絶版となった昔のクルマを楽しむ文化が日本でも花開きつつある。4月5~7日に千葉県幕張メッセで開催されたオートモビルカウンシルには、自動車メーカーも積極的に参加。過去のクルマ=ヘリテージ(遺産)の継承が、マニアなカーオーナーによるムーブメントではなく、サプライヤーも巻き込んだ“文化”として、日本でも広がりつつあることを強く感じさせる3日間となった。オートモビルカウンシルは、「クラシックミーツモダン」をコンセプトに新型モデルから往年の名車までが一堂に会すモーターショー。インポーターやヘリテージカー販売店、自動車関連グッズ販売店、オーナーズクラブなど立場の垣根を越えた出展者たちが集い、2016年に第1回が開幕。例年8月に開催していたが、今年は4月開催となり、準備期間が半年だったにも関わらず総展示車両120台と前回とほぼ同規模の車両が集結。来場者数も過去最高の3万4692人に上った。◆後世に継承されるヘリテージモデル数々の名車が集まる同イベントで、一つの目玉となっているのが国内メーカーによる出展だ。今年は、生誕30周年のロードスターを展示していたマツダや国内5ブランドが一堂に会した共同展示ブースなど、その盛り上がりが一層際立った。マツダのブースでは、初代NA型からNA型のプロトタイプやコンセプトカー、本邦初公開となる30周年特別モデルのND型まで、ロードスターの系譜を一挙に展示。ロードスターのデザインや開発に纏わったマツダOBによる特別トークショーも催された。3日間ともに登壇した福田成徳元デザイン本部長は、初代開発時の様子を振り返りつつ、「数年売れたら終わりと思っていたので、今日この場にいるのが不思議な感覚。いまや親のクルマの乗り継ぐ人や互いにロードスターに乗る親子など、ロードスターという文化の伝承が始まっている」と、世代を越えて継承されていることへの驚きと想いを語った。初日に登壇したマツダの元デザイン本部長の福田成徳氏(右)と初代~3代目の開発主査を務めた貴島孝雄氏(左)世代を跨いで継承されるクルマとして、トヨタ博物館のブースにはA70型と今年発売の新型の2台のスープラの姿も。さらに、トヨタ自動車が呼びかける形で「百花繚乱80's」をテーマにトヨタ、レクサス、スバル、日産、ホンダの5ブランド共同展示も実施され、ブースにはフェアレディZやレガシイ、LS400など、今なお名前が継承される懐かしい顔ぶれが並んだ。トヨタ博物館の増茂浩之副館長は、今回の企画について「現行モデルではできない取り組みで、今だからこそ『あの時あのモデル凄かったよね』と話にできる。しかも最近では、タイムリーに触れていない若い世代でも、80年代などのモデルに魅力を感じる人たちがいる。何が魅力に映っているか、そのエッセンスを新型車にも生かしていきたい」として、メーカーとしてもヘリテージモデルに着目していることを教えてくれた。◆ヘリテージ文化の本場、欧州の多彩な展示車両懐かしいモデルが数多く並んだ国産車の一方で、会場で多くを占めたのが欧州車を中心とした輸入モデルだ。欧州では、フランスの「レトロモビル」やドイツの「テクノクラシカエッセン」、イギリスの「グッドウッドフェスティバル」など、メーカーも賛同するクラシックカーのイベントが盛んで、税制やパーツ供給の面でもクルマのヘリテージを楽しむ文化が深く浸透している。オートモビルカウンシルには、そんなクラシックカーの本場から、500万円を下回る手が出しやすいモデルから1000万円超の希少な一台まで多彩なクルマが集まり、イベント3日目には「売約済」の文字も散見された。さらに今年は、長年メルセデスベンツやフォルクスワーゲンなどを輸入販売するヤナセも初めて同イベントに出展した。同社は昨年4月、横浜に古い輸入車を対象にレストアを手掛ける「ヤナセクラシックカーセンター」を設立したばかり。技術の継承や日本でのクラシックカー文化の定着を目的に設立された同センターは、ドイツの第三者検査機関テュフのクラシックカーガレージ認証も取得。開設1年で数多くのレストア依頼が舞い込んでおり、ブースではレストア途中のメルセデスベンツ・600プルマンやレストアの打ち合わせ中という190SL、販売用のレストアベース車190EやSL500などが並んだ。また、同ブースには輸入第1号の1952年式フォルクスワーゲン・タイプ1とともに、昨年12月から販売する「カーカプセル」も展示。カプセル内の空気を循環して最適な内部環境を維持する保管ツールで、屋内保管でも塗装を傷めている車両が少なくないという現場メカニックの声から販売に至ったそう。車両はもとより、それを整備・修復する高度な技術、車両維持をサポートする製品など、100年以上輸入車に携わってきた同社ならではの知識とノウハウをもって、トータルで“クラシックカーのある生活”を提供している。日本車、輸入車問わず、日本においても着実に広がりつつある「旧いクルマを楽しむ文化」。メーカーやサプライヤーも積極的にそのサポートに乗り出してきた今、欧米に遅ればせながら、ヘリテージモデルを楽しむハードルは着実に下がりつつあるだろう。
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