水素燃焼エンジンではない? 取り組むべきはバッテリーエコシステムか…日産の戦略 | CAR CARE PLUS

水素燃焼エンジンではない? 取り組むべきはバッテリーエコシステムか…日産の戦略

特集記事 コラム
V2Xとバッテリーの二次利用をテーマとしたパネルディスカッション(Nissan FUTURES 2023)
  • V2Xとバッテリーの二次利用をテーマとしたパネルディスカッション(Nissan FUTURES 2023)
  • パネルディスカッション第1部:ドリーブ CEO エリック・メベリック氏、ヌービー CEO グレゴリー・ポイラン氏、日産自動車 グローバルEVプログラム&エナジーエコシステムビジネス部担当 理事 ユーグ・デマルシエリエ氏、自然エネルギー財団 西田裕子氏(左から)
  • パネルディスカッション第1部:ドリーブ CEO エリック・メベリック氏、ヌービー CEO グレゴリー・ポイラン氏、日産自動車 グローバルEVプログラム&エナジーエコシステムビジネス部担当 理事 ユーグ・デマルシエリエ氏、自然エネルギー財団 西田裕子氏(左から)
  • パネルディスカッション第2部:日産自動車 エネルギービジネスユニット ダイレクター ソフィアン・エルコムリ氏、フォーアールエナジー 代表取締役 堀江裕氏、日産自動車 経営戦略本部担当 常務執行役員 真田裕氏、自然エネルギー財団 西田裕子氏(左から)
  • パネルディスカッション第2部:日産自動車 エネルギービジネスユニット ダイレクター ソフィアン・エルコムリ氏、フォーアールエナジー 代表取締役 堀江裕氏、日産自動車 経営戦略本部担当 常務執行役員 真田裕氏、自然エネルギー財団 西田裕子氏(左から)
  • Nissan FUTURES 2023
  • Nissan FUTURES 2023
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日産自動車は「Nissan FUTURES 2023」イベントの一環としてパネルディスカッションを2月21日に開催した。議論を通して改めて見えてきたのは、EVメーカーとしての日産独自のエネルギー戦略だ。

それはEVのバッテリーをエネルギーエコシステムに組み込み、カーボンニュートラルや電力の安定供給といった問題に対処しようというもの。さらに、バッテリーエコシステムの確立によって自動車産業の持続的発展も目指す。そのためには、社会的便益だけでなく、消費者のメリットや企業のマネタイズという視点も欠かせない。合わせて業界および業界を超えたパートナーシップの必要性も呼びかけた。

Nissan FUTURES 2023

◆プラグインすることのメリット…V2Gの可能性

2部構成のパネルディスカッションは、前半に再エネの普及・安定化に貢献するV2G・VPPを、後半第2部ではバッテリーの再利用・再製品化を含むEVエコシステムをテーマに据えた。モデレーターは、第1部、第2部ともに自然エネルギー財団 西田裕子氏が務めた。

第1部のパネラーは、EU圏でV2G事業を展開するドリーブ CEO エリック・メベリック氏、アメリカおよびEU圏で充電事業や電気バス・フリート事業を手掛けるヌービー CEO グレゴリー・ポイラン氏、そして日産自動車 グローバルEVプログラム&エナジーエコシステムビジネス部担当 理事 ユーグ・デマルシエリエ氏。

エリック・メベリック氏、グレゴリー・ポイラン氏、ユーグ・デマルシエリエ氏、西田裕子氏(左から)

V2G(Vehicle to Grid)は、EVの電力をグリッド、つまり地域の配電網に流すことだ。国内では災害時の非常電源としての機能や活用が進んでいるが、EVバッテリーが持つ電力量は相当なものだ。デマルシエリエ氏は「『リーフ』のV2H(Vehicle to Home)用パワコンならば、満充電で一般家庭の通常電力(エアコンや家電製品などを普通に使う)3日分をまかなうことができる」と語る。

EVの電力をオンデマンドかつピンポイントで利用するだけでなく、プラグにつながったEV(バッテリー)の充放電を積極的に制御する取り組みも進んでいる。ドリーブのメベリック氏は「Eモビリティは確実に電力システムに影響を与えている。一般にEVはグリッドへの負荷が問題になるとされる、EVの充電システムはスマート(ソフトウェア制御可能)なので負荷問題に対応できる。充放電の制御ができれば、需給調整、平準化、価格変動のバッファ、エネルギーの貯蔵にもなる」という。

だが、使っていないEVをプラグインしてもらい、グリッドからの充放電の制御を許してもらうには、EVオーナーにメリットが必要だ。たとえば駐車場代や飲食代をグリッド放電でまかなうといった便益だ(日産はアリアの発表イベント等で実践している)。ポイラン氏は「交通事業者や貨物輸送事業者は、電力コストの削減や売電というメリットも考えられる。ヌービーはEVフリート事業者に充放電マネジメントを含む充電ビジネスを展開している」と話す。

◆EVで電力クラウドを作る…VPP

EVバッテリーを系統電力の調整に使うという動きは、VPP(Virtual Power Plant)としても認知が広がっている。VPPはエコキュートや家庭用蓄電池などを、グリッドに分散した小型発電機(蓄電池)と見立てる。それを仮想的な発電所とするソリューションだ。軽自動車の『サクラ』(20kWh)でも、大容量家庭用蓄電池の2倍近い容量を持っている。スマートメーターやIoTによって、EVバッテリーを論理的に集約できれば、ピーク時の発電負荷分散や再エネの安定供給に使うことが可能だ。

VPPは国内でも主要電力会社が取り組んでいる分野だ。各地の実証実験で有効性が確認され、九州電力などは一部をサービスとして提供を始めている。交通事業者などにEVフリートマネジメントとVPP対応プランをセットで提供しすることで、事業者のビジネスをサポートしながら再エネ活用によるコストダウンと安定供給を両立させている。

風力・太陽光など不安定なパワーソースは使い物にならないという意見があるが、適切な蓄電設備があれば再エネは実用的なパワーソースになる。カーボンニュートラルは車両のEV化だけでは達成できないが、EV化が進まなければやはり達成不可能だ。再エネは蓄電ソリューションとセットで考える必要がある。VPPはそのソリューションの一つだ。

パネルディスカッションでモデレータの西田氏は「EVは自動車以上のもの」と述べていた。日産のEVがV2Hにこだわるのは、EVはこれからのエネルギーエコシステムに重要なアクターであると認識しているからだろう。

◆EVとエネルギーエコシステムをどうつなげるか

第2部は、フォーアールエナジー 代表取締役 堀江裕氏、日産自動車 経営戦略本部担当 常務執行役員 真田裕氏、同エネルギービジネスユニット ダイレクター ソフィアン・エルコムリ氏がパネラーとして参加した。

ソフィアン・エルコムリ氏、堀江裕氏、真田裕氏、西田裕子氏(左から)

フォーアールエナジーはリーフのバッテリーの再利用や再製品化事業を展開している。社名のフォーアール(4R)は、一般的なサーキュラーエコノミーで使われる3R(Reduce、Reuse、Recycle)ではなく、Reuse、Refablicate、Resale、Recycleという同社の4つの事業を意味している。

ReuseとRecycleは3Rと同じだが、Refablicateはバッテリーパックをモジュール単位に分解・再構成し、用途ごとの電圧・容量を変えた製品として再構築する事業を指す。Resaleは再構築したバッテリーや再利用バッテリー、リサイクルで抽出したレアメタルなどを販売するビジネスのことだ。

第2部では、3Rまたは4Rを軸に、バッテリーエコシステムにフォーカスをあてた。EVを増やすだけなら自動車やパーソナルデバイスとしての機能・付加価値を追求すればいいかもしれない。価格は、本質的に市場経済が解決(収束)してくれる問題だからだ。だが、EVをエネルギーとしてプラグインしてもらうには別のアプローチが必要だ。

ここでバッテリーエコシステムが重要になってくる。ニッケルやリチウム、銅などを多用するバッテリーは、資源確保の問題があり右肩上がりのニーズに追従できない可能性がある。未発見の鉱床もあるだろうが、バッテリーサプライチェーン(=エコシステム)には、他の製品以上にリサイクルや再利用を組み込む必要がある。

◆進むバッテリー再利用とその課題

真田氏は「10年EVを作ってきた知見によって、いまのバッテリー寿命は延びている。車が廃車になってもバッテリーは十分に使えることが多い。これの再利用を進めている。加えて、レアアースの抽出、リサイクルにも取り組んでいる。」と述べた。スペインでは「使い終わったEVのバッテリーでバックアップジェネレーターを作り、グリッドに供給する取り組み、リーフのバッテリーパックを定置型エネルギーストレージとする取り組みなどがある」(エルコムリ氏)という。

ただし、バッテリーの回収は想定より進んでいないそうだ。真田氏は個社での取り組むことの限界も感じており、コミュニティの形成やパートナーシップ、業界横断での取り組みの必要性を指摘した。EUでも同様な課題があるとエルコムリ氏は語る。「2023年のリーフからのバッテリー回収予測はおよそ1000台。2030年にはこれを2万台まで広げたい考えだが、回収ポイントの拡充、パートナーシップの拡大が必要だ。そのためにはスタンダードづくり、政府支援も欠かせない」とした。

フォーアールエナジーの堀江氏は、「再利用やリサイクルに関する技術的な課題はあまりない。レアアースのリサイクルも効率改善の余地はあるが、分離抽出に障害があるわけではない。だが、リサイクルは装置産業でもあり規模が必要だ」と、回収規模と効率を上げることの重要性を説いた。

◆3R・4RでEVのリセールバリューを上げる

回収規模と回収効率上げるには、まずEVの母数を増やすこと。次にEV利用と回収にインセンティブを与えること。そのための取り組みやアイデアが出された。第1部で議論されたように、EVの(走行しない)放電を買い取るしくみがあれば購入ハードルを下げることができる。電力会社や、電力会社から需要調整依頼がくる大需要家にとって、電力不足や節電協力コスト、投資を考えたら、EV電力の買い取りのほうがメリットがある。

新車購入時に、再利用バッテリーを選べるようにしてもよい。バッテリーは、すべてのセルやモジュールが均一に劣化していくわけではない。Refablicateによって劣化セル・モジュールだけ交換できれば安価なバッテリーの商品化が可能だ。用途に応じたカスタム容量バッテリーも実現可能かもしれない。ベトナムのVinFastは、バッテリーをサブスクリプションプランとして提供し、新車価格を抑えている。

堀江氏は「バッテリーはできれば全部を回収し、新規に作る量も減らしたい」という。製造・再利用・リサイクルというクローズドなバッテリーエコシステムが確立されれば、バッテリーやEVのバリューを高めることができる。真田氏は「EVのフロアには「宝」が埋まっている」と表現した。バッテリーに再利用やリサイクルの価値が生まれれば、オーナーにとってもリセールバリューの向上といったメリットが生まれる。

バッテリーはエンジンよりも耐用年数が長くなってきている。車両プラットフォームの共通化も進み、自動車の耐用年数は現状よりも長くなる傾向だ。CASEが車の利用スタイルや販売モデルを変えるといわれる所以だ。EVのライフサイクルの考え方は、バッテリーエコシステムを回しながら、同じハードウェア(車両)でも機能やサービスをアップデートしながら長く使う方向になるだろう。

◆カーボンニュートラル・再エネは理想論か?

再エネや電動化というと「理想論だ」「破綻する」といった意見も根強い。トヨタは脱炭素社会に向けて、水素の可能性を探りながら現時点ではHV(内燃機関のクリーン化)が現実解だとしている(新社長はEVのラインナップ強化を示唆している)。水素エネルギーは国の長期戦略にも組み入れられているので、方向性は悪くない。個社の戦略・戦術の違いだ。

新興EVメーカーに追われる立場(成熟市場の覇者は勢力を広げる可能性より失うリスクのほうが高い)であり兵站に余力のあるトヨタにとって、全方位は強味を最大限に生かす合理的な戦略だ。だが、それ以外のメーカーにとって全方位が最適解とは限らない。

それに水素は天然資源ではなくエネルギーを使い製造する必要がある。製造および保存、輸送などインフラの課題も多い。IPCCでも水素エネルギーは2050年以降とみている。時間もコストもかかる技術だ。もちろん選択肢として研究開発は続けるべきだが、水素にしても合成燃料にしてもカーボンニュートラルなエネルギーが必要だということだ。水素の本命は再エネ電力のストレージ(燃料電池)と再エネ電力で作った水素による発電だ。出口戦略としてFCVは必要だが、インフラコストなどを考えると船舶、大陸間輸送の鉄道、トラックまでだ。

水素燃焼エンジンならエンジン技術や既存工場を守れるという意見もあるが、それは自工会の都合であって、水素インフラこそ電気が使えないような後進国、僻地では不可能なソリューションで、夢はあるが産業戦略として有望とはいえない。地域に根差すなら、地域ごとのバイオ燃料のほうが目があるが、これも各地で自然破壊による災害や食料価格への影響が問題になっている。

地政学的な問題が、カーボンニュートラルに影を落としている現状もあるが、特定資源国に左右されないという点では太陽光・風力が本来のソリューションのはずだ。石油を天然ガス、水素に変えても、日本にとって産地のリスク分散はできても本質的な解決にはならない。不安定な自然エネルギーは蓄電(バッテリー・水素)によって、ベースロード足りえなくても実用域に入っている。

業界が本気でEVシフトに取り組むなら、エネルギーエコシステム、バッテリーエコシステムを業界の協調領域として一体で考える必要があるだろう。

《中尾真二》

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