を得られる機会は積極的に参加して欲しい

次にサステナブル・先端材料統括部門 統括部門長 大月氏が登壇。「私が大学生の頃は、社会経験を体験できるイベントやチャンスが全然なく、自分自身が将来どう進んで、どういう世界で貢献していけばいいのか考えるのにすごく苦労した。しかし現在では先生方を含めさまざまな方の努力があって、皆さんを受け入れてくれるような企業が増え、恐らく今回だけではなく、これからもいろいろ社会体験を得られる機会があると思う。ぜひそういった機会があれば積極的に参加して、将来自分自身がどういう世界で自分の成長性や社会に貢献できるのかということを考える機会にしてほしい」と述べた。

◆わくわく感は自己肯定感を高めるキーワード

最後は雲雀丘学園の道北教頭が登壇。「今回の体験で、皆さんはいろいろな立場の人の視点を持てるようになったのかなと思う。例えば、赤ちゃんのベビーカーから高齢者の人の車椅子まで、垂直に統合するアイデアであったり、障害をお持ちの方からは健常な方までとか、都市部に住む人から離島地域に住む人まで、非常に考える範囲を広げられたのではないかと思う。雲雀丘学園はとても限定的な環境にある。周りに田んぼがあるわけでもなく、コンクリートばかりのところにあり、非常に限定的な場所で経験しているだけで、日常の視点は本当に幅が狭いのではないかと思っている。そんな中で、東京までやってきてこういったいろいろな立場の視点を持てたということは素晴らしい体験ではないかと思う」。

「そして本校では、自己肯定感を一番大事にしようと普段から話している。自己肯定感はどうやったら高くなるのか。という疑問について、私はわくわく感だと思っている。今日、いろいろなところでみんなキーワードに使ってくれていたワクワク感は、達成感を得て経験を積み重ねて自分はやっていけるんだ。社会でも通用するんだ。と自分を肯定する力に代わっていくんだと思う」と締めくくった。

ブリヂストンによると、今回の取り組みの発端は、2021年にサステナビリティ部門長の稲継氏が、雲雀丘学園の学園長とたまたまスウェーデン大使館で会う機会があったことから始まっている。雲雀丘学園は、課外活動を企業と行ったり、校内ではなく外に出て実際に考えてやってみようという「やってみなはれ精神」というものを重視している学校で、弊社ともなにかできないかという相談を受けて実現したいきさつがあるそうだ。

今回のサマー合宿で印象的だったのが、ブリヂストンの技術者と学生が交流をしてやりとりをしている中で、「そういう発想があるんだ」という事例が何度もあった。前提条件を持っていない学生だからこそ考えられるようなアイデアとか、面白い提案などが飛び交って、技術者も驚くことがたくさんあったとのこと。

《関口敬文》

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