実車を解説しながら、ミニカーの再現度を検証するシリーズ。今回はスーパーカーブームの中心的存在にして幻と言われた車「ランボルギーニ カウンタック ウォルター・ウルフ」を紹介する。モデルカーの前にまずは実車がどのような存在であったか見ていきたい。●ランボルギーニ・カウンタックそもそもランボルギーニ『カウンタック・ウォルター・ウルフ』の元となったのは、もちろんキング・オブ・スーパーカーとして未なお君臨し続けるランボルギーニ「カウンタック」だ。ランボルギーニとして大成功したモデル『ミウラ』に続く後継車として、惜しくも今年(2017年)この世を去ったエンジニアのパオロ・スタンツァーニ氏を中心に開発された。他を圧倒する特徴が、デザインとエンジニアリングの両面にある。鬼才マルチェロ・ガンディーニ氏が手がけた、当時の人々が空を飛ぶと信じたほどの奇抜で近未来的なスタイリング。巨大なV12エンジンを車体後部に縦置きしホイールベースと重量配分を最適化するためにギアボックスとレイアウトを逆転させるというパオロ・スタンツァーニ氏による革新的エンジニアリングである。そんなカウンタックは、1971年のジュネーブモーターショーが初登場で、このときは「LP500」仕様が発表された。名前が示す通り5リットルのモンスターエンジンを搭載しており、革新的なデザインは世界中から大反響をよんだ。早期の市販化が期待されたものの、巨大なエンジンに対して流線型でスタイリング優先のボディは冷却効率が悪く、オーバーヒートなどの多くの問題を抱えていた。各種の問題を解決するために実に3年に及ぶ月日を要した。1974年、ついに満を持して市販モデルとなる「LP400」が登場。オーバーヒート対策としてボディに多数のエアアウトレットが設けられ、エンジンも扱いやすく発熱量も少ないミウラ用4リットルエンジンに換装されていた。このある種の妥協とも言える変更が、その後のカウンタック ウォルター・ウルフを生み出すきっかけとなった。●ランボルギーニ・カウンタック・ウォルター・ウルフ1970年代後半に活躍したF1チーム「ウォルター・ウルフ・レーシング」でお馴染みカナダ人実業家のウォルター・ウルフ氏は熱狂的なランボルギーニファンだ。もちろん、1974年の発売直後にすかさずカウンタックを手に入れたのだが、ウルフ氏はこの最新モデルの性能に満足できなかった。すぐさまランボルギーニ社に掛け合い納得いく仕様に改良させるのである。ウルフカウンタック最大の特徴となる大型リアウィング、そしてタイヤの拡幅に対応するためのオーバーフェンダー、ブラーボホイールにピレリP7の扁平タイヤなどが与えられ1975年に完成をむかえる。後にいう1号車にして、今回紹介するモデルがこれだ。その後、ウルフはさらに改良を続けていくことになる。翌1976年には、プロトタイプだったLP500に積まれていた5リットルエンジンを改良版して搭載した2号車が完成。さらに1978年には、2号機からエンジンが移植され、チーフエンジニアだったジャンパオロ・ダラーラ氏指揮の元でフレームを強化、8ピストンのブレーキキャリパー、ボーグ&ベックのツインプレートクラッチが奢られた3号機が生み出された。余談だがこの3号車は長らく存在そのものが疑われるほど人々の前から姿を消していた。後に日本人オーナーの手によってランボルギーニ本社のフルレストアを受け2015年にオーナーの元に納車された。その納車レセプションには私も参加して実物を目撃している。このカウンタック・ウォルター・ウルフは、当時のランボルギーニ社を支えた天才的エンジニア達と車への愛を惜しまなかった実業家ウォルター・ウルフ氏が生み出した究極の傑作と言える。その証拠にこれらの改良は単なる一台のスペシャルモデル製作に留まることなく、その後のLP400S、500S、5000クアトロバルボーレへと進化していく過程で正式に採用されていったのである。今日大成功を収めるランボルギーニの歴史に名を刻むべき名車であり、オートアート社のシグネチャーシリーズに相応しい題材と言える。それでは、本モデルがそんな伝説のスーパーカーをどのように再現しているのか、細部まで見ていこう。本モデルの全景を見たとき、モデルカーマニアとしてどうしても賞賛せずにはいられない点がある。それは、ランボルギーニ・カウンタック市販化の特徴でもあるダクト類だ。車体に多数設けられた大小のダクトがエンジンフードのメッシュに至るまで全て妥協なくリアルに再現されており、その細かさに驚かされる。そして、もう一つ。ランボルギーニ・カウンタックの命ともいえるスタイリングは丸みを帯びた流線形のラインとそれを構成する際立ったエッジから生み出されている。モデルカーになる際に実車とは異なる塗料の粒度からエッジがぼやけてしまうことも珍しくないが、本モデルでは実車さながらのエッジが見事に再現されている。全景から来る本物感はここからきていると思われる。それでは、お待ちかねのドアを開けてみよう。シザースドアの名前の通り前方のヒンジを支点としてハサミのように跳ね上がる。支点のすぐそばには忠実に再現されたダンパーが現れる。車好きならば誰しもが一度は特徴的なこの上に開くドアを開けてみたいと願ったことがあるだろう。再現度の高い本モデルのドアを開閉することで、少しでもその気分を味わってみてほしい。メッシュが美しいエンジンフードを開けると、そこには巨大なV12エンジンが後輪軸より前方に美しく収まっている。個別パーツの細かさとその再現度に圧倒される。車体を裏返してみると、革新的エンジニアリングを象徴するギアボックスとエンジンの逆転配置が非常によくわかる。ギアボックスを前方に配置したもう一つのメリットとして室内のシフトレバーからワイヤーリンケージを介すことなくギアチェンジ可能なことがよく理解できる。ボディフロントとリア、そして室内のステアリングに貼られたウォルター・ウルフ・レーシングのデカールが誇らしく輝き、ウルフ氏のこの車への愛情が伺える。各部の再現度やモデルカーとしての完成度が素晴らしいのは言うまでもなく、オートアート社設計者のこの車のヒストリーや当時の仕様に対する理解度の高さまでひしひしと感じることができる素晴らしいモデルだ。ぜひ一度手に取り、一台の車に魅了された男達の熱い思いを感じ取ってみて欲しい。欲しくなったらこちらへ