タイヤには適正リム幅が定められている。例えばPOTENZA RE-71RSの場合、215/45R17サイズだと適正リム幅は7.0J。これは7.0J幅のホイールに組んで使うことが推奨されているということ。
適正サイズのホイールにタイヤを組み合わせた時、タイヤは設計された性能を発揮できる。ところがわざとリム幅を広くすることも多い。これを「引っ張りタイヤ」と呼び、標準で7.0Jのリム幅のところ、7.5Jや8.0Jのホイールを使うことを言う。
◆タイヤの適正リム幅を外れることで何が起きるのか?
幅が広いホイールに組み合わせるとタイヤのサイドウォールはホイールから引っ張られるようになり、サイドウォールが垂直ではなく、斜めになってくる。
ひと昔前はこの引っ張りタイヤ=スポーツセッティングとされていることがあった。リム幅が広くなることでタイヤはサイドウォールが引っ張られる。そうなるとタイヤが左右方向に動きにくくなる。剛性が上がってサーキット走行などのスポーツ走行にはこれが向いていると言われたのだ。
実際レースでも古くはそういったセッティングがされていたようで、未だに旧車のカスタムで極太ホイールに細めのタイヤを思っきり引っ張って装着しているのは、そういった当時のレーシングカーをオマージュしたセッティングだと思われる。
タイヤのリムがなかなか上がらないほどのリム幅で、コンプレッサーから直接空気を入れたり、ときにはパーツクリーナーのアルコールに火を付けて爆発でリムを上げるような手荒いことをする場合もあるようだが……。
◆結論として“引っ張りタイヤ”は性能が上がるのか?
では、実際「引っ張りタイヤ」にすると性能は上がるのか。答えはNOである。たしかに昔はタイヤ自体の剛性が足りず、広めのリム幅に組み合わせることでタイヤを潰れにくくした。剛性をアップさせていたのだ。それによってハンドリングがよくなり、タイムアップにもつながっていた。この傾向は90年代から00年代くらいまでは継続されていたように思う。
しかし、現在はタイヤ自体の剛性が十分にある。とくに国産ハイグリップ系タイヤは凄まじい進化を繰り替えして、最適な剛性にされているので下手のチューンは不要。適正リム幅で使うのが一番である。
対するアジアン系の激安タイヤなどではいまだに剛性が高くないスポーツタイヤがあるのも事実。そういったタイヤの場合はややリム幅広めを使って剛性を高めるのも手のひとつであろう。
その証拠というわけではないが、サーキット走行時になどにマッチする空気圧も変わってきている。国産ハイグリップであれば空気圧は基本的に低めがマッチする。タイヤが温まった状態で2.0kg/cm2以下がベストになることが多い。極めてグリップの高いハイグリップ系タイヤだと、温まった状態で1.6~1.7kg/cm2くらいということもあるほど。
十分な剛性があるからこそ、空気圧をむやみに上げる必要がないのだ。ひと昔前はタイヤによって2.5kg/cm2あたりがベストな空気圧になることもあった。これも剛性が足りないためにタイヤが横方向に潰れすぎないように空気を張っていたのだ。だが、空気圧が高いとタイヤが潰れないので接地面積が広がってくれない。ある程度はタイヤが潰れて接地面積を広げたほうがグリップ力が高まる。本来は空気圧は低めで使いたいものなのだ。とはいえ、それ以上に横方向に潰れてしまうとフィーリングが悪化するので、高めの空気圧を使っていたのだ。
なので、今でも剛性が低めのアジアン系ハイグリップタイヤでは少し空気圧を高めにしたほうがフィーリングがよくなることがある。もしくはやや引っ張りタイヤにして、その剛性を高めてあげるのも有効というわけだ。
そういったタイヤをどうしてもサーキットでなんとかタイムを出すというわけでなければ、適正リム幅にタイヤを組んで使うのがもっともパフォーマンスを発揮できるのだ。
スタイリング的に引っ張りタイヤが好きという方もいらっしゃるだろう。とくに車検でタイヤ幅とリム幅の規定などはないので、引っ張りタイヤでも車検は問題ない。
しかし、あまり引っ張るとタイヤのパフォーマンスも落ちるし、空気圧が下がった時にリム落ちして走行不能になってしまうこともある。ある程度リム落ちしないように空気圧を高めにしておいたほうが無難だが、そうなるとまたタイヤのグリップとしては落ちる方向になる。
クルマの性能としては落ちる方向だと理解したうえで、そういったスタイルをチョイスするようにしてもらいたい。