油圧機器の総合メーカーであるカヤバが9月末、最新の技術や開発状況などについてメディア向けに紹介する場を設けた。
カヤバは1919年に創業者である萱場資郎氏が萱場発明研究所を創業、その歴史が始まる。1985年からはカヤバ工業という社名を用い、2015年からはKYBとしていたが、2022年からは社名をカヤバとしている。
カヤバは油圧機器において国内最大手のメーカーで、油圧技術をベースに自動車のショックアブソーバなどの振動制御や建設機械のパワー制御を得意分野とする。4輪車のショックアブソーバOEM供給においてはシェア38%、コンクリートミキサー車はシェア85%を誇る。同社製品は4輪車、2輪車、建設機械、産業車両、航空機、鉄道、特装車両など幅広い分野に及ぶ。カヤバは独立系企業であるため、その納入先はメーカーを問わず多岐にわたる。
今回は生産現場の視察なども含んでいたが、実際に目にし、試乗することができた、製品化に向け開発中のアイテムについて紹介していこう。
◆次世代ピストン&ベースバルブ
コンベンショナルなショックアブソーバを対象に、次世代のピストンとベールバルブを開発したもの。ピストンは伸圧独立オリフィスの採用により、伸び側と縮み側の独立したセッティングを可能としている。チョークバルブによって低速域のリニア減衰力を付与、しなやかな開弁特性を持つ部分開きバルブや、中高速域での減衰力立ち上がり特性の設定自由度を上げる段差調整も可能としている。ベースバルブは流路抵抗の適正化、バルブ径と軸径の最適化、背面バルブの自由度拡大などが行われている。
試乗車として用意されたのはトヨタ『カムリ』で、ノーマルショックとの比較試乗であった。ノーマルショックでは段差越えの際にガツンと強いショックがきたが、次世代ピストン&ベースバルブを採用したショックは最初の入力が抑えられている印象。最終的な入力は同レベルだがいわゆる当たりのしなやかなサスに仕上げられていた。
◆高負荷価値ショックアブソーバ
ADC(バルブ域周波数感応)とDHS(油圧ストッパー)を採用したもの。ADCはバネ上(サスペンションよりも上部の構造物で、おもにボディなど)に発生する低周波や共振の制振と、バネ下(サスペンションよりも下のタイヤなど)の高周波や共振を低減するもの。DHSはストロークの後半に大きな減衰力を与えるもので、縮み側に作用するHCSと伸び側に作用するHCSが組み合わされている。
試乗車はBYD『ATTO3』で、ノーマル状態との比較試乗であった。バッテリーを搭載するEVは車重が重くなりがちで、スプリングレートを高めに設定する必要がある。同時にショックアブソーバの減衰力も高めの設定となるが、そうなると乗り心地が悪くなる。高負荷価値ショックアブソーバでは、サスペンションの動き始めの減衰力はよわくしっかりと足まわりが動くが、縮み側も伸び側も終盤に近づくとしっかりとダンピングが効くので安定感がアップする。今後、重量級のモデルが増えてくるのは必至であり、DHSは非常に大切な技術となってくるであろう。
◆セミアクティブサスペンションシステム
減衰力調整式のショックアブソーバは数多く存在するが、その多くは伸び側減衰力と縮み側減衰力を同時に調整するもの。どちらか一方の強弱を調整するのではなく、どちらかを強くすればもう一方も強くなる。カヤバが開発したセミアクティブサスペンションシステムは伸び側、縮み側それぞれの減衰力を独立して調整できるようにしたものだ。それをベースとして各種センサーによって、自動制御している。
試乗車はフォルクスワーゲン『ティグアン』。ノーマルのティグアンも減衰力調整機構を備えるが、試乗車は伸び側、縮み側両方の減衰力を独立して調整できるカヤバ製のセミアクティブサスペンションシステムが装着されている。波状路→スラローム→コーナーという順で走行。最初に伸び、縮みともにもっとも強い状態、2周目でもっとも弱い状態で走行した。もっとも強い状態での波状路では突き上げ感がかなり強く、クルマも傷みそうな雰囲気であるが、スラロームやコーナーでは安定している。もっとも弱い状態では波状路でブワッとした動きでスラロームやコーナーもかなり不安定である。しかし、もっとも弱くすると路面の継ぎ目などもしっかり吸収し乗り心地を稼げるとのこと。最後に自動制御状態で運転したが、なるほど波状路でも納得のいく振動に抑えられ、ハンドリングも安定していた。
◆フルアクティブサスペンション
フルアクティブサスペンションはショックアブソーバの外部に電動の油圧ポンプを備え伸び側、縮み側の両方を積極的に制御する方式。ポンプで加圧されたオイルは圧力制御弁で圧力を調整され、その先に配置された方向切替弁によって伸び側、縮み側に適切に圧を掛ける。
試乗車はBMW『5シリーズ』のアクティブハイブリッド5。制御なしでは上下に激しく動いていた車体が制御をオンにすると、上下動はなくなりフラットな状態で走れる。セミアクティブサスペンションがドライバーの運転しやすさを中心とする考えであるのに対し、フルアクティブサスペンションはパッセンジャーの快適性を重視する考えで、今後広がってくる自動運転などに対し大きく貢献するという。
◆スマホでつながるセミアクシステム
チューニング用のショックアブソーバとして、多くのメーカーが手がけているのが減衰力調整式ショック。カヤバが現在取り組んでいるのはスマホのアプリを利用して減衰力を調整するタイプだ。ショックアブソーバ本体はすでに市場で評価を受けている減衰力調整タイプのものを使用。そこにセンサーを内蔵したEUCを組み合わせ、スマホアプリで調整するというもの。4輪独立して減衰力調整ができ、任意の組み合わせをセットし、状況やドライバー、乗車人数などに合わせたセッティングを保存できる。EUCとスマホの通信はBluetoothを使用する。
◆環境対応作動油
現在、油圧機器に使われている作動油の基油は石油由来のものが多い。廃棄時にすべての油圧機器をリサイクルできればいいが、実際は事故により環境に暴露されることがある。また作動油を取り出して助燃剤として使われることもあるという。そこでカヤバは基油を植物由来のものへと切り替える研究を進めている。持続可能な油脂ということで「サステナルブ」と名付けられたこの基油は植物由来のため、環境に暴露されても微生物によって分解される。また助燃剤として使われても植物油の場合は植物が固定した炭素が空気中に戻るということでカーボンニュートラルとなる。サステナルブを使ったショックアブソーバは全日本ラリーなどのモータースポーツで使用し、熟成を重ねている。
このサステナルブを使ったショックアブソーバが装着されたトヨタ『カローラスポーツ』に試乗。カヤバは振幅速度に対する摩擦力の立ち上がり感度を添加剤で調整できる技術を有しており、この技術を植物にも応用可能とのこと。動き出しからしっかりとダンピングする感覚を感じられるショックアブソーバで、スポーティに走れた。
カヤバは10月25日から(一般公開は28日から)11月5日まで開催されるジャパンモビリティショー2023にも出展する。さまざまな技術展示行うので、油圧について深く知る良い機会になるだろう。