クルマを軽くする軽量化カスタムは運動性能の向上にかなり効果的。しかし、実はもっともお金が掛かって、費用対効果の難しい部分だけにポイントをしっかり抑えて行いたい。
◆軽さはほとんどのことに良い方向に作用する
軽量化は運動性能の底上げに直結するチューニング。軽くなれば加速が良くなり、ブレーキもよく止まるようになる。曲がるときも軽快になるし、ブレーキパッドもタイヤも減りにくくなる。サーキットでタイムを出すような走りに効くのはもちろん、一般道の走行でも燃費が良くなる。
では、軽量化をどんどんしたいところだが、これが実は難しい。自動車メーカー側でももちろん、クルマを軽くすることで燃費が良くなり、カタログ上に表記できる燃費の数値が良くなることは分かっている。そこで最近のクルマはかなり軽量に作られている。それでも昔のクルマに比べれば重くなっているが、それは衝突安全性を高めるためにボディが大きくなったり、衝撃を吸収するための構造物が増えているから。そういったボディが重くなる要素と相反する軽量化を実現するためにあらゆる部位に気を配っている。
最近のクルマでは軽量なアルミボンネットが増えている。素材を変えることによる軽量化がまず行われているのだ。例えばGRヤリスでは、ボンネットに加えて、ドアとトランクリッドまでをアルミ製にしてある。さらにルーフをC-SMCと呼ばれる炭素繊維に樹脂を含ませたカーボン素材とすることで大幅に軽量化している。そういった素材置換による軽量化がメーカー側で行われている。
カスタマイズの世界でも古くから軽量化は行われてきた。こちらでも素材置換による軽量化は定番で、カーボンボンネットなどが定番。鉄製ボンネットから交換すると10kgくらい軽くなることが多い。わずか10kgであるがボンネットはクルマの中でも比較的高い位置にあるので、ここが10kg軽くなるだけでもコーナリング時のロールが減る。意外と体感しやすい部分でもある。しかし、ボンネットがアルミ製のクルマの場合、ほとんど重量が変わらないのが正直なところ。なかなか軽量化も難しくなってきているのだ。
ちなみにカーボンボンネットでもウエットカーボンとドライカーボンがある。新品を10万円~15万円ほどで購入できるものはほぼ間違いなくウエットカーボン。このウエットカーボンはFRPとほぼ同じもので、カーボンのシートに樹脂を流し込んで固めるか、ガラス繊維のシートに樹脂を流し込んで固めるかの違い。強度や剛性にもほぼ差はなく、見た目の差がメインとなる。
対するドライカーボンはカーボンに樹脂を染み込ませたシートを高温高圧で焼くことで作るもので、レーシングカーなどに使われている。圧倒的な軽さと強さを実現できるが、ウエットカーボン製の2倍~4倍ほどの価格が一般的。こうした素材置換による軽量化がしにくくなっていることと、かなりのコストが掛かることを考えるとちょっと厳しい。
◆手を出しやすい軽量化としてバッテリー交換がある。
バッテリーは大きさの割にすごく重い。古くからBMWでは重量バランスを最適化するためにリアトランクにバッテリーを置いていた。GRヤリスでもトランクにバッテリーが設置されている。そうでないクルマでも少しでも重量物を車体の中心に近づけたほうが運動性能への影響が小さくなるので、最近のクルマではバッテリーがエンジンルームの後方にあることが多い。とくにストラットタワーよりも車体中心に置かれていることが多いのだ。それでも軽くなれば効果はあるし、比較的簡単に軽量化できるのがバッテリーなのだ。
過去にはバッテリーサイズを小さくするチューンも流行したが、単純にそれでは容量的に不安が増す。そこで最近はドライバッテリーが増えている。ドライバッテリーは通常のバッテリーだと電解液が満たされているが、これをゲル状にしたり、シートに染み込ませることで軽量にしたもの。サイズにもよるが1/3ほどの重量になる。86/BRZでテストしたところ15kgから5kgと約10kgもの軽量化になった。
◆シート交換で軽くなるのは現代のクルマでは難しい
ほかに軽量化しやすい部分としてはシートがある。純正シートからフルバケットタイプにすると15~20kgは軽くなり、運転席と助手席の両方をフルバケにすれば40kgも軽くなるのも夢ではなかった。しかし、最近のクルマは純正シートが軽く、昔ほど効果がないことが多い。フルバケットシートにしても同等の重量だったり、セミバケットシートに交換するとむしろ重くなることさえある。
それでも電動パワースライドシートなどであれば数十kg単位での軽量化も可能なので、軽量化の手段のひとつとして検討の余地はある。