◆トヨタはトップメーカーの行動力示して18年末に投入残念ながら、暴走するクルマが歩行者や他の車両などを巻き込むという悲惨な事故が、なかなか防げない。ドライバーは高齢者で、原因はアクセルとブレーキの踏み間違いというケースが目立つ。自動車各社が現在販売している新車には、最先端の安全運転支援装置がほぼ標準装備されているので、誤操作による暴走を抑制したり、自動ブレーキで衝突時の被害を軽減できたりする。問題は保有車両の大半を占める非装備車であり、自動車メーカーやカー用品ショップでは、そうしたクルマに搭載できる「後付け装置」への対応が加速してきた。暴走事故が起きるたびに、加害車両が新鋭の安全技術装備車だったら、と考えてしまう。運転への自信が揺らいできた人には、是非、最新の安全装備車に乗り換えて欲しいところだが、現実はそうはいかない。そこで、駐車場など低速域での事故対策に限られるものの、いま乗っているクルマに後付けができる装置が市販されるようになった。自動車メーカーではトヨタ自動車が2018年12月から「踏み間違い加速抑制システム」を売り出した。製品は異なるものの、トヨタグループのダイハツ工業も同時期に軽自動車向けの後付け装置を発売している。国内の乗用車保有台数は約6200万台(19年3月末)。このうち、自動ブレーキなどに加え、踏み間違いにも対応したシステムが搭載された車両は、商品化の時期を勘案するとまだ2割に届かない規模と推定できる。トヨタはかねて、「(未装着の)保有車両に眼を向けなければならない」(豊田章男社長)と考えており、自動車メーカーではいち早い対応となった。トップメーカーならではの安全に対する行動力といえよう。◆国土交通省は年内に装置の認定制度立ち上げへトヨタのシステムは、前後のバンパーに超音波センサーを2個ずつ取り付け、壁などの障害物をモニタリングする。車の前後3m以内の障害物を検知し、シフトレバーの入れ間違いをブザー音などで警告する。この時、更にブレーキと間違えてアクセルを強く踏んでも加速は抑制され、車内に設置する表示装置に「アクセルを離してください」という警報が出る。もうひとつ、後進時に時速5km以上になると加速を抑制させ、ブザーと表示で警報するという機能もある。踏み間違いは車をバックさせる時に起こりやすいためだ。ただし、いずれの場合もブレーキをかける機能は付いていない。トヨタはまず、『プリウス』や『アクア』など販売量の多いモデル、『アリオン』など高齢者ユーザーが多いモデルを対象に5車種に取り付けできるようにした。そして6月には3車種を追加し、今年末までには全12モデルへと拡げていく。極端に古いモデルには装着できないが、10年くらい前に発売された1~2世代前のモデル以降なら、ほぼ対応している。年末の時点で対象となる保有車両は458万台に及ぶという。自動車業界ではトヨタやダイハツに続く動きも出ている。ホンダと日産自動車は6月の株主総会時に、株主の質問に答えるかたちで、同様の装置の販売を急ぐ方針を表明した。行政も遅ればせながら、これに乗っかろうとしている。国土交通省は先週5日、乗用車メーカー8社に、8月初旬までに後付け装置の開発計画を作成するよう要請した。年内には装置の認定を制度化する方針という。◆25年にはクルマ好きの団塊世代すべてが後期高齢者になる・・こうした後付け装置は自動車メーカーに先行し、オートバックスセブンなどカー用品業界も16年から取り扱いを始めている。車両周囲の障害物を検知するセンサーは付いておらず、急なアクセルの踏み込みに応じて機能する仕組みだ。取り付け費込みの価格は3万円台で販売されている。一方、トヨタのシステムの場合、ディーラーでの取付工賃を含むと8万円台となっており、決して安いものではない。そこで、後付け装置の普及を支援しようという動きも出てきた。東京都の小池百合子知事は6月に、高齢者がこうした後付け装置を購入する場合、9割程度を補助するという方針を表明した。ただし、導入時期など詳細はまだ公表されていない。これでは検討している人が、「補助が出るまで」と装着をためらうので、逆効果になる。いついつまで遡って支給する、といったことも含め基本方針を早急に示すべきだろう。踏み間違いは高齢者だけが起こす問題ではないが、高齢者が起こしやすいのも、また事実だ。2025年には終戦直後に生まれた団塊の世代すべてが後期高齢者となる。この世代は青春期にモータリーゼーションを目の当たりにし、クルマ好きがめっぽう多いのも特徴だ。団塊の世代の人々も安心してカーライフを楽しめるよう、踏み間違い事故への対策は、まさに喫緊の課題となっている。警察庁が検討を進めている、一定の安全装置を搭載した車両のみ運転可能となる「限定免許」制度の導入も含め、多面的な事故防止策を急ぐべきだ。