リアルタイムで当時をご存知なら、1983年9月に登場した3代目『シビック』の斬新で垢抜けたラインアップに注目したことだろう。いわばそのシリーズと見做していいのが、シビックよりひと足早く登場した初代の『バラードスポーツCR-X』だった。
◆新ジャンルの到来を予感させた『CR-X』
当時のカタログを開くと“デュエットクルーザー/2人の自由のために”のキャッチコピーが目に飛び込んでくる。大判のカタログ自体、クルマのそれというより、ファッション誌の広告のような仕立てで、いかにも目を楽しませる風のユニークさが目を惹いた。さらにページを進めると“新世代へ。FFライトウエイトスポーツ”とあり、新ジャンルの登場感も表現。ページの色使いがヴィヴィッドなこともあり、コチラの気持ちをワクワクとさせた。
クルマそのものは“ワンダーシビック”とベースを共用。ただしホイールベースは2200mmに切り詰められたうえ(3ドアのシビックは2380mm)、エロライナーシェイプと呼ばれたボディはCd値0.33×前影投影面積0.56とした。小さなノッチのある裁ち落としたリヤ、セミリトラクタブルライトや、リヤクォーターウインドには3次元曲面ベントガラスを採用。乗用車では世界初を謳ったルーフベンチレーション仕様も用意。電動アウタースライドサンルーフも世界初の自慢の装備だった。
インテリアは2+2で、+αのリヤシートはカタログでは“1マイル・シート”と呼んでいる。バーグラフのタコメーターと数字で表示されるカラード液晶デジタルメーターも設定された。
◆ライトウェイトスポーツカーらしい俊敏な走り
サスペンションはフロントがトーションバー式ストラット、リヤがトレーリングリンク式ビーム。リヤには低圧ガス封入ダンパーも採用した。車両重量はシリーズで760~825kgと軽量なうえ、前後サスペンションともにジオメトリーにこだわり、ライトウェイトスポーツカーらしい俊敏な走りを実現している。
エンジンには当初1.3リットル、1.5リットルを設定。1.5リットルにはF1譲りの燃料噴射システムのPGM-FI、1.3リットルにはアルミダイキャストギャブレターを採用。さらに1984年10月にはF1テクノロジーが投入された1・6リットルDOHCのZC型エンジン搭載の“Si”がシビックとともに登場。CR-Xではパワーウエイトレシオ6.37kg/ps、リッターあたり馬力84.9ps/リットルを誇った。