◆いすゞ・117クーペ 1966年ジョルジェット・ジウジアーロ(1938年~)が手がけた日本車の中で代表作は?というと、やはりいすゞ『117クーペ』だろう。ジウジアーロがギア時代に手がけたこのクルマは1966年のジュネーブショーでデビュー。その後東京モーターショーを経て、“117スポーツ”から名を変え、1968年に市販化された。当初はハンドメイドによる少量生産だったのはご承知のとおりだが、流麗なフェンダーライン、薄いグリルと広いグラスエリアの組み合わせなどは、まさに60年代の典型的なイタリアンクーペそのもの。量差化以降も基本的なスタイルは守られ、12年半と日本車としては長寿なモデルだったことにも注目しておきたい。◆いすゞ・ピアッツァ 1981年『117クーペ』の後継車種として登場したのがこの『ピアッツァ』。カタログにはジウジアーロ本人も登場しているが、当時としては日本車離れどころか、輸入車と並べてもその斬新さは際立っていた。それもそのはずで、もともと「アッソ・ディ・フィオーリ」名義で、アウディ、BMWをベースに仕立てられた一連のショーモデルの1台で、市販車ではフロントガラスの傾斜の修正など細部の手直しは入ったものの、ほとんどショーモデルそのままの姿を実現。ボンネット、バックドアなどの見きり線の整理された処理も見事。デジタルメーターとサテライトスイッチが備わる未来的なコクピットなど、インテリアも外観同様の斬新さだった。◆トヨタ・アリスト 1991年9代目『クラウン』で登場した上級モデルの「マジェスタ」とともに登場したのがこの『アリスト』だった。筆者はこのクルマの登場時にトヨタのデザイナーにインタビューし、その席でイタルデザインのレンダリングを見ているから、紛うことなくジウジアーロのデザインだが、カタログではジウジアーロであることは表立ってはアナウンスされていなかった。とはいえ、当時のイタルの他のショーモデル(「ジャガー・ケンジントン」など)を見ていれば、血のつながりは一目瞭然。北米でレクサスとしても展開する車種だっただけに、ドメスティックな『クラウン』とは正反対の石から削り出したようなこの欧州調のスタイルにゴー・サインが出たのだろう。◆スバル・アルシオーネSVX 1991年先代に当たる『アルシオーネ』がクサビ型の個性的なモデルだったのに対し、『アルシオーネSVX』では低くグッと丸みを帯びたスタイリングが特徴的だった。当時の資料によれば“クーポラ(copola)”と呼ぶ特徴的なグラスキャノピーのアイデアは、イタルデザインが当時のショーモデル(「インカス」「ナツカC2」ナド)で展開していたテーマでもあったとのこと。サイドウインドゥの開閉部分(パーティングの位置)など設計要件に合わせて調整が行なわれたという。また最初のスケッチではリトラクタブルヘッドライトが描かれていて、これもスポーツカーではなくGTカーのコンセプトに相応しい固定式で量産車の設計がされた。◆その他の日本車実はダイハツ『ムーブ』の2代目(1998年)もジウジアーロのデザインで、今回はご紹介していないが最初のカタログには、最初のほうのページにジウジアーロの顔写真が確かに載っていた(と記憶している)。ちなみに初代は同じイタリアのイ・デ・アの仕事だった。一方で時代を遡ると、マツダ初代『ルーチェ』(1965年)、スズキ『キャリィ』(1969年)、スズキ『フロンテクーペ』(1971年)なども。三菱の初代『コルトギャラン』(1969年)は、コンペ段階で挙がったジウジアーロ案を参考に社内でまとめたという。一方で契約上の条件または大人の事情(!?)で、あえてジウジアーロ・デザインとカタログでは謳われなかったモデルもあった。FFでCMも話題となったいすゞ『ジェミニ』(1984年)、日産の初代『マーチ』(1982年)、トヨタ初代『スターレット』(1973年)とダイハツ『コンソルテクーペ』などがある。◆そのほかの“日本製品” クルマ以外のプロダクトでも、幅広くジウジアーロはその手腕とセンスを発揮している。主なものを挙げておくと、オフィスチェアの“コンテッサ”と“バロン”(オカムラ)、ビーバーエアコン(三菱重工)を始め、カメラと双眼鏡(ニコン)、腕時計(セイコー)、化粧品のロードス・ノイエス(資生堂)やAVA(カネボウ)のボトルやパッケージ、カセットテープ(ザッツ)、ライター(ウインドミル)、電動工具と社名ロゴ(マキタ)、自転車(ブリヂストン)など多岐に及ぶ。クルマ関連ではカーオーディオ(JVC=当時)やアロイホイール、ステアリングホイール、フォグランプ、ヘルメット、サングラスといったアイテムでも、ひと目でジウジアーロとわかる個性的な製品が多数、発売されていた。
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