AGCの「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」が車内インテリアにもたらす新たな世界観…“曲げ”の技術を活かして実現 | CAR CARE PLUS

AGCの「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」が車内インテリアにもたらす新たな世界観…“曲げ”の技術を活かして実現

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AGCの「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」とAGC オートモーティブカンパニー モビリティ事業本部 車載ガラス事業部 技術統括部 新商品開発グループの藤江陽平氏
  • AGCの「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」とAGC オートモーティブカンパニー モビリティ事業本部 車載ガラス事業部 技術統括部 新商品開発グループの藤江陽平氏
  • AGCの「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」(左:後席ディスプレイ、右:タッチ・ディスプレイ)
  • AGCブース(人とくるまのテクノロジー展2024 NAGOYA)
  • AGC オートモーティブカンパニー モビリティ事業本部 車載ガラス事業部 技術統括部 新商品開発グループの藤江陽平氏
  • 「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」(後席ディスプレイ)の表示OFF時
  • 「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」(後席ディスプレイ)の表示ON時
  • 「mPEEK」「mPPS」を使用したスロットライナー(絶縁体)
  • 「mPEEK」マグネットワイヤと「mPEEK」「mPPS」スロットライナー

素材メーカーのAGCは、Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)にて7月17日より19日まで開催された自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2024 NAGOYA」に出展。「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」を初披露し、最新技術を紹介した。

世界中にガラスメーカーは数あれど、AGCは建築ガラス、自動車ガラス、ディスプレイ用ガラス、カメラレンズ用フィルターなど、ほぼ全分野のガラスを手掛ける世界屈指の企業であり、素材メーカーとして世界最大級でもある。

そんな同社が特に力を注いでいるのがモビリティ向け部材やソリューションの開発だ。まずはブース全体の出展概要から説明しよう。

多彩な素材にまたがるAGCの総合力

最初に紹介するのは、独自のフッ素素材を使い、より高い絶縁性と耐熱性を発揮する「mPEEK」「mPPS」スロットライナー(樹脂製絶縁体)。高電圧化が進むEV用モーターの絶縁体としては耐熱性が課題となっているが、「mPEEK」「mPPS」は150ミクロンという極薄ながら100度以上の温度になっても高い絶縁性を発揮できる。これはライナーをより薄くしても従来性能を維持できることを意味し、結果としてEV用モーターの高出力化・高効率化につながる注目の製品だ。このほか、電線の被覆に使うことで高電圧、高温に耐えられるようになる熱可逆性フッ素樹脂「ETFE」、優れた絶縁性・耐熱性を持ちつつ柔軟性が極めて高いフッ素樹脂(電線被覆材)「AR-3300N」も紹介されていた。

また、車載ディスプレイの低反射を目的とするARフィルムでは、「カラーシフトレスARフィルム」と「Smoke-ARフィルム」の2つが紹介された。「カラーシフトレスARフィルム」は、ディスプレイ上に映り込んだ反射色の色味を一定とすることができるもの。曲面にも対応することが可能で、車内インテリアの先進性向上に役立つ。また「Smoke-ARフィルム」は、より高い防眩効果と高コントラストを実現することが可能だ。ブースでは懐中電灯のライトを当てることで、その効果を直接確かめることができた。

LiDAR用カバーガラス(合わせガラス)は、自動運転車の“眼”となるLiDARセンシングのサポートを提案するAGCのガラスソリューションだ。ADASで使われる LiDAR用カバーガラス「Wideye(ワイドアイ)」は、近赤外線領域で極めて高い透過率を実現した上に、傷や衝撃による故障、雨滴・汚れによる検知精度の低下を防ぐ。耐久性はもちろん、耐衝撃性が極めて高いこともポイントとなる。ただ、日本ではそのデザイン性について改善してほしいとの声もあり、サンルーフのガラスに組み込んで一体化できるものを提案。今後は調光ガラスや、遮熱ガラス、あるいは5Gアンテナガラスとの組み合わせも念頭に置いて開発を行っているという。

“ディスプレイオンデマンド”でよりリラックスできる空間に

そして今回、AGCが満を持して出展した新技術が「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」である。ここからは詳しく解説していきたい。

このガラスが果たす役割は、使わない時は車内装パーツにしか見えないところに、必要に応じてディスプレイや操作パネルを浮かび上がらせるというものだ。木目パネルやカーボン部材などとしてインテリア性を高めつつ、ディスプレイや操作パネルとしての機能も両立させられる“ディスプレイオンデマンド”であることが最大の特徴。しかも、ディスプレイとの間に挟む加飾フィルム次第で様々な周辺部材に溶け込ませることができるのだ。

ただ、このディスプレイオンデマンド機能そのものは世に出ており、今となっては決して真新しいとは言えない。そんな状況にもかかわらずAGCがそこへ参入する背景には何があるのだろうか。その理由を同社オートモーティブカンパニー モビリティ事業本部 車載ガラス事業部 技術統括部 新商品開発グループの藤江陽平氏に尋ねると、「ガラスを使用することによるアドバンテージがあると確信しているからです」と自信を持って話した。

この製品の開発に至ったきっかけについて藤江氏は、「今後、EV化や自動運転の実現によって、車内空間の価値というものが、リラックスして過ごせる居住空間に近くなるのではないかと思います。その1つの変化点にディスプレイを隠すディスプレイオンデマンドという潮流があるのではないかと考えました。そこにガラスを採用すれば、ガラス表面の質感や高品質な表示能力、快適なタッチ感と高い耐擦傷能力を発揮できます」と語る。

この「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」誕生に際しては、AGCが持つ曲面ガラスの技術が功を奏している。複雑な立体成形技術を駆使することで、収める場所に合わせ込むように滑らかな曲面を実現できているのだ。また、化学強化ガラスの採用によって高い耐衝撃性を合わせ持つだけでなく、アンチグレア加工を施すことで映り込みを軽減し、防汚コートによって指紋が付きにくいという特徴もある。

一方で「フィルムを使えば曲面への対応も簡単ではないか?」との声も出るだろう。実際、世の中で使われている車内装部材はフィルムや樹脂を使う例が多い。しかし、これについて藤江氏は、「フィルムや樹脂は、物理ボタン等の用途には問題ないのですが、ディスプレイ表面に適用すると、クロスや爪、指輪、ボタンなどによるひっかき傷が目立ちやすい。ガラスはこうした面で優れた耐久性を確保できます」と述べ、合わせて「透過映像品質の面でもガラスは有利」と回答した。

さらに「車載カバーガラス事業で培ってきた、車両事故に伴うヘッドインパクト時にもガラスが割れずに、安全性を担保できる技術力がAGCにはあります。5年、10年という長いスパンで使われる車載製品において、これは極めて重要なポイントになります」と藤江氏は話す。

「加飾カバーガラス」で2つのアプローチを提案

そんな中でAGCが今回披露した加飾カバーガラスが、高精細な映像でも画質に影響を与えない「後席ディスプレイ」とタッチ操作パネルを想定した「タッチ・ディスプレイ」の2つだ。

「後席ディスプレイ」は、後部座席の真正面に配置しているものの、柄や形状が前席シートと調和していることで、電源OFF時はディスプレイの存在を感じ取ることはほぼできない。しかし、そこに映像を流すと優雅に泳ぐ金魚や、夜空に打ち上がる花火が鮮明な動画映像として浮かび上がった。

この実現には、周囲の素材と一体化させるために挟み込んだ加飾フィルムが重要となるが、ここに優れた透過性を有したフィルムを選定することで高精細な画質の表示ができるようにした。ガラスには映り込みを軽減する加工を施し、光が入りやすい車内であっても、より快適に映像を見ることが可能になったという。

ただ、試作品には課題もあった。それは黒色背景の映像なのに、わずかにディスプレイの輪郭が見えていることだ。藤江氏はこれについて、「本試作品ではディスプレイに液晶パネルを使っているため、黒表示部にも光漏れがあり、輪郭部に明暗差ができてしまっています。しかし、ここにローカルディミングや自発光の有機EL(OLED)を組み合わせれば漆黒の黒が再現可能となり、加飾フィルム効果をフルに引き出せるようになる。さらにOLEDであれば曲面への対応もよりしやすくなります」と、次なる開発ポイントを挙げた。

一方の「タッチ・ディスプレイ」では、高精細さは後席ディスプレイほど求められないにしても、高いデザイン性と内装との一体感が求められる。ベースとなる素材にはインテリア性の高い柄を採用し、さらに、その素材形状にマッチした形状のガラスと組み合わせればインテリア性を高めることも可能となる。

この操作部を見て驚くのが、その表示部の鮮明さだ。周囲のデザインと合わせるために加飾フィルムを挟み込んでいるが、それにもかかわらずその操作スイッチがくっきりと表示できている。しかも使わない時はその存在を感じさせない。これはOLEDによる効果もさることながら、優れた透過率を達成する加飾フィルム採用があって実現できたことだという。

とはいえ、ガラスは平面であるために、操作した時の手応えがまったくない。藤江氏は「そういった要望にはハプティクス(触覚伝達)の技術で対応できる」と話す。確かに振動として指先に与えられれば、操作の確実性は飛躍的に高まる。もちろん、この採用はOEM次第となるが、AGCとしては「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」の提案に際してこうした多彩な展開も視野に入れて開発しているというわけだ。

独自技術を活かして新たなビジネスにチャレンジ

最後にこの「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」をどう展開していきたいか、そして車載ガラス開発の展望について藤江氏に聞いた。

藤江氏は「(自分の立場として)これまでは車載用カバーガラスを普及させる方向で考えてきたわけですが、今回のチャレンジをきっかけにインテリアとしてのガラスの可能性を追求していきたいですね。ガラスの見た目の質感であったり、高級感であったり、さらには反射を上手に活かせるような加飾のカバーガラスが作り出せたらいいなと考えています」と述べた。

特に藤江氏が強調したのが、AGCが持つガラスに対する“曲げ”の技術だ。本来なら曲面に平面のガラスを収めることは不可能だが、この技術によっていかなる場所にも自由にガラスを装着できるという可能性が広がる。これは他社では真似ができない大きなアドバンテージと言っても過言ではない。

藤江氏は「石や木目といった両極の素材にも調和する加飾カバーガラスを開発し、ガラスならではの格好良さをもっと引き出せるようにしたい」と今後の抱負を述べた。

電動化や知能化が進む車内において、インフォテインメントシステムをはじめとしたディスプレイの必要性が叫ばれているが、一方でそれをギミックとしての過剰装備と捉える向きがあるのも確かだ。ディスプレイのそうした状況下において、高画質と高品質を強みとするカバーガラスの登場はインパクトを与えるに十分と言える。後席空間の価値向上や市場創出という意味でも可能性を感じた。「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」は現在開発中だが、顧客からのニーズに応じて上市する準備はできているそうだ。今後に期待したい。

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《会田肇》

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