車内に鉄パイプを張り巡らせるロールバーやロールケージと呼ばれる補強。なぜレーシングカーはこれを入れていて、ボディ剛性はアップするのか!?
レーシングカーの象徴であり、チューニングカーでもハードにいじった車両では多くが装着しているのがロールバーやロールケージと呼ばれる補強パーツだ。これは車内に鉄パイプを張り巡らせることで乗員を保護しようというもので、そもそもボディ剛性アップを狙っているわけではない。クラッシュが起きた時にドライバーの生存スペースを確保するために作られたもので、そのためドライバーを守るように取り付けられているのだ。
◆装着するロールバーは何でもいいの?
ルールへの適合や求めている要素で決めていく
近年レースなどの競技で使用するロールバーは細かい規定がある。パイプの材質、厚みも決められていて、その重さは数十キロにもなるので運動性能的にはマイナスになる。しかも、最近は規定によって乗員保護がより強くされるように指定されてきている。具体的にはサイドバーの高さが高くなって、側面衝突時に乗員保護をしやすくなった。その分だけ乗り降りも確実にしにくくなっている。
レーシングカーのロールバーは、車体は内装や補機類などをすべて外してホワイトボディ状態にして、そこにロールバーを溶接していく。ボディ下側の取り付けもフレームやそれに近いところに溶接していき、Aピラーも溶接でロールバーを固定していく。こうなるとボディの内部で骨のようにボディを支えるようになるので、ボディ剛性も高くなる。
一般的な市販ロールバーはレース用のものもあるが、レース規定とは別で、サーキット走行時の安全のために取り付けるものもある。そういったアフターパーツの場合には、4点式や6点式、クロスバーありとかなしとか、材質も鉄だけでなくアルミ製などもある。
こういったチューニングパーツとしてのロールバーの取り付けはネジ留めが基本。フロアに穴を開けてそこにボルトナットで留めていく。ということは、ボディ剛性アップというよりは、ボディの中でジャングルジムが組まれているようなもので、やはりボディ自体への剛性アップではなくドライバーを守る役割がメインとなる。結論としては市販ロールバーを溶接せずにネジで取り付けていくなら、ボディ剛性のアップはあまり期待できない。ただ、ロールバーの装着によって数十kg重くなる。これによってボディがどっしりとしたと感じることがある。実際には剛性が上がっているわけではないが、そう感じやすいのだ。
レーシングカーのように溶接でロールバーを取り付けた場合には、ボディは確実に強くなる。その分だけ重くもなるし、ボディが硬すぎることでじつは曲がりにくくなったり、サスペンションのセッティングが大幅に変わってしまうとか、合わなくなるということもある。そういったトレードオフになる部分はあるが、ボディが強くなるのは間違いないのだ。
ちなみに人気レースのYaris CupやGR86/BRZ Cup車両は、車両購入時にロールバーが装着された専用グレードを購入しなければレースに出ることができない。このロールバーはトヨタ自動車で製造されたクルマに、TRDと呼ばれるレース部門でロールバーの取り付けを行ってから納車になるもので、専用品が付けられている。とはいえ、ネジ留めなのでボディ剛性アップというよりもクラッシュ時の安全性向上が目的だ。だが、ネジ留めのメリットとしては、取り外せることがある。
本格レーシングカーのように溶接ロールバーになると、もしクラッシュしてしまったときに困る。ボディを修正しようにも、ロールバーが邪魔になったりするが、そのロールバーは溶接されているので取り外せない。なんならロールバーごと曲がってしまったりして、ボディの修正が難しくなってしまうのだ。そういったデリメットもあるので、必ずしも溶接留めが優れているわけではないのだ。
◆ハンドリングを高めるなら違う補強方法が有効
もっとボディ剛性を高めて、どしっとして正確なハンドリングを手に入れたいならロールバー装着ではない方法が有効。重くならずに剛性を上げるならスポット増しだ。これはドア周りなどのボディ開口部の複数の鉄板に、電気を流すことで溶接するスポット溶接の箇所をあとから増やすチューニング。重さは変わらず剛性が高くなる定番チューン。
あとはタワーバーなどの定番補強パーツも一定の効果を持つが、どうしても重量は増えがち。また、ネジ留めなのでわずかな隙間があり、その隙間を動く間は効果がなく、ある程度入力された先から急に効くので、それを乗りにくいと言う人もいる。やれば必ず良くなるわけではないが一定の効果があるのがボディチューンなのだ。