車内イマーシブオーディオ動向、ドルビーアトモスがデファクトへ…CES 2023 | CAR CARE PLUS

車内イマーシブオーディオ動向、ドルビーアトモスがデファクトへ…CES 2023

イベント イベントレポート
パナソニックの立体音響デモカー(CES 2023)
  • パナソニックの立体音響デモカー(CES 2023)
  • BOSEの立体音響デモカー(CES 2023)
  • BOSEの立体音響デモカー 室内の様子
  • BOSEの車内ノイズキャンセリング技術を体験
  • Diracブース(CES 2023)
  • Diracの立体音響チューニング技術についての説明

SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)に欠かせない要素として、オーディオ体験の向上にも注目が集まるようになっている。

CES2023において、各社から「イマーシブオーディオ」を実現するためのソリューションが展示・発表された。以下、イマーシブオーディオに関する動向をまとめてみたい。

◆ドルビーアトモスがデファクト化

本題に入る前に、イマーシブオーディオとは何かを簡単に整理しておこう。日本語では没入型音響、立体音響、3Dサラウンドなどと表現される音響技術で、モノラル>ステレオの次の進化形として期待されているものだ。

フォーマットとしてはドルビーアトモス、DTS:Xなどが知られている。映画館ではすでにこういった音響技術が導入されはじめているので、見かけた人もいるだろう。

この立体音響を車内でも再現しようとする動きが出ており、今回のCESで筆者が見た中では、一例を除きすべてドルビーアトモスに対応したものだった(その一例はソニーホンダモビリティの「AFFILA(アフィーラ)」で、ソニーが主導する360 Reality Audioに対応している)。

昨年、メルセデスベンツが『EQE』『EQS』でドルビーアトモス対応を果たしたのをはじめとして、ボルボや中国のNIO、小鵬、米EVベンチャーのLucid(ルーシッド)も対応するなど、車載の立体音響についてはドルビーアトモスがデファクトスタンダードとなりつつあるようだ。従来の2Dオーディオ(5.1chサラウンドなど)に、天井スピーカーを加えて実現される。実装の仕方によって9.1chから最大64chまで対応するとのことだ。

◆独自技術をアピールするBOSE

車載オーディオの高級ブランドとしてもよく知られているBOSE(ボーズ)。オプション設定でBOSEのスピーカーを見かけることも多いだろう。CES 2023においては、ドルビーアトモスを体験可能なデモカーを出展した。

筆者も以前はカーオーディオに凝った時期があり、スピーカー交換やデッドニングはもちろん、ネットワークモードやタイムアライメントなど、ひと通りマイカーをいじり倒した経験があるのだが、今回体験したBOSEのドルビーアトモス・デモカーは、従来の2Dオーディオとはまったく別モノであった。

デモカーでは、雷雨の中にいる時の環境音を再現したデモを聞いたのだが、雨や風、雷鳴の音が、あるべき方向から聞こえてくるという体験は、目をつぶると本当にその場にいるような感覚を覚えた。2Dオーディオはどこまで行っても“音”であるのに対し、ドルビーアトモスは“体験”である、ということが理解できた。

BOSEではそのほか、乗車中の疲れに直結する30Hz前後の走行中の低音ノイズを、クワイエット・コンフォートで知られる同社のノイズキャンセリング技術を使って除去するというデモも体験した。吸音材を使うより軽量・低コストで効果が得られるというものだ。

ラスベガスの街を、ノイズキャンセリングをON/OFFしながらドライブしたのだが、効果抜群とまでは言えないものの、荒れた路面の道で、タイヤがドラミングするような振動のようなノイズが抑制される効果を感じることができた。

◆多くのOEMが採用するDiracの技術とは

スウェーデンの音響技術企業であるDiracは、イマーシブオーディオを車載で実装する際の周波数特性やタイムドメインをモニタリングし、補正する技術をアピールした。

車載の立体音響は、20chや40chなど非常にスピーカー数が多く、車両に装着したうえでの周波数やタイムドメインの調整も非常に手間がかかる。

同社の技術は、通常20日かかる調整作業を、1日で完了することができるというものだ。手間をかけずにモニタリングができるデバイスと、音を簡単に調整可能なアプリケーションの組み合わせで実現する。この技術はすでに18の自動車メーカーが採用し、利用しているとのことだ。

Diracでも、ドルビーアトモスを実装したボルボのデモカーを体験することができた。最初に通常の2Dオーディオを聞いたあと、ドルビーアトモスの音源を聞いたのだが、まず音の解像度の高さに驚いた。ギターやドラム、ボーカルそれぞれの音が、それぞれの音としてハッキリと聞こえてくる感覚がある。そしてもちろん定位感は素晴らしく、歌手がどこにいるか、ギターの奏者がどこにいるか、(もちろん目には見えないが)その姿が見えるようにはっきりと認識することができた。

◆パナソニックのアプローチは逆転の発想

パナソニックのアプローチは、前述の2社とはまったく違うものだ。たった3つのスピーカーで立体音響を実現するという。具体的には、Aピラー左右の天井付近に2つのフルレンジと、ハイダウェイのサブウーハーで構成されたシステムとなっている。

デモカーでは、通常6スピーカーが搭載されているシボレー『ボルト』で、あえてスピーカーの数を減らして立体音響を実現するというもの。残念ながらデモを体験することはできなかったのだが、説明員に聞いたところ、より軽量で低コスト、かつ消費電力は通常の3Dオーディオシステムの半分以下に抑えることができるため、EV向けのソリューションとして最適とのことだ。

◆実はリビングより手軽で優れたリスニングルーム

以上のように、車載におけるイマーシブオーディオがついに普及の兆しが見えてきた。考えてみれば、家庭のリビングに立体音響のリスニング環境を整えることは割とハードルが高い。その点、車内であればスピーカーはライン装着されており、リスニングポイントもおのずと決まっているし、快適な椅子もある。

音楽ストリーミングサービスでも、Amazonミュージックアンリミテッドやアップルミュージックでドルビーアトモスの音源の配信が始まっており、もちろんネットフリックスなどの動画配信サービスでも配信されている。車内で立体音響を楽しめるようになるのも案外近いのかもしれない。

《佐藤耕一》

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