◆自動運転と米農家このところ報道で目にするのは、自動運転技術の農業利用である。GPSの精度が高まり数センチの誤差で使えるようになると、田植え機や稲刈りのコンバインを無人で扱えるというものだ。あらかじめ田んぼの形状を覚えさせておけば、最適な動きをしてくれる。もくもくと行うこの作業を農機が無人で行ってくれれば米農家の人は、かなり楽になることだろう。もうひとつ、水管理をAIで行う実証実験も始まっている。今の時期は田植えも終わり、青々とした苗が水にはられた田んぼで風にそよいでいるところが多い。この時期、大切なのは、この水の量を管理することである。水田の水はずっと一定に保つのではなく、時期によって増やしたり減らしたりして米を育てていく。米農家では「水見ができれば一人前」と言われるほど、水の調整は米の収量と味を左右するのだ。これまで一日に何度も、すべての田んぼをまわって確認していたけれど、これもしなくてすむようになるだろう。おお、日本の米農家の未来は明るい!実際、こうした自動運転技術で、米農家の人手不足が解消するという超有名な研究機関の分析結果を見たこともある。へー、そうなんだ(棒読み)。でも、実際はそんな単純なもんじゃないと思うんですけれどね?◆自動運転が「不利」な場所そう、確かに、前述したことが可能になれば、米農家の作業量は減るだろう。でも、これを活用しやすいのは、広い田んぼを持っている農家である。例えば、北米のトウモロコシ畑のようにひとつの区間が、どかーんと大きければ、こうした機能は大活躍することだろう。でも、日本の田んぼは小さい。そりゃ、北海道などは大きいけれど、北米サイズに比べれば明らかに小さい。それに、山間地の多い日本では、小さな棚田が多いのである。農林水産省の定義による日本の棚田率は、全体の約8%。でも、定義に入らずとも中山間地の傾斜のある土地を開拓し、小さな田んぼで米を作っているところは至るところにあるのだ。小さな田んぼが自動運転に不利な理由は、まず、田んぼから田んぼへの移動が多いことだ。田植えをしたら、はい、次の田んぼへ移動。田植え作業はこれの連続なのである。隣の田んぼまで自走させればいいじゃん、GPSで道もトレースさせられるでしょと言うけれど、田植え機は公道を移動するとき、4トントラックなどに積んで運ばなければならないのだ。運んでおろしての繰り返しなのである。もうひとつ、収穫するときのコンバインは、角が苦手である。いくら自動で刈り取ってくれても、「すみっこ」の作業は相変わらず人間の手が必要だ。つまり、同じ田んぼ面積であっても、小さな田んぼをいくつも持っている米農家は、自動運転技術を採用したとしても手作業でやる部分は減らないことになる(ここは、自動運転関係なく、農機具メーカーにがんばってもらいたいところだ)。さらに、山間になると、GPSが機能しにくい。今ですら、「道のわきに街路樹があるとGPSの位置情報が不正確になり、クルマの自動運転には使い物にならない」と言われるほど、高い木々やビルはGPS電波を反射させる。北米型で平面に広がる農地ではよくても、山間にある棚田では、どこまでGPSの位置情報が役に立つのだろうか。ついでに水見にAIを使うのも同じように、小さい田んぼをいくつも持っている米農家は、田んぼの数だけ機械を導入する必要がある。イコール出費がかさむわけだ。隣同士の田んぼなら、ひとつおきにしてもいいのでは?というわけにもいかない。なぜなら、田んぼは一枚一枚、土の質が違い、保水力が異なり、さらに、上流から葉っぱが流れてきては水の入り口をふさぐし、モグラが穴をあければ放水されて水がなくなる。自然相手の仕事は、さまざまな事案が関係してくるのである。◆米農家に恩恵はあるか農業は設備投資にお金がかかる。米農家は、播種機を買い、育苗機を買い、田植え前の田んぼを耕すトラクターを買い、田植え機、肥料まき機、フォークリフト、コンバイン、軽トラ、4トントラック、乾燥機……と、本当にそろえるものが多いのだ。技術は進化する。いずれ、GPSは木々のそばにある棚田でも使えるようになるだろうし、水見を手助けするAI搭載機械も安くなるだろう。けれど、その間の費用格差、作業量格差で米価が低価格競争になったとき、棚田の米農家は耐えられるのだろうか。日本の米作りを支える、棚田で奮闘する米農家にも、しっかりと自動運転技術の恩恵がわたるように願うばかりである。岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。
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