【自動車整備学校の今を追う ~その1~】クルマから離れていく若者たち…教育の現場が語る「今と昔の若者の違い」 | CAR CARE PLUS

【自動車整備学校の今を追う ~その1~】クルマから離れていく若者たち…教育の現場が語る「今と昔の若者の違い」

特集記事 コラム
整備業界の入り口では、自動車業界を目指す若者が今も多く奮闘している
  • 整備業界の入り口では、自動車業界を目指す若者が今も多く奮闘している
  • 群馬県伊勢崎市にある群馬自動車大学校
  • 広大な敷地のなか、充実した学生生活を送ることができる
  • 石井副校長は、今の若者に足りないものを「経験値」と語る
  • 授業内容が大きく変化していることを教えてくれた吉田副校長
  • 学生が自由にクルマをいじれるガレージも今は空いてることが多い
  • 今の学生用の駐車場にはノーマル車が目立つ。一昔前はカスタムカーもズラリと並んでいたそうだ
  • 教員が門の前に立ち、学生に挨拶を心がけさせる
「若者のクルマ離れ」、「人材不足」…。最近、自動車整備業界を語る時には、こんなネガティブな言葉が使われることも多い。

そんな状況の中でも、未来の整備士を養成し、多くの若き人材を輩出しているのが自動車整備学校だ。今回は、群馬県にある「群馬自動車大学校」に編集部が潜入。実際の授業風景や、副校長の石井光吉氏、吉田宏氏の話から分かった“自動車整備学校の今”を数回に分けてレポートする。

まず取り上げるのが、「時代に合わせて変わる生徒への対応術」。“クルマから離れてしまった”と言われる現代の若者像とは一体どんなものなのだろうか? その実態に迫る。

◆今と昔で変わる“学校の風景”

群馬県の伊勢崎駅からクルマで走ること15分。自動車教習所が併設されるほど広大な敷地に立つ群馬自動車大学校の校舎は、所々に配色される鮮烈な赤が、若者に好まれそうなポップな雰囲気を演出している。ここが未来の整備士達が、自動車整備の“いろは”を学ぶ現場だ。





その校舎の一室で、石井氏、吉田氏の両副校長が『整備学校の今』について語ってくれた。熱心に色々な話を聞かせてくれたのだが、なかでも印象的だったのが、“現代の学生像”についてだった。

「今と昔の学生の一番の違いは、18歳になるまでに積んだ経験値です。昔は当たり前だったことでも、今の学生は経験してこなかったというものが多い」

石井氏は時代によって変化する学生の姿を、『経験値』という言葉を用いて表現した。そのなかには、もちろんクルマも含まれる。



数年前までの学生は、学校に入るまでに実際に自分でクルマをいじった経験がある学生が多く、基礎的な部分は事前知識として蓄えて入学をしてきていたという。しかし、今そういう学生は少ない。中には「バッテリーがどこにあるか分からない」という学生もいるそうだ。

校内には「MY GARAGE」という、学生が自由にクルマをいじれるガレージが設置されているのだが、ここも「昔は予約を取るのも大変だったけど、今は空いている事が多い」と、その変化を物語る場所の一つとなっている。学生用の駐車場も、かつてはカスタムされたクルマがぎっしりと並んでいたが、今は「軽のノーマル車が多い」という。





◆根本的に教え方を変更

『人間性豊かな自動車整備士の育成』を目的として、1967年に設立された同校。50年の歴史を積み重ね、これまで輩出してきた卒業生は1万人以上に及ぶ。数多くの学生を社会へと巣立たせてきた学校だからこそ、今と昔の若者の変化を敏感に感じ取っている。

「昔の学生にとってクルマは生活の全てで、特別な存在だった。でも今の学生には数ある娯楽の一つ。移動手段という意識が強いのかもしれませんね」

石井、吉田両副校長が口を揃えて語る、この学生の考え方の変化が、先に述べた“経験値の差”に繋がる。クルマに対する価値観が、『絶対的なモノ』から『相対的なモノ』に変わっていったことは、クルマ離れの一つの要因でもあるだろう。

しかし、ここは教育の現場。そんな状況を、ただ指をくわえて眺めているわけにはいかない。スタート地点がどうであれ、最後には社会で戦力になる人材を育てる使命を担っているのだから。時代に合わせた教育方法を模索するなか同校が辿り着いたのが、「教え方を、これまでとは根本的に変える」(吉田氏)という方法だった。



◆経験を積める場所を提供

例えば授業。これまでは教えていなかった、より基礎的な部分を説明に加えたり、平面図ではイメージが湧かない生徒のために、映像や立体図などを多用するのも最近の特徴だ。

授業だけでなく、登校時間には教員が生徒の通用口に立ち、挨拶の徹底化もはかっている。これ以外にも社会で通用する人材を育てるための教育が、細部まで行き渡っている。これらは、学生に経験を積んでもらうための工夫ともいえる。



経験値の差を埋めた同校の若者達は、毎年のように100%の企業内定率を樹立。さらに、第一希望内定率も94%という高水準を記録している。卒業する時、この地から思い描いた未来への一歩を踏み出しているのは、今も昔も変わらない。





◆教室内外で続く取り組み

「今の生徒はただ経験していないだけ。それならば教えればいい。経験さえ積めば、昔の生徒となんら変わりない」

石井氏が語ったこの言葉こそ、今の学生と向き合うために同校が導いた、一つの答えだ。今の若者が失っているのはクルマに対する“興味”や“情熱”ではなく“経験”、そう言っているようにも聞こえた。

両副校長によると、今の学生の気質を一言で言うと「真面目」なんだとか。「(昔の学生より)芯がしっかりしていて、先を見据えている」という今の学生に歩調を合わせるため、長年をかけて築き上げた方針を変えることも厭わない。また、同校では対外向けのイベントなども催し、たくさんの人々にクルマの楽しさを伝える活動にも尽力している。若者をクルマから離さないための努力が、教室内外で続けられている。

この日、同校で見かけた生徒は、誰もが真剣な表情でクルマと向き合っていた。この学舎で、“今風の若者”達は経験を積み、今後の自動車業界を支える人材へと成長していく。



◇群馬自動車大学校◇

1967年に「群馬自動車整備技術学校」として開校。2007年に現在の名称となり、17年には創立50周年を迎えた。1年課程の自動車車体整備科、カスタマイズ科、2年課程の一級・二級自動車整備科(一級は計4年在籍)、3年課程の国際メカニック科で構成される。

産業能率大学(通信制)に在籍し、大卒資格も取得できる体制が整えられていることや、ランボルギーニ、フェラーリなどの高級車を教材車として用意するなど、独自の取り組みでも人気を集めている。小倉基宏学校長。



《間宮輝憲》

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