◆12年投入の初代は累計販売7万5000台トヨタ自動車は、家庭でも充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)の『プリウスPHV』を全面改良して今冬に売り出す。先週、千葉県内で試乗と技術取材の機会があり、2代目となる新型がデザイン、走り、環境性能などすべてで大きな変身を遂げたと体感した。開発責任者である製品企画本部の豊島浩二チーフエンジニアへの取材では、驚きの「決意」も聞けた。このモデルを、次の全面改良までの6、7年間にグローバル販売で「100万台を目指したい」というのだ。プリウスPHVの初代モデルが登場したのは2012年の1月。今よりひとつ前、3代目のハイブリッド車(HV)『プリウス』をベースに、バッテリー容量の拡大などにより、PHVに仕上げた。当時では世界でも初めての本格量産PHVとして注目されたものの、売れ行きは芳しくなく、今年5月までの4年半のグローバルでの実績は約7万5000台にとどまっている。振るわなかったのは、プリウスより50万円ほど高価で先進性をもつクルマなのに、外観は同一としたこと。さらに、PHVの特徴のひとつである電気自動車(EV)としての「走りの味が弱く、(HVと)どっちつかず」(豊島氏)となったのもブレーキになった。刷新した2代目もHVシステムやTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)による低重心プラットフォームなどは、プリウスと共通化しているが、初代での課題をすべてクリアしたと言っても良い。外観デザインはプリウスより全長を105mm伸ばし、ヘッドランプのLEDユニットを燃料電池車(FCV)の『MIRAI(ミライ)』と共用化するなど、モチーフはむしろMIRAIに近い。◆EV走行の進化を強烈にアピールする走りでは、EV走行の進化を強烈にアピールしている。駆動用バッテリー(リチウムイオン電池)の容量を約2倍の8.8kWhに拡大して航続距離の延長などにつなげている。一方、走りのパワーでは駆動用モーターに加え、充電用のモーター(発電機)も状況に応じて駆動源とする「デュアルモータードライブシステム」の開発などにより、力強さと走行範囲の拡大を図っている。フル充電時からのEV航続距離は、従来の「26.4km」から「60km以上」へと約2.3倍に延長。また、EV走行が可能な速度も、従来の100km/hまでから、135km/hまでへと大幅に引き上げられた。さらに、量産車では世界初となる駆動エネルギー用の「ソーラー充電システム」もオプション設定される。最大出力180Wのソーラーパネルをルーフに搭載、1日当たりの充電で平均2.9km、最大では6.1kmのEV走行可能な電気を蓄えるという楽しい装備だ。さて、冒頭に触れたモデルサイクル累計での「100万台販売」だが、新型プリウスPHVの販売計画はまだ明らかにされていない。この数字はあくまで豊島氏の「個人的意志」としての言及だ。初代が4年半でやっと7万5000台という現実に照らすと、「大風呂敷」と一笑する向きもあろう。「チームの輪を尊ぶ」トヨタでは、「不規則発言」と受け止められかねないとも、心配してしまう。◆PHV激戦時代への危機感なぜ100万台か? 昨年12月に発売し、以来国内でベストセラーを続ける4代目プリウスの開発責任者でもある豊島氏は、1997年に初代が投入された歴代プリウスの販売軌跡に重ね合わせたという。そのグローバル販売は、丸めた数字で初代(97年~)10万台、2代(03年~)100万台、3代(09年~)250万台―となった。豊島氏は「初代から3代まで“ホップ、ステップ、ジャンプ”と飛躍することでHVは一般のクルマになった。PHVもここで100万台レベルにステップしなければ道が開けないし、他のモデルへの展開も遅れてしまう」と指摘する。HVという21世紀の自動車新技術をリードしてきたトヨタだが、世界の潮流はHVからPHVへの展開へと加速度を増している。環境規制の先頭を走る米カリフォルニア州では18年にはHVが優遇のカテゴリーを外れる。最大市場の中国では、補助金政策でPHVの市場投入が活発になっている。トヨタも今年4月には18年に中国で『カローラ』、『レビン』の兄弟車にPHVを投入すると発表した。また、HVに距離を置いてきた欧州メーカーは、EU(欧州連合)が環境規制でPHVに高得点を与える政策を打ち出したこともあって、新モデルの開発・投入に大きく舵を切っている。豊島氏は「私は100万台の日を見るまで、(2代目には)絶えず色々な改良を加えていきたい」と、まなじりを決して話した。個人の見解というよりも、トヨタの強い危機感が伝わってきた。