名古屋市から長野に伸びる国道19号。長野県松本市から50km、長野市から25kmほどの場所に位置する信州新町には、古くから独特の漬け方で羊肉を食す文化があるのだという。今では長野市の一部となった信州新町。国道19号線で安曇野を過ぎ、犀川(さいかわ)沿いに走るこのエリアに来ると、沿道に「ジンギスカン街道」ののぼりや看板が目につく。昭和初期、このあたりはめん羊の飼育が盛んで、1945年ごろまでは、山間のこの地域だけで4000頭ほどの羊がいたそうである。乾燥した気候や、養蚕の際に出た廃棄物、豆類などが飼料として利用できたのもこの地域で栄えた理由のようだ。羊が身近にいた暮らしが根付いたこのあたりでは、羊肉を独特の漬け方で味付けし、食す文化が1930年代後半にはすでに根付いていたのだそうだ。1951年に観光協会があずまやを建てて、羊料理をふるまうと、この地の名物料理となり、広く広まったのだそうである。先日長野へ行った際、長野市の信州新町エリアを走っていると、地域を上げてのジンギスカン街道の看板を見て、ランチにはジンギスカンを食べないではいられなくなった。狭いエリアにたくさんのお店があり迷うのだが、「ろうかく荘」で頂くことにした。メインとなる羊肉は食用に改良されたサフォーク種、仔羊のラム、さらに昔ながらのマトンの3種類。いずれもろうかく荘独自の味付けで提供される。ここを訪れたのは平日。平日限定で、ごはん、みそ汁、サラダと食後のコーヒーなどが付くランチメニューの「サフォーク定食」が用意されている。せっかくなのでそれを注文する。テーブルの真ん中の穴に七輪を設置し、その上におなじみのドーム型の鉄板、ジンギスカン鍋を設置。その上で焼いて食べる。つけるタレも個性的だ。果物やスパイスなど6種類の素材をブレンドしたもので、これだけなめると、にんにくのような辛味もあるが、自然なしっかりとした甘みが広がる。これにお好みに応じて少しだけ醤油を加え、そこに焼いた羊肉をつけて食べる。羊肉、いわゆるジンギスカンの臭みはほとんど感じない。鶏肉よりもうすこしコクがあって、肉自体の脂も甘味があって、さっぱりしている。これなら子供や、女性でジンギスカンの臭みが苦手という人でも抵抗なく食べられるのではいだろうか。そして何より柔らかい。それでいて牛、豚、鶏とは違う食感も楽しめる。「上肉」とメニューに書かれているマトンも追加したが、これも嫌な臭みはなく柔らかい。事前のイメージと実物とのギャップという点では、上肉の方がサフォーク以上に感動が大きい。オリジナルのたれとの相性も良く、ここでしか食べられない味。お店の方曰く、リピーターも多いというが、うなずける。「ジンギスカンが苦手だという方にこそ、一度召し上がっていただきたいですね」とお店の人は言う。「下味の漬け方では、植物系の素材を中心の味付けにしてあります。免疫力を高めるにんにく、玉ねぎ、ショウガなどを生で利用しています。臭みを抑え、甘さを増して、柔らかくした仕上がりは、癖になる味だと言ってくださるお客様も多いです」「晴れていれば、琅鶴(ろうかく)湖畔越しに北アルプスを見ながらお食事を楽しんできただけます」。琅鶴湖は発電用の水内(みのち)ダムとしての機能も持つ人造湖だで、国道の鉄橋と相まってろうかく荘からの眺めがよい。上信越自動車道で行き来するとそう遠くはない距離でも、国道を走ると思いがけない発見がある。
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