EV充電器の総数が減っている?
今年は、電気自動車(EV)をこれまで一般消費者へ販売してこなかったトヨタとスバルから販売がはじまる。また、世界的に先陣を切って2009~10年にかけてEVの量産市販を実現してきた三菱自動車と日産自動車から、軽自動車のEVが発売になる。
軽EVについては、三菱自が2009年に『i-MiEV』を発売したが、当時の車両価格は400万円を超えており、販売台数は伸び悩んだ。しかし今回は、補助金を活用して200万円ほどで購入できる状況になり、EVが新車販売の1%を切る国内市場においても、EVの販売台数が伸びていく期待がある。
一方、充電について、全国に整備が進んだ充電器の総数が減っているとの情報が昨年あった。採算が合わず、契約更新を機に撤去するというのである。これが、EV普及の逆風とならないかとの論調もある。
補助金目当てで設置された性能不十分な充電器も
だが、その背景には理由がある。『i-MiEV』と日産『リーフ』の発売をきっかけに、全国の充電網の充実が不可欠とのことで、経済産業省は2013年に1005億円に上る高額の補助金を用意した。補助は設置のための満額ではなく、2分の1~3分の2の費用を補助する内容だった。当時はまだEVの先行きが見通せないことで二の足を踏むことを懸念し、トヨタ、日産、ホンダ、三菱自の4社が、補助金で補填されない残りの費用を支援した。これによって、充電設備を無料で設置できることとなったのである。
以後、約10年が過ぎた今日、全国に3万基近い充電器が、急速充電と普通充電を併せて整備されたのだが、なかには補助金目当てで設置された性能の不十分な充電器もあった。このため、電力を消費したEVが、ようやくたどり着いた急速充電器でありながら能力が足りず、再度充電しなければならないということが起きた。そうした情報は、EV所有者や利用者で共有され、能力不足の充電器は次第に利用頻度が下がっていくことになる。
たしかにこの10年でEVの普及が遅々として進まない一面はあったが、補助金目当てで利用者の便宜を視野に入れない充電器の設置も行われ、そうした充電機は撤去ということになるのは当然の成り行きだ。
EVとエンジン車の使い勝手は異なる、ということ
EVへの充電の基本は、自宅での普通充電である。それを基盤として、遠出などで手助けとなるのが急速充電器という位置づけである。それにもかかわらず、ガソリンスタンド代わりの設備として急速充電器の数にとらわれてきたことも、不要な充電器の撤去を生んでいる。
背景にあるのは、EVとエンジン車(ハイブリッド車を含む)の使い勝手が異なることが十分に理解されていなかった。加えて、マンションなど集合住宅においては、管理組合の合意を得なければ普通充電器を設置できずに来たことがある。いずれも、EVに対する社会の理解が不十分であったことが起因している。
英国では、集合住宅を含め駐車施設には充電器の設置が義務付けられる動きがある。そこに、行政としてEV普及への本気度が示されている。
一方日本は、相変わらずの補助金政策しか出てこない。それでは、本質を外した無駄が生じるばかりだ。EVの普及が、どのような未来社会を構築するかという具体的な目標設定が政治家や行政にないため、金さえ出せば普及するだろうという安直な施策しか行われないのである。
輸入車業界が積極的に充電器を設置
そこを見越して、輸入車業界は販売店などへの高性能充電器の設置を行おうとしている。これにより、たとえ集合住宅に住む人であっても、ガソリンスタンドへ出向く程度の感覚で充電できるようにしようとしているのだ。都市部の富裕層にはマンション住まいの人も多く、そうでもしなければ日本ではEV販売が見通せない。
補助金を頼りに、いまという市場や既成概念しか目に入らない日本人の悲しさがある。挑戦を恐れるそうした近視眼は、日本の自動車産業はもとより、国をも滅ぼしかねない。