リミテッド・スリップ・デフは左右のタイヤへ駆動を伝えるための装置のひとつ。使い方ひとつで乗りにくくなるので、そのイメージを持っている人も多いが、直進安定性のアップや悪路の走破性など普段乗りのメリットもある。
◆LSDは左右タイヤの回転差を吸収する装置
クルマは曲がるときに左右のタイヤで回転差が起きる。とくにタイトなカーブを曲がったり、交差点を曲がる時は外側のタイヤはたくさん回転し、内側のタイヤの回転数は少ない。その回転差を吸収するために「デファレンシャル」が存在する。この「デファレンシャル」は左右の回転差を吸収してくれるシステムで大変画期的な装置なのだ。
しかし、デメリットが存在する。それがアクセルを踏んでいるときに片側のタイヤがスリップすると、駆動力がすべてそちらに伝わってしまうこと。サーキットではコーナーからの加速中に、荷重が抜けやすい内側タイヤがスリップしやすい。そこでタイヤが空転しだすと外側タイヤには駆動力が伝わらず失速してしまう。ダートなど悪路でも同様で左右どちらかのタイヤが滑り出すと、そちらにだけ駆動がいってしまい、失速どころかスタックしてしまうことさえある。
そこで生まれたのがLSD。リミテッド・スリップ・デフの略で左右のスリップを制限する装置だ。いくつか構造にも種類があるが、アフター品の主流は機械式と呼ばれるもので鉄板同士の摩擦で回転差を抑える方式。簡単に言えば右側タイヤから伸びた鉄板と左側タイヤから伸びた鉄板が擦れ合う仕組みになっている。擦れ合うことで左右の回転数の差を摩擦させて吸収する。タイヤがスリップし始めるとLSDを通して、反対側のタイヤに駆動力が伝わる仕組みになっている。
ほかにも純正採用されることが多いトルクセンシング式やビスカス式などがある。機能は同じだが、効果には差があり一般的に機械式がもっとも高い効果を発揮する。矛盾しているのだが左右の回転差を減らす方向に機能する。ならば、ゴーカートのように左右のタイヤを(リアのみ)1本のシャフトでつないでしまえば左右の回転差は起きないので、駆動力が抜けてしまうことがない。しかし、そうなるとタイトコーナーで回転差を吸収できないので、極めて曲がりにくくなりブレーキングしたように強く減速してしまうこともあるのだ。なのでLSDは駆動力が抜けないようにしたいが、普段の曲がりやすさはデファレンシャル並みにしたいという欲張りな要求に応えなければならない。そこでセッティングが重要になるのだ。主なセッティングは作動方式、イニシャルトルク、カム角の3つ。
作動方式は加速中に効くのか、減速中に効くのかのこと。一般的には加速中に効き、減速中は弱く効くか、効かなくすることが多い。どちらも同じように効くことを2WAYと呼び、加速中に効いて減速中に効かないものは1WAY。加速中に効いて減速中に弱く効くものを1.5WAYと呼ぶ。が、減速中に少しでも効けば2WAYと呼ぶこともあり、1.1WAYや1.4WAY、1.8WAYなどと言う人もいるが明確なルールはなく、効きのイメージを勝手に名付けているだけとも言える。イニシャルトルクは直進時など回転差のないときからどれくらい効くかをバネで調整しておくこと。カム角は回転差が起きたときにどれくらいの力で摩擦板を擦るかと決める角度のこと。
◆サーキット以外にも効果を発揮する場面とは!?
これまでLSDが使われるのが多かったのはサーキットだ。加速しようと思っても駆動がイン側タイヤに抜けてしまって加速ができないのだ。そこでタイムを出すためには必須だし、タイヤの空転を防ぐのでタイヤの摩耗を抑えられる。
しかし、近年採用が増えているのがハイエースなどのワゴン車だ。高速道路を走ると車高が高くフラフラしやすい。それがLSDを入れることで左右タイヤに起きる微妙な回転差を抑えてくれるので直進安定性がアップして走りやすくなる。また、フラフラしにくくなることで同乗者が酔いにくくなるメリットもあるという。
それから昨今のキャンプブームのその後押しをしている。不整地に入った際にそのままスタックしやすい。そこでLSDが入っているとある程度スタックしにくくなるのだ。そういったメリットからサーキット派のスポーツカーだけでなくLSDが浸透し、近年売り上げを伸ばしているという。
適切なセッティングでパーツメーカー指定のオイルを使えば、今どきのLSDでは「バキバキ」とチャタリング音がして乗りにくいことはまずない。表面処理なども進み、スムーズで乗りやすいLSDが今どきのセッティングなのだ。