平成から令和へと元号が変わった2019年。自動車業界でもさまざまな節目があった。そのなかのひとつが、スバルの「EJ20」エンジンの生産中止。実に30年もの長きにわたりスバル車に搭載され、第一線で実力を発揮し続けた名機が姿を消す。ご承知のとおりEJ20は1989年1月、初代の『レガシィ』とともにデビューした。その直前には、米アリゾナ州のテストセンターにおいて平均速度223.345km/hのFIA公認10万km世界速度記録を達成。スバル『1000』に始まり『レオーネ』まで同じく長くスバル量産車の主力エンジンだった“EA型”に代わる新時代エンジンとしての任を負っての登場だった。水平対向エンジンはスバルにとって伝統、様式といえるが、進化させられるポテンシャルの高さもわかっていたという。当然、将来的な高性能化も視野に入れての開発だった。◆初代 レガシィ RS写真のカタログは初代『レガシィ』に設定された高性能モデル、「RS」のもの。「アクセルワーク、ステア、シフト……すべての運転操作に歓びを見出し、人とクルマが一体となって自在に駆ける様を夢見る」と、最初のページにはこんな文面が。今ならさしずめ“最新のコネクテッド機能を搭載し……”などと書いてあるところだが、いかにもピュアないい時代だったと感じる。もちろんRSは高い性能を誇るモデルで、搭載するのは諸元表の型式欄に“EJ20ーTURBO”とあり、最高出力220ps/6400rpm(ネット)、最大トルク27.5kg-m/4000rpmというもの。大容量水冷式ターボ&オイルクーリングシステム、水冷式インタークーラー、過給圧電子制御ほか、4カム16バルブ、フライホイールハウジング一体構造シリンダーブロック、5ベアリングクランクシャフトなども採用していた。当時の広報資料には、ターボはRHB 52型でタービンローター/コンプレッサインペラ径=52.5/56.0mm、最大過給圧=450mmHg、インターセプトポイント=2800rpm、A/R=20とある。そして組み合わせられるトランスミッションは当初は5速のMTのみで、通常50:50の前後トルク配分のフルタイム4WDシステムには、ビスカスLSD付きのセンターデフとリヤデフを採用していた。低圧ガス封入式ダンパー、オーバーオールギヤレシオ15.0のラック&ピニオン式車速感応型油圧反力電子制御パワーステアリング、フロント2ポッドキャリーパーの4輪ベンチレーテッドディスクブレーキなど、走りにかかわる部分のスペックは実に手厚い。この後、競技用ベース車両として装備を省いた「RS typeR」、EJ20にも手を入れた「RS typeRA」も登場している。◆インプレッサ WRX STi Version IIIさてEJ20といえば、先ごろ最終型『WRX STI EJ20 Final Edition』の受注生産を打ち切った『インプレッサWRX』は外せない。写真のカタログは'96年の「WRX STi Version III」が登場した時のもので、ページを開くと、'95年のWRCでドライバー・チャンピオンに輝いたコリン・マクレーの姿も。“BOXER MASTERー4”の呼称が付いたEJ20ーTURBOは280ps/33.5kgーmの性能をモノにしており、改良点は「低フリクションピストンの採用、高回転化を可能にするバルブシステム、さらに、吸気系、ターボシステムの一新」とカタログにも記されている。ピストンはモリブデンコーティングとスカートサイズの短縮、バルブでは中空員テークバルブの採用などがその内容。レブリミットの引き上げ、低背圧マフラーの採用、空冷インタークーラーのサイズアップとインタークーラーコアの水平置きへの変更による冷却効率の向上なども。パワーウエイトレシオ4.250の「WRX typeRA」ではインタークーラーウォータースプレイの標準装備化も実施。……というような、市販車としてはマニアックな記述がカタログに並ぶ。さらに「STi VersionIII」はトルクが35.0kgーmと高く、鍛造ピストンを始め専用スペックが与えられたほか、「RA」にはドライバーズコントロールセンターデフ付きトランスミッションも搭載した。EJ20は長かっただけに、より子細に変遷を辿るとしたらジックリと腰を据える必要がある。とはいえ常にライバル車を見据え「今とは違い、開発の現場ではとにかく走りの性能、数値を上げることが第一だった」(スバル関係者)という。ちなみに環境対応が強く意識されたのは、2ー4集合等長排気が採用されたいわゆる“等長等爆”から。この時「WRX STi、同specC」では最大トルクが40.2kgーmまで高められた。
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