“スーパーハイエンド”という言葉を耳にしたことがあるだろうか。カーオーディオの世界でいうところのそれは、「素材や製法、音質へのこだわりでハイエンドを凌ぐ、完全受注生産品として1つ1つ手作りで仕上げられる特別なカーオーディオユニット」のことを指す。
具体的には、英国の『オーディオウェーブ』、ドイツの『マイクロプレシジョン』、同じくドイツの『RSオーディオ』、そしてスロヴェニアの『ZRスピーカーラボ』、以上の4ブランドから供給される上級モデル、さらにはドイツの『グラウンドゼロ』、ロシアのケーブルブランド『チェルノフケーブル』の上級機種も“スーパーハイエンド”ユニットとされている。
なお、“スーパーハイエンド”という言葉は、上記ブランドのディストリビューターである“イース・コーポレーション”が提唱する造語だ。
さて、“イース・コーポレーション”がこれらを日本に紹介し始めてから数年が経過し、“スーパーハイエンド・ユーザー”の数も徐々に増えてきた今、改めて、“スーパーハイエンド”の魅力の真髄に迫ろうとする特別企画をお届けする。全3回構成とし、まず第1回目となる今回は、これを市場に広めてきた“仕掛け人”、“イース・コーポレーション Super High-end 推進事業部”の責任者、関口周二氏へのインタビューの模様をお贈りする。
■国際的なサウンドコンペで結果を出している、聞き慣れないブランドがある…。
最初に、“イース・コーポレーション”が“スーパーハイエンド”ブランドの製品を日本に紹介するに至った経緯から教えてもらった。
「2011年ころ、市場調査の一環として、世界規模で行われているカーオーディオコンペティション『EMMA(エマ)』の、ヨーロッパやアジア各国で行われた大会で優勝した車両のシステム表を調査していたのですが、その中に聞き慣れないブランド名がいくつか並んでいることに気が付きました。それが、今で言う“スーパーハイエンド”ブランドだったんです。
それらのブランドや製品がどのようなものなのかを知るために当社では、早速調査を始めました。調査を進めると、それらはどこも小規模ながら、並々ならぬこだわりを持ち、世界最高音質を目指す製品作りをしているメーカーであることが分かりました。
しかし、どの製品も独創的なもの作りをしていて、なおかつ価格も恐ろしく高い…。とはいえ各国のコンテストで結果を出しているのですから、性能が高いであろうことは間違いない。であるならば日本にも紹介するべきではないのか。そんな話が出始めました。
でも、それをすぐに実行には移さず、まずはリサーチだけを始めました。4ブランドすべてのトップエンドモデルを取り寄せ、2012年春の『イースセミナー&ショー2012』でお披露目しました。100万円を超えるモノラルパワーアンプや、ペアで100万円もするスピーカーを目の当たりにした時、プロショップやメディアの人たちからどのような視線が向けられるものなのか、このような製品が存在することに対して、日本市場でどんな反応が得られるのかを見てみたのです。
予想していたとおり、“不景気な世の中にあって現実的ではない”という懐疑的な反応も多かったです。しかしその一方で、“誰も使っていないスペシャルで高性能な製品を、使ってみたいと考えているユーザーはいる”、という声も聞かれました。思っていた以上の好反応とも言えたのですが…」
■いざテストをしてみると、驚愕の異次元サウンドが目前に広がり…。
その後はどう歩みを進めたのだろうか。
「正直、当社としても半信半疑でした。ですのですぐには動き出さず、そのまま1年が経過しました。そして『イースセミナー&ショー2013』で再展示し、もう1度反応を見た上で、ようやくプロジェクトがスタートします。とにかくやってみようと…。
まずは製品の性能解析から始めました。試聴用のスピーカーボックスをいくつか試作し、実際に音を聴いてみることから始めました。
実を言うと私自身も最初は、これらが受け入れられるものなのか否か、不安でしかなかったのです。しかし、実際に試聴テストをしてみると…。とても大きな衝撃を受けました。今まで聴いたことのない、異次元のサウンドが目の前に広がったのです。単に高音質というだけではなく、人間の感性に訴えかける、まさしく魂が揺さぶられるような音でした。その時の感動は今でも忘れられません。
こういう製品があることを、1人でも多くの方に知っていただきたい、そんな思いが強く湧いてきました。そして、その年の秋に“Super High-end 推進事業部”がいよいよ立ち上げられて、私がその部署を任されることとなり、本格的に活動を開始させることになったのです。
まずは、“スーパーハイエンド”に対してポジティブな反応を示してくれたショップ数軒に試聴機を持ち込み、お店の方に音を聴いていただきました。皆さん、驚かれましたね。そして、興味がありそうなお客様がいたら連絡する、と言っていただけて。
有り難いことに、興味を示してくださる方が実際に現れて、その方の都合の良い日時を教えていただいては、その方のためだけに試聴機を持ってお店に向かいました。それ以後しばらくは、このようなスタイルで活動を継続させました」
■聴きたいと言う人が現れれば、機材を持ってどこへでも行った…。
さらには、現在のような『スーパーハイエンド試聴会』が行われるようになるまでのいきさつも教えてもらった。
「“スーパーハイエンド”については、表立った宣伝活動はしてきていません。広告も打っていませんし、弊社のカタログ『ACGマガジン』でも、イメージ写真を目立たないところに少し載せる程度にとどめていました。それよりむしろ、草の根的な活動に重きを置いてきました。興味を持ってくださった方に聴いていただいて、納得いただけた場合にのみ手にしていただければと、そう考えて活動していきました。
ですので、聴きたいと言ってくださる方が現れれば、機材を持ってどこへでも伺いました。そうしているうちに徐々に、試聴を申し込んでくださる方が増えてきて、ならばオープンな“試聴会”形式にしてみようと、現在の『スーパーハイエンド試聴会』の原形が出来上がっていきました。
しかし最初は結構苦労しました。お店ごとで、音響的なコンディションが大きく異なるんです。場合によっては、良さがほとんど発揮されないこともありました。
どうすれば良い音で聴いていただけるのか、どうすれば部屋の状況に合わせて最良のセッティングができるのか、そこのところは相当に研究しました。例えばスピーカースタンドを変えただけでもガラリと聴こえ方が変わるんです。どんな機材が必要なのか、どんな置き方をするといいのか…。
また、“聴き比べ”ができることも特長としたいと考えて、いろいろな機材を持ち込むようになっていきました。各ブランドの各グレードの製品、そしてケーブルもいろいろと持っていきます。そうして徐々に内容を充実させていきました。大体の形が出来上がってきたのは、2年前くらいからでしょうか。
機材の搬入や付け替えに体力を使うのですが、参加されたお客様から、面白かった、楽しかったと言っていただけると、疲れも吹き飛びます。そして、音に感動していただけると、さらに大きなやり甲斐が感じられます。『スーパーハイエンド試聴会』は今や、私にとってのライフワークになっていますね(笑)」
■「いいなと心の底から思える製品が見つかるかどうか、ここに醍醐味がある」
関口氏の地道な活動が実を結び、最近では装着率もかなり上がってきた。サウンドコンテスト会場でも、“スーパーハイエンド”ブランドの製品を付けた車両を見る機会も増えている。
「使っていただける方が増えてきたので、各製品の音を聴いていただける機会も増えてきました。結果、浸透率は加速度的に上がっています。
とはいえ、そもそもが大量生産品ではないので、供給量には限界があります。そこが悩みの種ですね(笑)。“スーパーハイエンド”ブランドの創設者たちはいずれも、オーディオが好きで音楽が好きで、自分たちが理想とする音が得られる製品を作り出すことだけを考えています。逆に、お金儲けのことはあまり考えていません。かたくなに手作りにこだわっていますから、結果少量しか作り出せず、お届けできる数も限定的です。
納期にも時間がかかります。彼らは在庫は持ちませんし、しかし世界中から注文が来る。オーダーしてから当社に着くまでに、半年かかることもざらにあります。
なので私は、ある程度見込みでオーダーを入れるようにしています。見込み注文には当然リスクも伴いますが、できればお客様をあまり長くお待たせしたくないんです。
これからも、1人でも多くの方に『スーパーハイエンド試聴会』に足を運んでいただきたいと思っています。そこで、自分の感性にぐっとくるものを見つけていただけたら嬉しいですね。心の底から、これいいな、と思える製品が見つかるかどうか、ここに製品選びの醍醐味があると思うんです。そのお手伝いができたらと思っています。
“いつかは”と思えるものに出会えたら、楽しいと思います。まずは気軽に“スーパーハイエンド”製品の音をご体験いただきたいですね」
『スーパーハイエンド試聴会』の開催情報は、当サイトでも随時紹介しているが、ぜひとも音を聴いてみたいと思ったら、直接“イース・コーポレーション”に問い合わせてみても良さそうだ。近くでの開催が実現することもあるかもしれない。
さて次回からは、“スーパーハイエンド”製品を搭載したユーザーカーやショップデモカーの紹介を行っていく。これらを使っている方々の生の声を紹介しながら、“スーパーハイエンド”の魅力の真髄を、さらに深く掘り下げていく。乞うご期待。
“スーパーハイエンド”の甘美な世界…。その魅力を全方位解析! Part1 「仕掛け人に訊く」
《太田祥三》