シートベルトによる肋骨骨折、「骨密度」との関係は?男女差は?【岩貞るみこの人道車医】 | CAR CARE PLUS

シートベルトによる肋骨骨折、「骨密度」との関係は?男女差は?【岩貞るみこの人道車医】

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シートベルトによる肋骨骨折に「骨密度」との関係はあるのか?男女差は意外と…(写真はイメージ)
  • シートベルトによる肋骨骨折に「骨密度」との関係はあるのか?男女差は意外と…(写真はイメージ)

高齢者は交通事故の死亡リスクが高い。それは読者諸氏の想像どおり、加齢とともに増えがちな既往症の影響や、出血などに耐えられる体力がなくなるからだ。と、私も信じてきた。けれど、どうもそれだけではないようだ。

以前から私は、衝突安全実験の結果には疑問をもっている。運転席や助手席に座っているダミー人形は、私の体型と大きく異なるし、実験のときは、ダミー人形のオシリに隙間のないようにきっちり座らせたうえで、ミリ単位でシートベルトの位置を調節して行うからだ。つまり、現実とは大きく異なるのである。

そして、ここに高齢者問題もからんでくる。なぜなら、ダミー人形は、骨密度までは反映していないからだ。衝突試験は衝突時の胸部の移動距離を抑えたほうが(がっちり人の動きを止める)点数が上がるのに、肋骨骨折しやすくなる骨密度は加齢とともに減少する。確かに、昔に比べて自動車メーカーもその点を考慮した調整をしてきたけれど、それでも、シートベルトによる肋骨骨折は、高齢化社会のいま、あちこちで起きている。

肋骨骨折そのものは、あわてる状況にはなりにくい。ただ、折れたことにより痛みで呼吸がしにくくなるほか(本当につらいらしい)、折れた肋骨が心臓や肺に刺さるケースもあり、軽視できない。

シートベルトが原因となる肋骨骨折。骨密度との関係性はどのくらいあるのだろうか。その場合、男女それぞれ、何歳の平均骨密度から、折れやすくなるのだろうか?

◆速度がかなり低くても肋骨は折れる

その疑問にひとつの角度から答えを出した論文を見つけた。日本大学大学院の石成泰隆氏による「骨密度の年齢・性別による変化が胸部骨折障害に及ぼす影響について」である。共同筆者は、日本大学教授の西本哲也氏と、日本医科大学千葉北総病院の本村友一医師。日大と北総病院は、実際に交通事故で北総病院に運ばれた患者をミクロで調べ、D-Call Net(クルマが衝撃を感知するとドクターヘリ出動にすみやかにつなげるシステム)の開発をするなど、リアルな研究を行っているチームだ。

今回も、正面衝突で北総病院に搬送され、同意を得られた71人のうち、エアバッグの影響を受けていない43人のデータを元に研究が進められている。

これによると、肋骨骨折しなかったのは37%、3本以上骨折が32%、2本が26%、1本が5%となっている。そして、被験者の骨密度を測定したところ、骨密度が低下するほど、骨折本数が増加していることが判明した。やっぱり。

そして注目すべきは、これらデータの70%が、40km/h以下で起きた事故であることだ。さらに、3本以上骨折のグループでは、20km/h以下での事故が一番多い。つまり、速度がかなり低くても肋骨は折れる。ゆっくり走ればいいってものじゃないのである。

もちろん肋骨骨折は骨密度だけでなく、加齢とともに肋骨の形状が丸くなることが影響している可能性も否めない。ただ、高齢になるにつれ、折れやすくなる事実は変わらない。

◆骨密度の男女差、「あまり変わらないじゃん」

ここまで読んで、レスポンス読者の多くを占める男性諸氏は「女性は骨密度が下がるからね」「おばあちゃんはそうなるよね」と、自分とは関係ないと思うかもしれない。けれど、論文によると、今回の被験者の骨密度は、男女ともに、二十歳代の被験者が一番高く、あとは年齢とともに下がっているうえ個人差も大きく、同じ年齢であっても女性より骨密度が低い男性も、一定数いるのである(今回は分母が少ないので詳しく紹介しません)。

では、何歳以上だと肋骨骨折のリスクが高まるのか。

今回の研究で、肋骨骨折をした人としない人はどこが分岐点になるか、年齢による平均骨密度を出したところ、男性はおよそ50歳代前半、女性では40歳代後半という結果になった。該当年齢以上の人はくれぐれも注意していただきたいのと同時に、「男女、あまり変わらないじゃん」というのが、私の正直な印象である。

女性はホルモンバランスの変化とともに骨密度が下がると言われているけれど、実は、男性だって危ないのだ。繰り返すけれど、シートベルトが凶器となり、肋骨骨折~心損傷に至るケースはあるのである(私も病院取材中に、折れた肋骨が心臓に刺さったケースに遭遇したことがある)。

まずは、正しい位置で座り(オシリの隙間をなくす)、シートベルトを腰骨にしっかりかけること。そして、男性も女性も骨密度を上げる努力をすることが、いざというときのケガを軽くする可能性が高まるということをお伝えしておきます。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

《岩貞るみこ》

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