カーボンニュートラル社会の実現に向けて、さまざまな電池技術の開発が進む中、重量当たりの電力容量に優れたリチウム金属電池技術の展示発表が行われた。
3月下旬に東京竹芝で行われた先端技術の展示会「ギジュツノチカラ」にソフトバンク先端技術研究所が公開したのだ。
◆高度20kmを半永久的に飛ぶ基地局のための蓄電池
通信会社であるソフトバンク系の研究所が次世代電池を開発する理由は、成層圏を飛行する基地局「HAPS」やドローンによる中継局の開発がある。
HAPS(High Altitude Platform Station)は、高度20kmの成層圏を飛行する巨大全翼機型の基地局だ。ジャンボジャット機の主翼と同じくらいの大きさで、主翼上面に太陽電池パネルを搭載し、モーターによるプロペラで推進する。一度離陸すると半永久的に飛行を続け、携帯電話の基地局として機能する。
HAPSは1機で北海道程度の面積と人口をカバーできる見込みだ。今後、携帯電話の普及が見込めるアフリカなどで、基地局を複数建設するより安いコストで携帯電話ネットワークを運用できるとしている。
HAPSは既に米国で試験飛行を済ませているが、主電源の蓄電池として搭載されたのが「リチウム金属電池」だ。成層圏を飛ぶHAPSに積む電池として重要な要件がある。1. 重量1kgあたりの電池容量、2. 繰り返し充電を安定してできること、3. 成層圏という極限環境での安定動作だ。
現在一般的なリチウムイオン電池に対して、リチウム金属電池は大幅な薄型化と軽量化を実現できるが、一方で充電中に針状のリチウムが隆起して次第に充電性能が劣化してしまう。これを防ぐために強大なバネを使って板状のリチウム金属電池に圧力を掛けて針の成長を防ぐことで繰り返し充電の安定性を実現した。
さらに成層圏のマイナス気温でも安定した性能を出せるように断熱材で電池パックの周囲を囲った。それでも、重量1kgあたりでは十分な電池性能となったという。
ソフトバンクでは、災害時などに利用できる携帯電話網のドローン中継局の開発も進めている。電力や重量の問題で基地局そのものをドローンに乗せることは難しいが、数100GBpsの通信が可能なテラヘルツ通信で地上の基地局設備と空中のドローンを結ぶことで、数時間滞空可能なドローン中継局を実現できる。
このドローン技術にもリチウム金属電池などの、次世代電池技術が応用できる現状では、車載電池とは異なる分野の電池技術だが、重量あたりの電池性能や寒冷地での安定稼働は車載電池においてもメリットがある技術なので、要素技術については応用がされることを期待したい